弾道ミサイル防衛専用艦「BMDシップ」とイージスアショア代替案
イージスアショア代替案は「発射機の分離設置」「イージス艦の増勢」「メガフロート」の3種類の方法が提示されていましたが、新たにイージス艦の増勢に近い案として「迎撃専用艦」の建造案が浮上しました。この迎撃専用艦はイージス・システムを搭載するのでイージス艦の一種とも言えますが、設計を弾道ミサイル防衛(BMD)に絞って能力を特化させようという提案です。
弾道ミサイル防衛専用艦(BMD Ship)
弾道ミサイル防衛専用艦(BMDシップ)という考え方は4年前にアメリカの造船会社ハンティントン・インガルス・インダストリーズが提案しています。これはドック揚陸艦をベースとして大きな船体を活かして大面積のレーダーパネルを搭載し、イージス艦よりも探知距離を増やそうという計画でした。
- (PDF) BMD SHIP 30’ Slewable Array / SPY +45dB | Huntington Ingalls Industries
- (PDF) BMD SHIP 3 Face Array / SPY +45dB | Huntington Ingalls Industries
ただしハンティントン・インガルスのBMDシップ案は大きなドック揚陸艦の船体を流用するので、通常のイージス駆逐艦よりも建造費用は高価なものになるでしょう。
イージス・フリゲート(AEGIS Frigate)
海上自衛隊の最新イージス護衛艦「まや」の建造費用は約1700億円です。それも搭載レーダーは従来型のSPY-1でこの費用ですから、新型レーダーのSPY-7を搭載した場合は1隻2000億円近くになる可能性があります。
そこで基準排水量8200トンの駆逐艦である「まや」型の改型ではなく、半分の大きさのフリゲートで建造すれば船体の費用を圧縮できます。しかし建造費用は3割ほど安くはなりますが、必要な船員の数はあまり変化は無いので、安くなるからと言って調達隻数を増やそうとした場合には人員確保の問題がより大きくなってしまいます。
イージスアショアは24時間365日連続稼働可能、艦艇は休養と整備で年間半年の稼働と考えると、イージスアショア2基の代替には弾道ミサイル防衛専用艦4隻は欲しいところですが、建造費用と人員の確保の問題は「まや」型イージス護衛艦より安くなる小型専用艦でも解決しきれません。
なお弾道ミサイル防衛のみに専任するのであれば、主砲を外して空いた場所に迎撃ミサイル用の垂直発射機(VLS)を増やしたり、あるいはヘリコプター格納庫の場所にVLSを搭載するなど、迎撃専用艦としての改設計を行ったフリゲートとして建造することも選択肢となります。
イージス哨戒艦(AEGIS OPV)
艦隊を組まず単艦で展開する弾道ミサイル防衛のみに専任するならば、最大速力は遅くても構いません。最大速力30ノット以上のアメリカ海軍の空母に随伴しなくてよいのであれば、駆逐艦やフリゲートではなく哨戒艦として最大速力20ノット程度の船体幅が広い設計にすることが可能で、船体規模が小さくとも航洋性が高く航続距離が長い船として建造できます。
船体規模の小さなフリゲートでは大きなレーダーを装着することが出来ない可能性がありますが、船体規模の割りに安定性の高い哨戒艦ならば大きなレーダーを装着しても安定して航行できる利点が生まれます。ただしそのような装備の哨戒艦はこれまで世界に存在しておらず、イージス・システムと迎撃ミサイルを搭載する特殊な哨戒艦となり、同サイズのフリゲートと比べて建造費用は少し安くなる程度になります。
イージスアショア代替案として日本政府が検討する弾道ミサイル防衛専用艦は調達費用をなるべく安くする方針になるでしょう。それでも陸上設置のイージスアショアと比較した場合にはより高価なものに成らざるを得ません。そして海上自衛隊の負担は大きく増すことになります。
※2020年9月30日追記:当記事で紹介しなかった自己防御力の無いBMD専用艦「イージス貨物船」の例を紹介した記事へのリンク。