【泉南市】閑散とした駅前通りで30年賑わう。有名料理人も太鼓判をおす「レジェンド鮮魚店」の“夕市”
「泉南デパートで27年、この場所に移転して30年、祖父の代からでいうと 100年も魚屋やってますわ」。
そう語るのは、御年79歳「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」の大将 堂馬 徳之(どうま とくゆき)さん。
南海電鉄「樽井」駅から徒歩5分、閑散とした駅前通りで30年賑わう「レジェンド鮮魚店」です。
現在時刻は15時48分。どこからともなく次々とお客さんが現れます。
そう、今日は岡田浦漁港で水揚げされたばかりのピチピチの魚が店頭に並ぶ“夕市”(16時~)の日です。
夕市は不定期で、開催日には看板が出現します。
どんな魚が並ぶかはお楽しみ♪
早速、鮮魚を積んだトラックが戻ってきましたよ!
仕入れには大将が自ら出向き、威勢よく運転して帰ってくる姿は、もうすぐ80歳になるお歳とは思えないほど元気はつらつ。
仕入れたばかりの魚を即提供できるスピーディーさは海の街ならではです。
鮮魚店一筋57年、目利きのプロが選んだ「*今日の魚」は一体何でしょうか?
*日によって仕入れる魚は変わります。
さあ、夕市がはじまります! さっきまで海で泳いでいたピチピチの魚が店頭に並ぶのですから、まるで漁港の朝市のようです。
大きな掛け声とともに仕入れたばかりの魚を厨房へ運び込みます。
トラックを降りて、すぐに厨房へ向かう大将。仕入れた魚の下処理をする姿はまさにレジェンドそのもの。
下処理後は瞬時に大将が値付けをし、スタッフの方が店頭に並べていきます。「はい、タコ750円、鯛600円、ガシラ650円…」
「ガシラ大きいよ~! 安すぎん? 笑」など、
気のいいスタッフの方と、まるでせり市場のような掛け合いがはじまります。
下処理と値付けが済んだ魚は、店先のテーブルの上に次々と並べられていきます。
丸々と太った立派な「ガシラ」。「今日は、ガシラがええで~!」と、大きな声が店内に響き渡ります。
「時期的にコウベは珍しいで~。今日のコウベは大きいで~!」。
「タコ半分に切って~」(お客さん)
「はいよ~! タコは生のまま冷凍しや~。湯がいてもうたら身がスカスカになるで~。解凍後、サッと洗って茹でるのは4分くらいでいいで~。新鮮やからな」。
「生でいけるで~。墨抜いてな~」
こんなに入っていてこの値段? 美味しそう~!
墨の抜き方など、ササっと調理法を指導してくれるのはありがたい。
わ! 「がっちょ」もいっぱい!
「唐揚げや煮物におススメやで~」。
下ごしらえのポイントも教えてもらいましたが思っていたより簡単。
“この魚はこうして食べると一番美味い!” を知り尽くしたプロの言葉は聞き逃せません。並べていくそばから “待っていました!” と言わんばかりにお客さんの手が伸びていきます。
お! こちらの男性は、ミッフィーの保冷バック持参で参戦していますよ。
提供するお店も真剣なら、魚選びをするお客さんも真剣です。
売れたら補充、売れたら補充、の繰り返し。
笑い声や、お客さんとの会話で活気ある店内。今 ここが“樽井の夕方”、しかも閑散とした駅前通りとは思えないほどの盛り上がりぶりです。
「そのアジ私のやで~」「わかってる~笑」など、泉州人ならではのユーモアたっぷりの掛け合いも楽しい。自分で目利きをし、買い物をしているお客さんの姿はとても満足げです。
岸和田から来たというお客さんは「とびあら」を購入。
どうやって食べるのかと尋ねると、「冬瓜と炊いたら美味しいのよ~」と教えてくださいました。聞くところによると、岸和田にも鮮魚店はあるけれど「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」がお気に入りで、「ここじゃなきゃだめなのよ」とにっこり。今日もこの後、暑い中電車で帰るのだそう。
あれ? 写真のあの人はもしかして…
店内に飾られている写真に目がくぎ付けになりました。
写真(右)に写っているのは、あの有名な料理人 神田川 俊郎さんではないですか! 数年前、コロナ禍でお亡くなりになられたというニュースは、大変ショッキングだった記憶があります。左に写っているのは大将の息子 啓司(ひろし)さんで、取材中タイミングよく外出先から戻ってきた啓司さんにお話しを伺うことができました。
