アルゼンチンに大勝!「W杯とは違う厳しさ」パリ五輪予選に向け、なでしこジャパンが再スタート
【アルゼンチンに大勝】
なでしこジャパンは9月23日、アルゼンチン女子代表との国際親善試合に8-0で快勝した。
北九州スタジアムのスタンドには7,200人超の観客が入り、今夏のワールドカップで8強に進出したチームに温かい声援を送った。
日本にとってこの試合は、10月に始まるパリオリンピックのアジア2次予選前唯一の強化試合。アルゼンチン女子代表は、FIFAランキングは日本の8位に対して31位で、今夏のワールドカップにも出場した。サッカーのスタイルがアジアのライバルでもある韓国と似ていることもマッチメイクの決め手となった。
池田監督は「アジア予選に向けて、チームとしてやれることを増やしていきたい」と、この試合で新機軸を打ち出した。それが、4-3-3の新フォーメーションだ。
ワールドカップでは、3-4-2-1を採用。相手にボールを持たれる時間が長くなることも想定し、守備時には5バックで海外勢のクロスを跳ね返し、素早い切り替えからカウンターの強みを発揮した。一方、アジアの戦いを見据えた時には、日本がボールを支配する時間が長くなる可能性が高く、攻撃面で強みを活かせる戦い方が必要になる。
「(4-3-3は)中盤の人数を増やしてボールを安定させることもそうですし、攻撃のバリエーションが増えるのではないかと思います。ワールドカップでは幅を使った攻撃が機能した部分もあったので、そういう部分は生かしながらやれることを増やしたいと思っています」(池田監督)
3バックとの大きく違うポイントの一つは、熊谷紗希のボランチ起用だろう。
代表ではセンターバックの要だが、これまで、リヨンやバイエルン・ミュンヘンでは中盤で攻守の舵取り役も担ってきた。それによって、ダブルボランチの長谷川唯と長野風花が一列前でインサイドハーフを形成し、攻撃に絡むことができる。
センターバックは南萌華と高橋はなの浦和(出身)コンビが先発し、GKはワールドカップで5試合に出場した山下杏也加ではなく、平尾知佳がゴールを守った。先発メンバーは、新たなポジションでのチャレンジや、控えの選手層を厚くしていく狙いが明確だった。
試合は開始2分、田中美南が、相手センターバックのDFアルダナ・コメッティのコントロールミスを見逃さずに奪い先制。その後もアルゼンチンのマンマークに対して流動的にポジションを変えながらボールを動かし、前半のうちに長谷川がPKを含む2得点と、高橋のダイビングヘッドで4ゴール。
後半はアルゼンチンが自陣に引いて中央の守備を固めてきたのに対し、選手交代でギアを上げ、清家貴子(2得点)と杉田妃和、植木理子のPKによる得点で8-0と大勝した。
池田ジャパン発足以来過去最多得点だ。好成績を残した昨年のアジアカップ(3位)やE-1選手権(優勝)では、ボール支配率で相手を凌駕しても、枠内シュートの数が伸びなかったり、最後の局面で決めきれなかったりと、明確な課題も残った。だが、この試合では効果的にゴールに迫って21本のシュートのうち14本を枠に飛ばし、効果的に得点を重ねた。
ただし、アルゼンチンのコンディションは最悪に近かった。リベルタドーレス杯と日程が重なり、ボカ・ジュニアーズでプレーする主力選手7名が欠場。加えて、アルメニア上空でアゼルバイジャンの軍事行動があったため飛行機が引き返し、5本のフライトを乗り継いでようやく来日。試合までの準備期間は1日しかなかった。
「私の人生の中で一番長い旅を今回することになりました」と、厳しい条件下での試合に懸念を示していたヘルマン・ポルタノバ監督は、大敗の結果を受けて、落胆を隠せない様子だった。
「日本のような強豪に対して大きなアドバンテージを与えた状態での試合になりました。日本にとってもアルゼンチンにとってもこの点差を見ると役立つ内容にはならなかったと思います」
【大勝から見えたもの】
一方的な試合展開の中で、守備面ではほとんど見せ場がなかった日本だが、攻撃面では新しいチャレンジの成果も見えた。
