アマゾンの宅配ドライバー疲弊 「きつい・汚い・危険」、3K+1とは
米経済ニュース局のCNBCによると、米アマゾン(Amazon.com)と契約している配達ドライバーは目まぐるしい忙しさで疲れ切っているという。
「きつい」 1日の配達200軒
アマゾンは2019年に、それまで翌々日が標準だった米国プライム会員向け配達期日を翌日に短縮した。それ以降、契約ドライバーらは、1日当たり計2億個の荷物を翌日までに届けなければならなくなった。
ミシガン州で勤務している女性ドライバーのシャリーン・ウィリアムズさんは1日10時間の勤務中に320個の荷物を199軒に配達したこともあったと話している。
「汚い」 車内で用を足すことも
トイレに行く時間もなく、車内でプラスチックのボトルに用を足す男性ドライバーもいるという。
誰かが前日に使ったトラックに乗ると、ボトルがシートの後ろやカップホルダーに置いてあり、とても不快に思うことがあるという。ウィリアムズさんはこうした状況を「disgusting(ディスガスティング)=最低)」と表現している。
「危険」 一時停止無視、ベルト非着用
19年11月から20年7月までアマゾンのドライバーとして働いていたエイドリエン・ウィリアムズさんによると、多くのドライバーは、一時停止標識を無視したり、黄色信号を突破したりしている。
予定通りに配達するためにはシートベルトの着脱時間も節約する。多くのドライバーはバックルを留めている状態で肩ベルトを背中に回す。こうしてシートベルト非着用時の警告灯や警告音を作動させないようにしている。
米国の非営利・独立系報道機関プロパブリカが19年に公表したリポートによると、同年までの4年間にアマゾンの契約ドライバーが関与した重大事故は60件以上あり、うち10件以上は死亡事故だった。
2000人超が起業、ドライバー11.5万人超雇う
アマゾンの契約ドライバーとは、同社のプログラムを通じて起業した宅配業者に勤務している人たちである。
アマゾンは、物流大手のへ依存を減らす取り組みの一環として18年に宅配事業の起業支援プログラム「デリバリー・サービス・パートナー」を始めた。起業に必要な環境をアマゾンが用意するもので、アマゾンのロゴが入ったリース車両や制服、ガソリン、保険など、業務に必要なものを安価に提供している。運転手の研修プログラムや宅配情報システムへのアクセスも用意しているほか、事業に必要な様々なサービスも提供している。
同プログラムの立ち上げ時アマゾンは、物流事業の経験がない人でも1万ドル(約110万円)程度の資金で開業でき、20〜40台の車両を稼働して事業を行う場合、年間30万ドル(約3300万円)の利益を得ることができると説明していた。
CNBCによると、このプログラムを通じて起業した人は2000人以上に上り、計11万5000人超のドライバーを雇っている。
安全重視もプライバシー侵害への懸念
アマゾンは同プログラムの安全対策が不十分だとの批判を受け、21年2月に「ドリバリ(Driveri)」と呼ぶAI(人工知能)搭載のカメラシステムを導入した。4つのレンズで、道路前方と車両の両側、運転手を常に録画し、運転状況を把握するというものだ。
一時停止無視や速度超過、車間距離不保持、シートベルト非装着、ながら運転、急ブレーキなどの16項目を検知でき、違反行為があった場合は音声で警告する。
アマゾンはこのシステムについて、「安全確保は我々の最優先事項。何年もドライバーの安全に投資し、業界トップのカメラ技術を開発した。これにより配達中の事故が48%減少した」と述べている。効率的なルートを案内するナビゲーションシステムも導入しており、9割のドライバーが予定より早く仕事を終えているとも説明している。
ただ、こうしたシステムについてもドライバーの不満が募っているという。アマゾンや宅配業者がこれらのデータを勤務評価に使うこともあり得る。「1日8〜10時間も監視されたくはありません」とシャリーン・ウィリアムズさんは話している。個人情報保護団体や一部のドライバーはプライバシー侵害を懸念しているという。
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(このコラムは「JBpress」2021年6月23日号に掲載された記事を基にその後の最新情報を加えて再編集したものです)