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朝ドラ『ブギウギ』主題歌『ハッピー☆ブギ』とアリス・谷村新司との関係【月刊レコード大賞】

スージー鈴木音楽評論家、ラジオDJ、小説家
NHK『ブギウギ』ウェブサイトより

 東京スポーツで連載しているヒット曲分析コラムと連動してお届けしている「月刊レコード大賞」、今月の同コラムで取り上げた中で、もっとも印象に残った曲は、笠置シヅ子をモデルとしたNHK朝ドラ『ブギウギ』の主題歌『ハッピー☆ブギ』でした。歌うは、中納良恵、趣里(『ブギウギ』ヒロイン)、さかいゆうという、異種格闘技のようなトライアングル。

 メインを張っているのは中納良恵。大阪出身で、EGO-WRAPPIN'のボーカリスト。彼女はNHKのドラマ『トットてれび』(16年)において、笠置シヅ子役で『買物ブギー』を歌った経験があるので、ある意味で筋金入り。

 この曲、とにかく朝からごきげんになるのです。少なくともここ最近の朝ドラ主題歌の中では最高ではないでしょうか(私が大阪出身なので、NHK大阪制作ものに点が甘いのはお許しください)。

――♪何なの このリズム 無重力みたい

 服部良一のお孫さん、(私などは小沢健二のプロジェクトで知った)服部隆之の作詞・作曲・編曲。録画再生のときも飛ばさずに聴いてしまいます。そう、白状すれば、朝ドラの録画を見るとき、主題歌はよく飛ばしていました。ドラマと無関係な「普通のJ-POP」みたいな曲の場合は特に――え? 具体的にどの曲かって? いやいや曲名は、♪わてほんまによう言わんわ。

 さて、笠置シヅ子といえば『ラッパと娘』にとどめを刺します。音楽学者・音楽史研究家の輪島裕介による『昭和ブギウギ 笠置シヅ子と服部良一のリズム音曲』(NHK出版新書)にはこう書いてあります。

――それでも、戦前にレコード発売された数曲のうち、とりわけ「ラッパと娘」の超絶的な歌と演奏は、同時代の日本のどんな録音や映像をも凌駕する爆発的な躍動感に満ちていると感じる。

――♪誰でも好きなその歌は バドジズデジドダー

 歌い出しからしてスキャット(?)がそのまんま歌詞になっている。そして後半(2分あたりから)、ラッパ(トランペット)とボーカルが一緒に盛り上がっていくところの気持ちよさは、ブギやジャズを超えて、これぞロックンロールという感じさえします。

 ヒロインに抜擢された趣里が、この曲をどう歌いこなすのか。どう歌い踊って叫び倒すのか。楽しみで仕方ありません。

 さて、10月8日、谷村新司さんが、東京都内の病院で死去されました。享年74。

 追悼として、ラジオでは『昴』が流れ続けましたが、私のような1960年代の大阪生まれにとっての谷村新司は、まずはアリスです。「アリスのチンペイ」でした。

 彼らは下積み時代、年間300本のライブをこなしたといいます。音響設備が十分ではない環境での演奏もあった中で培われたのでしょう、とにかくシンプルかつラウドなアコースティックギターが、とにかく気持ちよかった。特に――『今はもうだれも』『冬の稲妻』、そして(堀内孝雄のソロですが)『君のひとみは10000ボルト』のイントロ!

 私などは、あのガシガシと弾くコードストロークのかっこよさに憧れて、フォークギターを手に入れた口です(すいません、彼らが広告に出ていた「MORRIS」ではなかったのですが)。

 谷村新司は生前、このように語っていました。

「冬の稲妻」(1977年)は、完全にヒット曲を作ろうと意識して詩を書きました。シンプルな詩で、堀内(孝雄さん)もシンプルに曲を作ったのが見事にはまった。アリスってギターの初心者でも弾けて、しかも「せーの」でやると格好いい、というのを一つのテーマにして歌を作ってたので、出来上がった時はどんぴしゃだなって、みんなで手応えを感じてました(朝日新聞/2014年5月12日)

 70年代後半、MBSラジオ『ヤングタウン』(水→金曜日)で、『冬の稲妻』を聴いたとき、小学生ながら感じたのは、こんな気分だったかも。

――♪何なの このギター 無重力みたい

 そう考えると、「理屈なんかどうでもええねん、音楽は気持ちようなかったらあかんねん!」という感じのアリス・サウンドは、大阪出身の音楽人・谷村新司にとっての大先輩である笠置シヅ子と共通するところがあったのかもしれません。

 『昴』も『サライ』もいいのですが、アリス・サウンド、とりわけ、あのアコースティックギターの気持ちよさこそが谷村新司でした。そう、私にとってアリスは、フォークでもニューミュージックでもない、まさにロックンロールだったのです。

 ご冥福をお祈りします。

  • 中納良恵・趣里・さかいゆう『ハッピー☆ブギ』/作詞・作曲:服部隆之
  • 笠置シヅ子『ラッパと娘』/作詞・作曲:服部良一
  • 谷村新司『昴』/作詞・作曲:谷村新司
  • アリス『今はもうだれも』/作詞・作曲:佐竹俊郎
  • アリス『冬の稲妻』/作詞:谷村新司、作曲:堀内孝雄
  • 堀内孝雄『君のひとみは10000ボルト』/作詞:谷村新司、作曲:堀内孝雄
  • 加山雄三・谷村新司『サライ』/代表作詞:谷村新司、作曲:弾厚作(加山雄三)

音楽評論家、ラジオDJ、小説家

音楽評論家。ラジオDJ、小説家。1966年大阪府東大阪市生まれ。BS12『ザ・カセットテープ・ミュージック』、bayfm『9の音粋』月曜日に出演中。主な著書に『幸福な退職』『桑田佳祐論』(新潮新書)、『EPICソニーとその時代』(集英社新書)、『平成Jポップと令和歌謡』『80年代音楽解体新書』(ともに彩流社)、『恋するラジオ』(ブックマン社)、『サザンオールスターズ1978-1985』(新潮新書)、『1984年の歌謡曲』(イースト新書)など多数。東洋経済オンライン、東京スポーツなどで連載中。2023年12月12日に新刊『中森明菜の音楽1982-1991』(辰巳出版)発売。

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