【泉南市】“期待を裏切る”のに「客でにぎわう」炉端焼き店。39年地元で愛される理由と大将の意外な一面
謹んで新春のご挨拶を申し上げます。
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
(「令和6年能登半島地震」により被災されたみなさまへ心より御見舞い申し上げます)
「灯台下暗し」とはこのことをいうのだと感じました。
こんな近くに、こんな素敵なお店があったなんて。
“期待を裏切る”というのは、もちろん良い意味で。
どんな裏切りが散りばめられているかは、記事を読んで感じてみてください。
今回ご紹介するお店は、泉南市立図書館前に店を構える ろばた焼き「松千(まつせん)」。
39年地元で愛される老舗の炉端焼き店です。
「昔、行ったことがある」「お店の存在は知っているけど行ったことがない」
という方も多いのではないでしょうか。実は昔、わたしも家族で訪れたことがあります。
囲炉裏で炙る「地魚」や「無農薬野菜」の美味しさ、コの字カウンターで見知らぬ人と親しくなれる楽しさ、ちょいちょい飛び出す大将のおやじギャグにずっこける可笑しさなど、五感で楽しめるあったかいお店。
2023年の締めくくりとして、十年来の友人と開催した「女二人の忘年会」。
このお店にして大正解でした。
日も暮れかけた冬の17時。この日は風も強く凍えるような寒さでした。
友人曰く、「炉端焼き」は“人生で初体験”なんだとか。もう長い間、生きているわたしたちですが、そんなこともあるものなのだと妙に感心したりして。
それでは、いざ入店。
入店してまず驚いたのは、とても広くてきれい、ということ。
「炉端焼き」のイメージって、少し古びた狭い空間で煙モクモクの中食べるものだと思っていましたが、その印象がすっかり覆されました(もう長らく行ってないので改めて驚いた)。
入口正面に大きなコの字カウンター、奥の小上がり席にはテーブルが4卓配されています。この店内、なんと“総ヒノキ”なんだとか! 確かに炉端焼き店に似つかわしくない、どこか高級寿司店のようなそんな雰囲気もあります。
備長炭の火をおこしていた大将が、「海の状態が悪くて今日はあまり魚が揚がってないんよ~」とちょっと申し訳なさそうにポツリ。
それでも店内には、魅力的な焼き物、一品もののメニューがズラリと並んでいます。
手書きの「木のお品書き」にほっこりしたり、
女子ウケしそうな創作メニューにワクワクしたり、
目の前に盛られた食材を眺めるのも楽しい時間です。
聞くところによると、焼き物メニューはざっと110品ほどあるのだとか。
この他にも、「本日のメニュー」としてホワイトボードに登場する その日獲れた新鮮な地魚のお造り(*夕市直送)や、旬のものなど、“当日のお楽しみ” 的な要素満載のメニューも魅力のひとつ。
*「太与茂徳水産」の夕市で仕入れています。
常連さん曰く、「焼き鳥」や「揚げ出汁豆腐」も絶品なのだとか。
食べたいものが多すぎてなかなか決められないので、ある程度おまかせで「本日のおススメ」を出してもらいながら、気になるメニューもオーダーすることに。
「今日は寒ブリがおススメだよ!」と女将さんの威勢のいい声が厨房から聞こえてきたので、まずは寒ブリから!
脂ののった寒ブリが網でじっくりと焼かれていく姿を見ながら焼酎を一杯いただくのも乙なもの。今日は残念ながら車で来ているので呑めません(呑みたい!)。
他にもおススメのイワシのみりん干しや、椎茸、せせりなども次々と焼いてくださいます。チリチリパチパチと焼けていく音と共に炭の香ばしい匂いが…。
目の前で焼いてくれるこのライブ感がたまらないんだよなぁ。
そして、「はいよ~!」と差し出された長いしゃもじの上には香ばしく焼かれた熱々の寒ブリが乗ったお皿が!