「泉南デパートで営業をしていた頃、田尻漁港の朝市でうちの魚を食べた神田川さんに、『この魚美味いから大阪(神田川本店)まで持ってきてくれへんか?』と頼まれたんです。そんな光栄なことはないですよ。もちろん、すぐにお持ちしました。神田川さんとは、それからのお付き合いで、この場所に移転した際もお祝いにかけつけてくれました。実は、僕『神田川料理道場』(テレビ番組)に1カ月出演していたんですよ」。
「神田川料理道場」といえば、一時 一世を風靡した“人気料理番組”。
神田川 俊郎さんにお墨付きをいただき、まさかテレビ出演まで果たしていたとは驚きです。
スーパーで買い物をするのとはわけが違う、人も魚もとびきり活気がある店内で、物怖じすることなく買い物ができるのは、やはり人の温かさでしょうか。
終始、質問に答えてくださるお店の方や、先輩主婦のお客さん、あまりにも魚に無知すぎ(さばき方や名前など)て、こんなことを聞いたら恥ずかしいかな~なんてことも、ベテラン風吹かせることなく、ゆるゆると教えてくださいます。
“夕市”は、バタつくため下処理は難しいそうですが(タイミングがあえば引き受けてくれることも)、午前中の比較的ゆったりとした時間帯なら、下処理もしてくれるそうです。「魚は“切り身”で泳いでいないで~」と笑うスタッフの方の言葉を聞き、夏休みに子どもと(魚を)さばいてみるのも面白そうだなと感じました。
取材日は夕方まで蒸し暑く、急いで帰って晩酌がしたい…。そこで 今が旬の「ハモ」を購入し、湯引きしていただくことに。
「まず、縦に切って、横に何等分かにしてな~。湯引きする時は、2、3枚ずつやで。一気にやったらあかんで~」と大将。美味しく食べてもらうための指導に余念がありません。調理法によっては、骨をしっかり処理するなどの下処理をしてくれるそう。
今回は湯引きでいただきたかったので、このまま持ち帰ります。
ビールのあてに、まずは湯引きしたものを少量ポン酢でいただきます。
ほろほろと身が崩れるほどやわらかいハモは、淡白ながらも上品な脂のりで旨味たっぷり。小骨の多いハモが苦手でしたが、このハモは驚くほど肉厚で小骨の存在はほとんど感じません。熟練の技が必要とされるハモの骨切り。このハモを食べると大将がいかにレジェンドかおわかりいただけるはず。この後、晩ごはん時に酢味噌で食べて、その次は梅肉で食べたい…。また買いに行きたい、まだあるかな…。
これほど、心惑わすハモに出逢ったのは、生まれて初めてかもしれません。
不定期開催の夕市ですが、なんとか次回の夕市の情報をゲットできないかと、また別日に訪問。電話をすると大将が「来てくれんか~」とおっしゃったので 笑。
(台風の影響で)風が強くなければ7月31日(月)、風が強ければ8月1日(火)に夕市を開催するとのこと(よっしゃ!)。
時間は16時~17時半。売り切れ次第終了となります。
今回ご紹介したプリプリのハモも店頭に並ぶそうですので、夏の晩酌のあてにいかがでしょうか(絶品です!)。
もちろん「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」では、夕市以外の時間帯でも”地物”を中心とした新鮮な魚介類を買い求めることができます。
往時は映画館やデパートもあり、賑わいをみせていた樽井の駅前通り。
大型店舗の台頭によってお店や人も減り、今ではすっかり寂しい通りに。
そんな中、「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」はいつも賑やかです。
全国的にも数少なくなってきた「鮮魚店」。
この温かさと美味しさを、みなさんにもぜひ感じていただきたいです。
買い物カゴをぶら下げて、「鮮魚店」や「八百屋」を巡るスローライフも素敵です。
残念ながら今年の鰻(国産)は予約でいっぱいとのこと。
来年は早めに予約してみようと思います。
夏の夕方、「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」へふらっと出かけてみてはいかがでしょうか?
夕市が開催されていたらラッキー! くらいのゆ~るい気持ちで...。
【基本情報】
店名:「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」
住所:泉南市樽井6丁目22-8
Tel:072-483-5620
営業時間:10:00~17:30
*仕入れなどでお留守の時間帯もあります。
*夕市は16:00~17:30(不定期開催)
定休日:水曜・日曜(田尻漁港の朝市に出店)
取材協力「太与茂徳水産(たよもとくすいさん)」
代表 堂馬 徳之様、営業部 堂馬 啓司様
*記事内容は取材当時のものです。
*未成年の飲酒は法律で禁じられています。