「焦らず、引いてくる相手に対してタイミングを窺いながらボールを動かして、得点も重ねられたので良かったです」(熊谷)
熊谷の球際での安定感や力強いコーチングは、前線の流動性を高め、相手を崩すアイデアやコンビネーションを引き出した一つの要因だろう。攻撃面では、ワールドカップでも日本の武器になった左サイドの宮澤ひなたと遠藤純のホットラインからのクロスが目立ったが、アジア予選では対策も厳しくなるだろう。
その意味で、中央突破の形がいくつか見えたのは頼もしかった。WEリーグで結果を残してきた清家の活躍は想定内だが、ラスト30分で2ゴール1アシストと、先発陣を脅かす結果を残したのはとても頼もしい。自身2得点目のループシュートは、味方からも惚れ惚れするような声が上がるほどのビューティフルゴールだった。その清家から杉田へのロングボールという、これまでには見られなかったコンビネーションから生まれたゴールもあった。
右サイドは、新たなコンビネーションを模索している感がある。レギュラー組の藤野あおばは出番がなかったが、個で局面を打開でき、かつ味方の特徴に合わせて判断を柔軟に変えられる点で、頭ひとつ抜けている気はする。
一方、ワールドカップ以前から、セットプレーのゴールがないのはやはり気になる。多様にデザインされたセットプレーや、鋭いカーブがかかった猶本光のキックがゴールを脅かすシーンはあるものの、ゴールネットを揺らすには至っていない。
「セットプレーの攻撃のバリエーションは積み上げができていますし、交代選手も役割をしっかり理解して入ってくれています。ただ、最後の質の部分は上げていかなければいけない」と池田監督。
コーナーキックの2次攻撃から生まれた高橋のゴール(3点目)は一つの収穫だが、「日本はセットプレーが脅威と認識」されるまでにはまだ時間がかかりそうだ。
【2枠を巡る厳しいアジア予選】
なでしこジャパンはこの後、10月中旬に行われるキャンプを経て、パリオリンピックのアジア2次予選へと向かう。日本はウズベキスタンで、10月23日から11月1日にかけてインド、ウズベキスタン、ベトナムと対戦。各グループ首位と2位の最高成績チームの合計4チームが最終予選に進み、来年2月末にホーム&アウェーで行われる決定戦で勝利した2チームがオリンピック出場権を獲得する。ワールドカップでベスト4になったオーストラリアや、久々に国際舞台に戻ってきた強豪・北朝鮮も参戦する。
日本は2016年のリオデジャネイロ五輪予選では敗退し、2021年の東京五輪は自国開催のため予選がなかった。
アジア予選は、他の大会とは違う難しさがある――。歴代の代表選手たちは皆、そう口を揃えてきた。世代別代表で厳しいアジア予選を勝ち抜いてきた南も、その厳しさはイメージできるようだ。
「なでしこジャパンに入ってから五輪予選は経験していないですが、アンダー(年代別代表)の時も、ワールドカップよりアジア予選がきつかった思い出しかないです」
その要因としては、体格が似ていることや、球際の粘り強さ、“良さを消し合う”試合になることなどが挙げられる。予選までに、そうした要素を凌駕するための組織的柔軟性や個の力をさらに高めつつ、情報戦でもアドバンテージを得たい。
「最後に決定戦をする相手がどこになるかわからないですし、どことやっても最後は厳しい戦いになる」と長谷川は言う。一方、「このチームなら上に行けると思うので、いい準備をして臨みたいと思います」と、今回の活動や試合を通じて確かな手応えも口にした。
現在、アジア競技大会を戦っているもう一つの日本女子代表も、22日の初戦で8-0でバングラデシュに快勝。なでしこジャパンのBチームの位置付けではあるが、ワールドカップメンバーだった千葉玲海菜やトレーニングパートナーとして帯同した谷川萌々子、東京五輪に出場した塩越柚歩を筆頭に、次世代のスター候補たちも出場している。率いるのは、U-19代表を率いる狩野倫久監督。25日夜にはネパール戦、28日にはベトナム戦が行われる。
なでしこジャパンメンバー入りへのサバイバルからも目が離せない。