「炉端焼き」初体験の友人は「びっくり! でも楽しい!」と笑います。
仙台発祥といわれる「炉端焼き」は、囲炉裏で焼かれた魚介類や野菜(主に)を長いしゃもじでお客様へ運ぶ「提供スタイル」もひとつの特徴。“炉端焼き”を謳うお店でもこの「提供スタイル」を継承しているお店は、今はもう少ないらしく、市内でも1~2店舗ほどではないかな~、と大将。
受け取る瞬間、「わー!」と歓声があがり、まわりのお客さんも笑顔に。
いつの間にか、お客さんでいっぱいになったコの字カウンターは笑い声と笑顔であふれています。
もちろん、わたしはみなさんとは初対面。それでも提供される料理をのぞき見しているうちにすぐに打ち解けて、まるでチームのように。
見知らぬ人同士がすぐに仲間になる感じ、そうだ! 「博多の屋台」のあの感じに似ている! と思い、先日、家族で行った福岡旅行を想い出しました。
こだわりの備長炭で炙った新鮮な地元食材は、シンプルな塩をメインに甘辛いたれに絡ませるなど、もう美味しくて最高。
「泉だこ」や「椎茸」「せせり」などがしゃもじに乗って次々と運ばれてきます。
ちょいちょい飛び出す大将のおやじギャグや、夫婦漫才のような掛け合いも可笑しくて、それを懸命に支える息子さんや2人のお孫さん(なんと思春期真っ盛りの中高生!) まで登場して、家族総出で店を盛り上げる姿にすっかり魅了されてしまいました。(実は、写真に娘さんや女将の妹さんも写っています 笑)
焼き物メニュー以外にも、女心を捉えた「創作料理」があるのもこのお店の魅力。
この日は迷いに迷った結果、「つくねチーズ」400円、「明太フランス」480円、「地ダコのカルパッチョ」680円をオーダーすることに。
こんもりとま~るい「つくねチーズ」は、食べ応え抜群。箸を入れると肉汁があふれ出します。炭火で焼いた香ばしさとチーズのなめらかさ、しっかり甘いたれが言わずもがな好相性なひと品。
待ってました! 「明太フランス」。これ、とてもパンがふんわりしていて美味しいんです。酒の肴に合うようにどの料理も味付けがしっかりしていて、結果どれを食べても酒が呑みたくなる 笑。
「地ダコのカルパッチョ」は、「直七を絞って~!」って「直七って何?」。
どうやら「直七」とは高知県の特産品らしく、魚料理に欠かせない食酢として古くから人々に愛されている香酸柑橘の一種なんだそう。魚屋の直七さんが、魚にかけると美味しいと勧めたことからこのユニークな名前がついたという説も。味はスダチよりもフルーティーで酸味もそれほど強くない感じ。コリコリの地ダコにドレッシングを絡めた香味野菜と玉ねぎをのせてパクリと頬張る至福のひと時。「創作料理」に関してだけ言えば、「ここ、本当に炉端焼き店か?」と疑いたくなるほど おしゃれなラインナップです。
そういえば、女将さんは高知県出身。ろばた焼き「松千(まつせん)」で提供される地元鮮魚の一夜干しは女将さん作。そして漬物も自家製。料理の味付けの美味さなど、どうやら女将さんの実力もこの店の魅力のひとつと言えそう。
見た感じ、THE・関西的な(お洋服が…)威圧感のある風貌だけど(愛をこめて)、
話すとこれがまた優しくて、楽しくて、ほっこりします。
ここでも良い意味で期待を裏切られます。
すると大将が「下仁田ネギがおススメやで~」とにんまり。
「阪南市で作ってるから”阪南ネギ”やけどな 笑」と決め顔。
備長炭でじっくり焼かれたネギの甘さを想像し、オーダーしてみることに。
大将作「阪南ネギ」じゃなくて「下仁田ネギ」。
どれだけ甘いねん…と舌を疑うほどの甘さです。
野菜の旨味がぎゅっと凝縮していて、炭で焼かれた香ばしさと、甘さに追い打ちをかける「甘辛ダレ」はもう罪。
そう、大将の意外な一面とは、阪南市に立派な畑を持ち、そこでたくさんの「無農薬野菜」を育てている「野菜畑おじさん」(←この表現しか見つからず。大将ごめんなさい)なのです。「炉端焼き店」の大将って、囲炉裏の前でひたすら寡黙に焼き続ける“職人気質”な人をイメージしていましたが、おやじギャグは飛び出すわ、笑顔はキュートだわ、で裏切る、裏切る。
でも、やっぱり焼き場に立つ姿はカッコイイ。
「無農薬の野菜 育ててる言うても、畑見ないと信じてくれへんもん…」と大将が寂しそうにポツリ。ならば見に行こうじゃないかと、後日大将と待ち合わせをして畑を案内してもらうことに。
阪南市にある大将の畑は想像を遥かに上回る広さでびっくり!
