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納得の展開、スッキリの結末。暴力的で血まみれの愛の賛歌、映画『ザ・トリップ』

木村浩嗣在スペイン・ジャーナリスト
ノオミ・ラパスは『LAMB/ラム』もうまかったが、この作品もうまい!

最初に言っておきたいのは「予告編」を見てはいけないこと。

この作品にはいくつかのサプライズやどんでん返しがあるが、それらの中でも重要なものがネタバレしている。よって、未見でいきなりテレビの前に座ろう。

見る気にさせる予告編もあるが、この作品のそれは見ることのマイナスの方がプラスよりも大きい。

■予告編を見てはいけない!

1分間やそこらの予告編で、これだけネタバレしているのは、それだけサプライズやどんでん返しが多い、という証明でもある。

で、優れているのは、それらサプライズやどんでん返しに無理がない、こと。すべてきっちり伏線として事前に提示されている。

見ていてちょっと引っ掛かる映像とか、気に掛かる会話や音の中に次に起こることのヒントが隠されているのだが、それはその時には気付かず通り過ぎていき、いきなり現れる。

驚きなのに、ああ、そうだったのね、と納得させてくれる、見せ加減と隠し加減が絶妙なのである。

伏線を回収してくれない欲求不満がなく、見終わった後はスッキリだ。何なんだ? どうしてなんだ?という物語を邪魔するクエッションマークが生まれないのは、優れた脚本のお陰で、見ている方は純粋にお話に没頭できる。

■伏線をスッキリ回収。騙されてうれしい

登場人物の性格やプロフィールにもブレがない。

出て来るのはどうしようもない人物ばかりだが、そのどうしようもなさぶりが一貫している。

振る舞いも発言もまさにその人物そのもの。悪人が善人に理由なく変身したりしない。ハッピーエンドや美談に向けての、作り手のご都合主義が排除されているのである。

当然、悪の描写、特に暴力と血の描写は容赦ない。ここをボカして検閲していては、作品として一貫性がなくなる。見せるべきところは見せないと、説得力を失う。

例えば、ハリウッド映画には“子供は殺さない”という暗黙の了解があって、本来、最も悪に脅かされそうな彼らが脚本的に守られてしまうと、不自然さが生まれる。

『ザ・トリップ』のような作品にとっては、タブーはなければないほど良い。

■こんな人は見てはいけない

もちろん、残虐シーンはすべての鑑賞者向きではない。

予告編を見ないように勧めた手前、「こんな人には『ザ・トリップ』は向いていない」というのを書いておこう。

向かない人――。

●暴力が嫌いな人(言葉の暴力も含む)

●血が嫌いな人

癒やされたい人

とはいえ、見た後には私の場合は爽快感が残った。

伏線をきっちり回収の爽快感。

サプライズに騙された爽快感。

笑っちゃいけないことを笑った爽快感。

そして、作品のメッセージの爽快感。

これは結局、“最後は愛が勝つ”ではないのか? 血まみれで暴力的で愛とは正反対に見えて、愛の力を肯定するお話ではないのか?

多分、カップルで見る人はいないだろうが、“ちょっと最近うまくいってないな”という二人が学ぶことがあるかもしれない。

※『Netflix』で配信されている。

※写真はシッチェス国際ファンタスティック映画祭提供

『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』も面白いトミー・ウィルコラ監督作
『処刑山 ナチゾンビVSソビエトゾンビ』も面白いトミー・ウィルコラ監督作

在スペイン・ジャーナリスト

編集者、コピーライターを経て94年からスペインへ。98年、99年と同国サッカー連盟のコーチライセンスを取得し少年チームを指導。2006年に帰国し『footballista フットボリスタ』編集長に就任。08年からスペイン・セビージャに拠点を移し特派員兼編集長に。15年7月編集長を辞しスペインサッカーを追いつつ、セビージャ市王者となった少年チームを率いる。サラマンカ大学映像コミュニケーション学部に聴講生として5年間在籍。趣味は映画(スペイン映画数百本鑑賞済み)、踊り(セビジャーナス)、おしゃべり、料理を通して人と深くつき合うこと。スペインのシッチェス映画祭とサン・セバスティアン映画祭を毎年取材

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