「ニュースポータルとの契約に不満」6割、なのにメディアが配信を止められないこれだけの理由
「ニュースポータルとの契約に不満」6割、それでもニュースメディアがニュースの配信を止められない――。
公正取引委員会が9月21日に公表した「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」は、圧倒的な勢いを持つニュースポータルなどのプラットフォームと、地盤沈下に押されるニュースメディアの現状を浮き彫りにしている。
「ヤフーは優越的地位の可能性」「(ニュース使用料)算定方法を可能な限り開示を」といった公取委の認定・提言に加え、独自調査が描き出すプラットフォームとニュースメディアの、金銭を介した生々しい関係が目を引く。
報告書は、プラットフォームの課題だけでなく、「プラットフォーム依存」から抜けきれないニュースメディアの実態にも光を当てる。
それは、ニュースメディアの生き残りにかかわる重い課題だ。
●メディアの不満の中身
公取委が21日に発表した「ニュースコンテンツ配信分野に関する実態調査報告書」は、ニュースポータルが支払うニュース使用料(許諾料)についてのニュースメディアの反応を、契約締結時と現在とを比較しながら、そうまとめている。
ニュース配信に大きな存在感を持つニュースポータルなどのプラットフォームに対して、交渉力に格差のあるニュースメディアには根強い不満が以前からあった。
公取委はすでに2021年2月にまとめた「デジタル・プラットフォーマーの取引慣行等に関する実態調査報告書―デジタル広告分野の取引実態に関する最終報告書」の中で、ニュース使用料について、「算定に関する基準や根拠等について明確にされることが望ましい」などと提言を行っていた。
だが2022年11月、「同報告書で指摘した課題について改善が見られない」として調査開始を公表した経緯がある。
公取委は今回の調査にあたって、2022年11月から12月にかけて、日本新聞協会、日本雑誌協会、日本民間放送連盟の加盟社319社を対象にアンケートを実施、220社から回答を得ている。
回答をしたニュースメディアの62.9%が、ニュース使用料に不満を持っているというその内訳は、使用料の安さ(86.4%)、そして算定基準の不明確さ(70.1%)などだ。
●「使用料は不可欠」4割
公取委は、ニュースメディアにおけるニュース使用料収入の位置づけについて、そう述べている。
公取委の調査によると、ニュースメディアにおけるデジタル収入は、2017年度を1とすると2021年度は1.42に増加。
その内訳は、2017年度がニュース使用料収入16.7%、自社サイトでのデジタル広告収入56.1%、デジタル有料購読などの消費者向け販売収入が27.2%だった。
ところが2021年度にはニュース使用料が22.2%に拡大し、デジタル有料購読収入など(21.6%)を上回っている。デジタル広告収入は56.2%でほぼ同じだ。
デジタル広告収入を左右するサイト流入元は、ニュースポータルが57.5%、ネット検索が27.5%の計85.0%をプラットフォームが占めている。
さらに、その傾向は新聞、雑誌で顕著だという。
ここから見えてくるのは、デジタル有料購読が頭打ちのままで、プラットフォームからのニュース使用料と、やはりプラットフォームからの流入に依存する広告収入の比重が増していく、という傾向だ。
つまり、プラットフォーム依存から抜けられないのだ。
●不満に黙る理由
ニュースメディアは、ニュースポータルからの使用料に不満があっても、黙って契約を続ける。
不満を、すでに契約締結時に感じていたニュースメディアは43.8%に上る。それでも契約をしている。なぜか。
交渉力の圧倒的な格差によって、そもそも対等な契約交渉ができていないことがわかる。
それは、公取委がニュースポータル6社から聞き取り調査をしたニュース使用料のばらつきにも表れている。
そして、ニュースメディア各社のニュース使用料収入トップの事業者の中の割合では58.7%、トップ3の事業者の中では89.8%とそれぞれ1位を占め、流入元としても大きな存在感を持つのが、ヤフーだ。
公取委は、そう指摘する。
