瑞々しい薯蕷きんとんと生の苺が出会った「苺香」京都の人気店の感性が光る上品で甘酸っぱい上生菓子
和菓子、という言葉から連想されるのはどのようなお菓子でしょうか?大福やどら焼きといった、いわゆるおやつとしての和菓子を思い浮かべる方のほか、練り切りなどの見目鮮やかな上生菓子を思い浮かべるという方もいらっしゃるかと思います。
白餡を染めたり、素材そのものの色合いを活かした表現豊かな上生菓子たちは菓子切りを差し込むのが惜しくなります。
上生菓子の中でも私が特に好きなのが薯蕷きんとん。つくね芋(大和芋)と呼ばれる関西を中心に栽培され、和菓子や料理に用いられる芋を使用したきんとん特有の豊かな風味、ねっとりとした口当たり…思わず目を閉じてしまうほど。
京都府にお店を構える「千本玉壽軒」さんの薯蕷きんとんもお気に入りのひとつなのですが、以前ネットで拝見した生の苺を合わせたものがありまして、不思議な意匠だなと思っていたら、ご縁があり早速いただきました。今回は千本玉壽軒さんの「苺香(いちか)」と「うぐいす餅」をご紹介。
上生菓子に生の苺!「苺香」苺大福ではないのです。にもかかわらず、生の苺が大切に抱かれているような佇まいに思わず凝視してしまいました。練り切り餡などの練り込まれていることはありますが、これは初めて。紅白のグラデーションが可憐なきんとんにも、ところどころぷちぷちとした苺の種を発見。
色で染めているのではなく、苺を練り込んだ薯蕷きんとんなのです。瑞々しいきんとんは繊細で、つくね芋のふくよかさは強かなものの、さらさらと舌の上で溶けていきます。苺は一度こし餡で包まれてからきんとんを纏っているので、こし餡が絶妙な橋渡し役となり、統一感が生まれます。小柄ながらも凝縮された芳醇な苺の香り、果汁が追い風となりじっくり味わいたいのに手が止まりません。
「うぐいす餅」は、青大豆のふっくらとした甘い薫香。ずっとくんくんと嗅いでいたいような、あざとい香ばしさのようなものはありません。職人さんの指先から生み出される尻尾とくちばしの形も趣がありますね。
可憐な佇まいからは予想していなかった、ほくほくっとした食感が。中の粒餡は、立派な小豆がたっぷり。いわゆる「ギャップ萌え」というものでしょうか。とろりとした餅肌ですが、一定のところまで伸びるとむちんと切れる心地よさも。
新しい出会い、美味しいだけではなく楽しいと思えるお菓子。胡坐をかかず常に精進し続ける職人さんのセンスに感服と敬意を示さずにはいられないと思うのでした。
<千本玉寿軒・本店>
公式サイト(外部リンク)
京都府京都市上京区千本通今出川上ル上善寺町96
075-461-0796
8時30分~17時
定休日 水曜