Twitterの未来を左右する? 投稿をユーザーが評価する「コミュニティノート」本格展開へ
12月10日(米国時間)、Twitter上の誤解を招きやすいツイートに注釈を加える「コミュニティノート」機能について、全世界で表示が有効になったことを公式アカウントが発表しました。
Twitterの社員ではなく、ユーザーのコミュニティが主体となって投稿を評価する仕組みとして、注目を集めそうです。
誤解を招きやすいツイートに「注釈」を追加
コミュニティノート(英語ではCommunity Notes)とは、誤解を招きやすいツイートに対して「ノート」(注釈)を付けることができる機能となっています。
いったいどのようなものかは、実際のツイートを見たほうが分かりやすいでしょう。たとえば、バスケットボールでミラクルシュートを連発するこちらの動画は3000万回以上再生されるなど、大きな話題になっています。
しかしコミュニティノートでは、この動画が編集されたものであると説明されており、参考記事のリンクも添えられています。
(現時点では、Twitterにログインしていない状態や、ほかのサイトに埋め込まれた状態ではコミュニティノートは表示されないようです)
政府の見解にコミュニティノートが付けられる場合もあります。米国のホワイトハウスによるこちらのツイートでは、バイデン政権が多数の雇用を創出したことをアピールしています。
しかしコミュニティノートでは、米国の労働統計局による統計に基づいて、コロナ禍で職を失った人々が復職したことが多くを占めているなどの数字を示し、「雇用を創出した」という主張に対する別の見方を提供しています。
これまで、こうしたツイートの内容を他の人が訂正するには「返信」や「引用RT」といった形で投稿する方法がありました。
しかし訂正の投稿は、なかなか広まらないものです。その後も本体のツイートを見た人がリツイートを続けることで、誤情報の拡散に訂正が追い付かないという現象が問題となっていました。
これに対してコミュニティノートは、ツイート本体と一緒に表示されるため、多くの人の目に止まりやすくなります。その結果、さらなる拡散を思いとどまったり、信じ込む人を減らしたりする効果を期待できます。
この機能は2021年に「Birdwatch」という名前で試験的に始まり、イーロン・マスク氏がコミュニティノートという名前に変更しています。マスク氏は「Twitter上の情報の正確性を高めるためのゲームチェンジャーだ」と語っており、大いに期待しているようです。
「偏り」を防ぐアルゴリズムを実装
このような機能に対する大きな懸念として、特定の集団による組織票などをどう防ぐのか、という点があります。
そこでコミュニティノートには、かなり手の込んだ仕組みが用意されています。そのすべてを解説することはできませんが、公式のガイドから、かいつまんで紹介します。
まず、コミュニティノートを書けるのは誰なのか、という点です。この人は「協力者」(Contributor)と呼ばれており、過去に違反行為がないこと、電話番号で認証済みであることなどを条件に、基本的には誰もが応募できます。
しかし登録すれば誰でもノートを書けるわけではありません。まずは他の協力者が書いたノートを評価する「下積み」をして、実績を認められる必要があるようです。
そして協力者としてノートを書けるようになっても、書いたノートは他の協力者からの評価を受ける必要があります。いまどんなノートがあり、それらにどのような評価がつけられているのかは専用のページ(Twitterへのログインが必要)で可視化されています。
こうして一定の評価を得たノートだけが実際のツイートに付けられ、多くの人の目に触れるようになる仕組みです。
ここで興味深いのは、この評価が「多数決ではない」という点です。もし多数決だったとすれば、多くの協力者が示し合わせて評価をすることで、偏った内容のノートをツイートに付けることができてしまいます。
そこでコミュニティノートでは、過去に「反対の評価」をする傾向にあった人々からの評価を得ることを必須の条件にしているようです。
これにより、さまざまな立場の人からの評価を必要とすることで、偏りを防ごうというわけです。Twitterはこれを「ブリッジングアルゴリズム」(bridging algorithm)と呼んでいます。
さらに、協力者自体を保護する仕組みも用意されています。ノートを書いた協力者の名前は自動的に生成される源氏名のようなもの(エイリアス)が割り当てられており、本名やTwitterのアカウント名を知ることはできません。
たとえば先ほどのホワイトハウスのツイートにノートを書いた協力者は「Brilliant Tree Frigatebird」となっていますが、こういう人物や団体が実在しているわけではなく、システムによって自動的に付けられた名前というわけです。
これにより、協力者は他人の目を気にすることなく、自由にノートを書いたり評価したりできる効果があるとされています。また、読む側にとってもノートを書いた人の知名度や党派性を除外することができます。
実名は出ないとはいえ、過去のノートや評価はすべて公開されます。量的には膨大な数になりますが、テキストデータとしてダウンロードする機能が用意されており、分析できるようになっています。
協力者を評価するシステムもあり、他の人から評価されることでスコアが上がる一方、評価が下がればやがてノートを書けなくなります。Twitterへの貢献を続けたいならば、多くの人から評価されるような活動をしていく必要があるわけです。
Twitterの未来を左右する機能か
果たしてこのような仕組みはうまく回っていくのでしょうか。Twitterはその有効性について、学術的な研究も示しているものの、未知数なところはあり、また一般のユーザーに理解が広まるにも時間がかかりそうです。
ただ、これまではTwitterの判断によってタイムラインや検索結果から投稿を非表示にされる「シャドウBAN」のような措置があり、理由が明確に示されないことに対して批判の声がありました。
それに比べると、コミュニティノートでは評価を待っているノートのリストや評価の仕組み、本番環境を再現できるPythonのソースコード、協力者のスコアの計算方法などが詳しく説明されており、透明性を重視した機能という印象を受けます。
マスク氏が実施した人員削減により、これまでコンテンツの監視や評価を担当していた社員の多くが会社を去ったとされています。その仕事をユーザーの集合知によってカバーできるのか、Twitterの未来を左右する機能の1つになることは間違いなさそうです。
追記:
2023年7月6日、日本でコミュニティノートが正式に提供開始されました。また、「役に立った」と評価されたコミュニティノートを集めたアカウント(@HelpfulNotesJP)も開設されています。