白菜、キャベツ、ブロッコリー、スナップえんどう、ほうれん草、玉ねぎ、チンゲン菜、金時人参、大根などが育てられていて、ろばた焼き「松千(まつせん)」で提供される野菜のほとんどが、この畑で育った「無農薬野菜」なんだそう。
これだけの土地の野菜を大将ひとりで管理し、育てているというのですから、もう趣味の域を超えています。「野菜畑おじさん」と表現したことを深く後悔しましたが、未だぴったりの表現がみつからず。どなたか名付けてあげてください。
「金時人参持って帰り~」と大将。
ほかにも、袋にお土産の野菜をいっぱい詰めてくださり、持ち帰らせていただきました。ありがとうございます!
さあ、次は常連さんがオーダーした「和牛ステーキ」を焼きはじめましたよ!
ほかのお客さんがオーダーしたものを、指をくわえて眺めたり、今日はもうお腹いっぱいだから次食べよう! と心に決めたり、そんなワクワク感も味わえるのが「炉端焼き」の魅力。
最後に常連さんおススメの「揚げだし豆腐」で〆て、二人で5000円もいかず。
お酒を呑むともうちょいいくかもだけど、思っていたより低予算でお腹いっぱいになりました。
元々は、現店舗から海側に1分ほど行ったところに店を構えていた ろばた焼き「松千(まつせん)」。営業5年目で「立ち退き」にあう暗い過去も。
その時代は景気が良かったこともあり、「一度はじめたことを辞めるのが嫌だった」という大将は、現在の場所で営業を再開し、39年もの長きにわたり焼き場に立ち続けています。
「備長炭に火をおこすのも大変で、もうやっていない店も多いと思う。長いしゃもじで料理を出す提供スタイルもずっと守り続けている」と大将。
コロナ後は客足も減った、と少し寂しそうな表情も。それでも常連さんでにぎわう店内は、活気に満ち溢れていて、まるでどこかの「劇場」に訪れたかのよう。
臨場感あふれる客との掛け合いや、家族の人柄、そして長いしゃもじとコの字カウンターが、ろばた焼き「松千(まつせん)」を彩ります。
「炉端焼き」初体験の友人の感想は、「しゃもじに乗って出てくる焼きたての食材に手を伸ばして受け取るのが楽しかった」「同じカウンターに座ったお客さんとも気さくにお話が出来て楽しかった」「家族で落ち着いて過ごせるテーブル席もあって、また利用してみたいと思った」など、興奮冷めやらぬ様子で話してくれました。
帰る頃には日もすっかり沈んでいて吐く息も白く肌寒い。
でも、家が近いから楽ちんです。
わざわざ遠くに食べに出かけなくても、近くに素敵なお店があったこと、良い意味でたくさん期待を裏切られたことに大満足です。
お手頃価格で、お腹も心も満たしてくれる 「松千(まつせん)」は、間違いなく“炉端焼きの名店”です。
【基本情報】
店名:ろばた焼き「松千(まつせん)」
公式インスタグラム(外部リンク)
住所:泉南市馬場1丁目1-26
(泉南市立図書館・泉南市立文化ホールより徒歩1分/Googleマップ参照)
Tel:072-484-5467
営業時間:17:00~22:00
定休日:水曜
駐車場:あり(3台)
取材協力 ろばた焼き「松千(まつせん)」松中 和昭 様、千鶴 様、輝雄 様
*ろばた焼き「松千(まつせん)」様のご協力により、撮影用商品の一部を無償でご用意いただきました。この場をお借りして心より御礼申し上げます。
*記事内容は取材当時のものです。
*年始は1月5日(金)からの営業となります。
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