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大学入試は変わるかもしれないが、子どもたちに「良い子」を強いることになりかねない

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:beauty_box/イメージマート)

 大学入試の「かたち」が変わってきている。それで従来の入試では評価されなかった才能が発掘されるようになれば大歓迎だが、違う方向ならば困ったことになる。

■1発勝負の入試は変わるのか

 国公立大学で総合型選抜(旧AO入試)と学校推薦型選抜(旧推薦入試)を実施する数が、過去最多となっている。文科省が1月29日に公表した、2021年度の入学者を選抜する入試の概要で明らかになった。各大学が2020年7月末までに公表した入学者選抜要項等をもとにまとめたものだ。

 2020年度より始まった新しい総合型選抜と学校推薦型選抜は、書類や面接のみで選考していた旧来のものとは違い、さらに小論文や口頭試問、共通テスト、実技、科目試験などの評価方法を導入した入試方式である。より評価の項目が広がったといえる。

 総合型選抜を21年度に実施する国立大学は63校で、昨年度より4校増えている。学部になると21年度は250学部で、昨年度より28学部増えている。公立大学では学校数は昨年と同じ36校なのだが、学部では74学部と昨年度より11学部増えている。

 学校推薦型選抜のほうは、国立大学で76校と昨年度と変わらないが、学部は279学部で昨年度より8学部減っている。公立大学では昨年度より2校多い91校、学部では6学部増えて199学部となっている。

 多少ではあるが、総合型選抜や学校推薦型選抜の導入が積極化してきていることが感じられる。私立大学も、いっそう積極的に導入してくるだろう。

 ここから、学力試験のみで合否が判定される従来の入試制度が大きく変わっていくのだろうか。旧AO入試も、学力試験のみで判定される入試制度への疑問から誕生したはずだった。しかし、入試制度が大きく変わったとはいえないのが現状である。

 ただ旧AO入試と20年度から導入された総合型選抜や学校推薦型選抜が違うのは、評価の項目が増えたことだ。旧AO入試は狭い意味での個性や適性で判定されたが、その基準があいまいだったことが問題と言えば問題だった。だから、新制度では評価項目を増やしたといえる。

 しかも総合型選抜や学校推薦型選抜の導入が積極化している現在、文科省は「教育データ」の利活用についての議論を有識者会議をはじめとして活発化させている。教育データを文科省は、「初等中等教育段階の学校教育における教育・学習に関するデータ」と定義している。

 つまり、小学校から高校までの教育・学習に関するあらゆるデータをデジタル化し、それを活用しようとしているのである。学業成績は当然、学校での生活態度にいたるまで、学校生活のすべてをデジタルデータ化しようとしているのだ。いわば、新たな「内申書」だ。

 この教育データを使えば、総合型選抜や学校推薦型選抜での評価項目の幅をぐんと広げることも可能である。1回の学力試験による合否よりも、より説得力のある合否判定ができるかもしれない。そうなると、入試の主体が総合型選抜や学校推薦型選抜になる可能性も否定できないわけだ。

 懸念されるのは、総合型選抜や学校推薦型選抜を目指して「素晴らしい教育データ」づくりがエスカレートすることである。良い評価をもらうために、子どもたちは「学校の望むこと」を強いられるかもしれない。内申書のために「良い子」を強いられる構造がエスカレートすることになる。

 学校としては子どもを管理しやすくなるかもしれないが、それが子どもたちのためになるのかどうか疑問と言うしかない。学校が、「あるべき姿」からどんどん遠のいていくかもしれない可能性もある。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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