あいみょん『猫にジェラシー』とNHK「tiny desk~」と「室内楽」トレンド【月刊レコード大賞】
東京スポーツ紙の連載「スージー鈴木のオジサンに贈るヒット曲講座」と連動して毎月お届けする本企画。
今月、もっとも印象に残った曲、というか動画は、あいみょん『猫にジェラシー』です。同名のアルバムは9月11日に発売されているので、厳密には先月の作品なのですが。
『猫にジェラシー』のMVに驚いた
その動画はこれ。タイトルは「あいみょん – 猫にジェラシー【Live】」。
現段階で48万回も再生されていますが、もっと再生されてもいいと思います。
魅力のポイントは「ライブ感」。あいみょん自身も「生演奏のMV!初めてです」と語っているので、生演奏・生歌・一発撮りなのでしょう。
といっても、いわゆるライブ=コンサート、とりわけスタジアムライブとかではなく、スタジオライブでもなく、あえていえば「室内ライブ感」。いわば「室内楽」。
「普通の日常空間の中で音楽している感」、加えて、その結果としての「加工や補正や演出や編集が無し感」がいい。
思い出したのは、細野晴臣のアルバム『HOSONO HOUSE』(73年)。「『HOSONO HOUSE』50周年記念盤(再プレス)」公式サイトの説明。
ホーム・レコーディング――まさに「室内楽」。
音はこんな感じ。この曲が、同アルバムの個人的フェイバリット(ちなみに作詞も細野晴臣自身)。あいみょんファンにも親しまれるような気がします。
あいみょんに話を戻すと、アルバムの音源も、上の動画とほとんど変わらず、ちょっとだけコーラスが加えられているぐらい。つまり「室内楽感」で勝負しているのですね。
こういうことが出来るのは音楽家としての実力でしょう。さすが、甲子園弾き語りワンマンライブを成功させた人だ。
NHKの「小さな机」の衝撃
そういえば楽しい音楽番組がレギュラー化されました。NHK『tiny desk concerts JAPAN』。公式サイトにある番組紹介。
つまりNHKのオフィスの中でのまさに「室内楽」。「普通の日常空間の中で音楽している感」「加工や補正や演出や編集が無し感」満載。
まずは本家のテイラー・スウィフトの映像。時代のアイコン的に消費されがちな彼女の、音楽家としての腕っぷし、声っぷしを感じさせます。
日本版の初回(9月30日)は稲葉浩志。一般的には、ハードでギンギンなサウンドの中でシャウトする人という感じだったでしょうから、こぢんまりした「室内楽」によって、魅力が再発見されたことと思います。下記リンクから『YELLOW』をお聴きください。
今週(10月28日)に出演したのはくるり。こちらも、特に弦楽四重奏を交えたセッションは素晴らしかった。下記リンクから『ばらの花』をぜひ。
サブスクや動画サイトで、出来上がったデジタル音源をイヤフォンで日がな1日聴く時代。いわば、そんな「出来合いのデジタル」の対極となるのが「室内ライブ」「室内楽」だと思います。
このトレンドは、ちょっと大げさにいえば、音楽シーンを変える可能性があるとさえ思うのです。『HOSONO HOUSE』ならぬ「あいみょんハウス」のMVを見ながら、そんなことを考えた10月でした。
- あいみょん『猫にジェラシー』/作詞・作曲:あいみょん
- 細野晴臣『恋は桃色』/作詞・作曲:細野晴臣
- 稲葉浩志『YELLOW』/作詞・作曲:稲葉浩志
- くるり『ばらの花』/作詞・作曲:岸田繁