ニュース使用料収入トップ事業者で2位(14.3%)、トップ3事業者の中ではスマートニュース(60.7%)に次いで3位(51.5%)となっているのがLINEニュースだ。
ヤフーとLINEは2023年10月1日付で統合され、「LINEヤフー株式会社」となる。優越的地位の可能性は、さらに高まる。
●デジタルファーストの明暗
各ニュースメディアが初めてニュースポータルと契約を結んだ時期についての設問がある。
196社の回答は、2010年代に入って徐々に増加傾向が見られ、2017年に30社とピークを迎える。
さらに各メディアが使用料収入トップ3の事業者と契約を締結した時期を見ると、やはり2010年代に入って漸増傾向にあり、特に後半に急増。のべ537件の回答のうち、2018年には69件、さらに2021年には84件に上っている。
2021年は、メディア業界からのニュース使用料適正化要求の世界的な高まりの中で、グーグルが懐柔策として打ち出したサービス「グーグル・ニュースショーケース」の、日本版が開設された年だ。全国紙、地方紙、通信社など40社以上が契約を締結したという。
2010年代は、「デジタルファースト」と「バイラルメディア」がメディア業界を席巻し、ニュースメディアもデジタル移行に大きく舵を切った時期だ。
「デジタルファースト」は2011年にガーディアンが旗印として掲げ、ニューヨーク・タイムズが2014年にまとめた改革レポート「イノベーション」でも大きく取り上げられた。GAFAの一角を占めるアマゾンの創業者、ジェフ・ベゾス氏がワシントン・ポストを買収したのは2013年だった。
※参照:「読者を開発せよ」とNYタイムズのサラブレッドが言う(05/12/2014 新聞紙学的)
※参照:ニューヨーク・タイムズが「紙」の編集会議を廃止し、デジタルに専念する(02/21/2015 新聞紙学的)
※参照:ワシントン・ポストと1万年を刻む時計(08/12/2013 新聞紙学的)
グーグル、フェイスブック、ツイッターなどのプラットフォームの急成長と、特にソーシャルメディアでの拡散に長けたハフィントン・ポストやバズフィードなどの「バイラルメディア」の台頭もこの時期の特徴だった。
「デジタルファースト」の旗を振ったニューヨーク・タイムズは、その旗を掲げたまま2022年2月にはデジタル有料購読1,000万件突破を公表する。
ニューヨーク・タイムズが「デジタルファースト」とともに掲げたのが、デジタル有料購読者の獲得「読者開発」だった。
だが公取委の調査が示すように、日本ではデジタル有料購読が伸び悩み、プラットフォーム依存の比重が増している。
メディアが不満を抱えながら、身動きが取れない事情の一端がここにある。
●「読者開発」の必要性
「ニュースコンテンツが国民に適切に提供されることは、民主主義の発展において必要不可欠」と公取委は指摘している。
その背景には、プラットフォームの拡大とニュースメディアの地盤沈下が、フェイクニュース拡散などの情報環境汚染とともに、社会に深刻な影響を及ぼすというグローバルな認識がある。
オーストラリアやカナダで、相次いでプラットフォームとニュースメディアのニュース使用料契約締結を後押しする法律が成立し、米国でも法案審議が続いていることと、地続きの問題だ。
※参照:Google、Facebook「支払い義務化法」が各国に飛び火する(03/01/2021 新聞紙学的)
※参照:Facebook、Instagram「ニュース停止」の衝撃、生成AIで複雑化する攻防とは?(06/25/2023 新聞紙学的)
公取委は2022年6月には、ニュース使用料をめぐるデータ開示について、複数のニュースメディアで要請を行うことなどは、独占禁止法に抵触しない、とする見解も公開している。
※参照:巨大プラットフォームとメディア 公取委がニュース使用料をめぐる「共同要請」を認めた背景とは?(07/25/2022 民放online)
日本でも、ニュース使用料の算定基準の透明化と金額の適正化の交渉は、早急に進める必要があるだろう。
ただ、持続可能なジャーナリズムを目指すニュースメディアにとって、「読者開発」はさらに重要で、喫緊の課題だ。
(※2023年9月25日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)