「異議なし!」ゲームもプレイしたヅカオタが語る宝塚歌劇宙組『大逆転裁判』
大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティ、そしてKAAT神奈川芸術劇場にて上演されている宙組公演『大逆転裁判』を観た。
この作品は、カプコンのゲーム『大逆転裁判』を舞台化したものである。時は明治時代、駆け出しの弁護士・成歩堂龍ノ介(瑠風輝)がひょんなことから大英帝国・ロンドンの法廷にてある事件の弁護をすることに。彼をサポートするのが法務助士の御琴羽寿沙都(山吹ひばり)、あのシャーロック・ホームズ(鷹翔千空)も持ち前の推理力を発揮する。
さらに、成歩堂と敵対する凄腕検事バロック・バンジークス(優希しおん)、大英帝国の首席判事ハート・ヴォルテックス(秋奈るい)、ホームズの相棒の天才少女アイリス・ワトソン(美星帆那)、事件の捜査を担当する刑事トバイアス・グレグソン(鳳城のあん)、日本からの留学生で何故か事件に巻き込まれてしまう夏目漱石(凰海るの)、そして、成歩堂の盟友・亜双義一真(風色日向)など、ゲームでおなじみのキャラクターたちが登場する。
◆キャラクターの再現度に「異議なし!」
かくいう私、2009年にタカラヅカで『逆転裁判』が上演されたときに、ゲームの方も一通りやってみてすっかりハマってしまった者である。そして今回ももちろん、事前にゲーム「大逆転裁判」をプレイし、予習は完璧の状態で観劇に臨んだのだった。
したがって、幕開けのゲームのキャラクターが勢ぞろいするシーンから、いきなりテンションが上がった。その後も、各キャラクターがゲームと同様のポーズをしてくれるたびに大喜びして拍手を送ってしまった。
衣装、髪型から仕草に至るまで、とにかくキャラクターの再現度が高い。成歩堂はゲームと同じ黒の学ランをスタイリッシュに着こなして登場し、「異議あり!」「待った!」「くらえ!」などゲームでおなじみのセリフを連発。ゲームでガックリした時に見せるユーモラスな表情も見せてくれる。
やけに大袈裟な仕草での説明が多いシャーロック・ホームズの一挙一動からも目が離せない。何かにつけて四字熟語を使いがちな夏目漱石も、四字熟語のたびにポーズを決め、彼が飼っている猫「ワガハイ君」も肩に乗っかっている。グレグソン刑事はフィッシュ・アンド・チップスを常に食べている。
さらに、さすがに舞台では実現が難しいのでは?と思っていた、柔道の投げ技のような「寿沙都投げ」も舞台ならではの工夫で見せてくれた。
検事席にてワイングラスを傾けながら成歩堂に対峙するバンジークスは、激昂するとワイングラスやボトルを投げるのだが、これらも全て実演してくれた。検事席の上での「踵落とし」までやってくれる。足が高々と上がるダンサー優希しおんがこの役にキャスティングされる理由はここにもあったかと納得してしまった。
まるでゲームをプレイしているかのような感覚で舞台が進行していくのも心地良い。証人への尋問、証拠を次々と提示しての立証などが、耳馴染みのある音楽と共に、スピーディなテンポ感で行われていく。ゲームではホームズと成歩堂のコンビで行われる「論理と推理の実験劇場」も再現される。そして、亡くなった盟友、亜双義との絆が要所要所でしっかり描かれるのも嬉しい。
◆オリジナルのストーリーにタカラヅカらしい工夫
いっぽう、ストーリーはタカラヅカのオリジナルである。バッキンガム宮殿で催される華やかな仮面舞踏会の席で事件が起こるという設定は、いかにもタカラヅカらしい。
夏目漱石が殺害され、容疑者としてシャーロック・ホームズが捕えられてしまうという展開には最初、少々面食らった。だが、単なる殺人事件かと思いきや、そこに大英帝国から独立したという小国ゼングファ共和国との緊迫した国際関係が絡み、最後には予想外のどんでん返しが待っていた。平和への切なる願いが伝わってくる結末は、爽やかで後味が良い。
事件の鍵を握るのがゼングファ共和国大使のブラッド・メニクソン(汝鳥伶)と、バッキンガム宮殿の執務長ニーナ・ジョーンズ(天彩峰里)。この2人はゲームには登場しないオリジナルキャラクターである。だが、大使ブラッドが「ぐぐぐ…」と言ったり、証言台に立ったニーナが決定的な証拠を突きつけられた時、ショックのあまりくるくる回転したり、いかにもゲームに出てきそうな仕草もしてくれる。
さらに証人としてヴィクトリア女王(小春乃さよ)までが証言台に立ち、事件の解決に向けて大活躍。飄々として愉快な女王陛下は、これまたゲームに出てきそうだ。そんな荒唐無稽な設定もこの作品なら「アリかな」と思えてしまう。
万国博覧会で賑わうロンドンの街の人々の姿や、激務で知られたというスコットランドヤードの巡査たちの仕事ぶりを描くシーンが盛り込まれるのも舞台ならではの楽しさだ。
◆観客も幸せな気分にさせられる、成歩堂と寿沙都の関係
そして、もう一つタカラヅカらしい絶妙なアレンジが加えられているのが、成歩堂と寿沙都の関係である。「法務助士」という立場で弁護士である成歩堂を献身的に支える寿沙都だが、この寿沙都に成歩堂がほのかな恋心を抱いている様子がさりげなく描かれる。これがなんとも微笑ましいのだ。
元のゲームにはいないヒロインを登場させ、恋愛要素を加えるという翻案はこれまでの逆転裁判シリーズでも行われてきた。だが、今回は恋愛要素のさりげないブレンド具合が、絶妙である。新たなキャラクターが追加されている訳ではなく、ゲームの二人からも想像できなくはない関係でもあるため、無理がなくナチュラルで、見ている側まで幸せな気分にさせられてしまう。
なお、タカラヅカ版は2つの謎を残したままで幕を閉じる。ひとつはバンジークスが日本人を憎む理由が「10年前の事件」にあるらしいこと、そして、もうひとつは成歩堂が最後の場面で亜双義の姿を見ることだ。これらの謎はゲーム「大逆転裁判2」で解き明かされるようである。筆者は現在「2」の第3話まで終わったところだが、引き続き最後までやらねばと思う。
ゲーム原作ならではのこだわりと、タカラヅカらしさの両方が満載のこの作品、ゲームのファンの方にも是非、観て欲しいなあと思うのだった。この作品がゲームファンとタカラヅカを繋ぐ架け橋となることを願っている。