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近代野球における守備のキーマン・一塁手が練習すべきこととは【落合博満の視点vol.28】

横尾弘一野球ジャーナリスト
現役時代の落合博満は、一塁手として送球を捕る練習を欠かさなかった。

 落合博満が数多の打撃タイトルを獲得したのは周知の通りだが、20年間の現役生活でゴールデングラブ賞は一度も手にしていない。だが、落合自身が技術に自信を持っているのは、打撃よりも守備である。実際、初めて三冠王に輝いた1982年は二塁手で、2度目に手にした1985年は三塁手。そして、翌1986年は、一塁と三塁で併用されながら3度目の三冠王となっている。

 四番打者はバットで圧倒的な数字を求められるゆえ、守備位置をコンバートされるケースは稀だ。しかし、落合は「四番といえども複数のポジションをこなせれば、外国人などを獲得しやすくなる。そういうチーム事情に合わせられれば使いやすいだろう」と考えている。巨人時代、長嶋茂雄監督に清原和博の獲得を進言したのも、三塁を守れば清原の打撃がワンランク上がると考えたからだ。

 また、「打撃は盗め、守備は習え」が持論の落合は「若い頃に徹底してプロの守備を教わった」と自負しており、特に内野守備については理に適った練習法をわかりやすく語ってくれる。そんな落合は、一塁手を「近代野球における守備のキーマン」と位置づけ、「守備に難のある選手を置くポジションではない」と断言する。だから、中日で監督を務めた時は、渡邉博幸(現・中日コーチ)や森野将彦を守備固めの一塁手として起用しながら、タイロン・ウッズやトニ・ブランコにも実践的な守備練習を課していた。

プロでもやっているようでやっていない練習

 落合がT・ウッズやブランコに命じ、アマチュア選手を指導する際にも「毎日必ずやったほうがいい」と説くのが、他の野手からの送球を捕る練習だ。

「ワンバウンドをしっかり止めてくれる捕手がいれば、投手は安心して変化球を投げられるから成長すると言われるでしょう。それと同じこと。シュート回転しようが、スライダー回転しようが、どんな送球でも一塁手が何とか捕ってアウトにしてくれれば、チームが助かるのはもちろん、野手も『あいつなら何とかしてくれる』と安心して送球できる。その安心感が、投手と同様に送球の安定にもつながるんだ。最近は、送球が安定しないと『イップスだ』と決めつけてしまうケースがある。けれど、上手い一塁手のいるチームって、特に二遊間の送球がどんどん安定するものだよ」

 落合が「守り勝つ野球」で中日に黄金時代を築いたように、守備を鍛えて常勝を目指す指導者は少なくない。ただ、そんな指導者のチームでも一塁手が毎日、一定の時間、捕球練習に取り組んでいる光景はあまり見られない。「一塁手の存在と同じように、一塁手の守備力は意外と軽視されている」という落合は、「打者走者がまず一塁に走ってくるように、バント処理など守備の連係プレーの大半に一塁手は参加するんだ。ならば、昔のように体格のよさだけでなく、野球頭がよく、守りでリーダーシップを取れるような選手を置くべきじゃないか」と続ける。

 そう言えば、落合がフリー・エージェント宣言をして中日から移籍した1994年、巨人は日本一に輝いた。その戦いで落合が一塁のポジションからタイムを取ってマウンドに行ったり、ベンチで他の選手に何かアドバイスしていることを「落合効果」と呼び、勝利に多大な貢献をしたと長嶋監督も語っていた。その頃の落合自身も、捕球練習は欠かさなかったことを思い出す。

「言われてみれば、当たり前のこと。でも、プロでもやっているようでやっていない練習はまだある」と落合。折に触れて、また聞いてみたい。

(写真=K.D. Archive)

野球ジャーナリスト

1965年、東京生まれ。立教大学卒業後、出版社勤務を経て、99年よりフリーランスに。社会人野球情報誌『グランドスラム』で日本代表や国際大会の取材を続けるほか、数多くの野球関連媒体での執筆活動および媒体の発行に携わる。“野球とともに生きる”がモットー。著書に、『落合戦記』『四番、ピッチャー、背番号1』『都市対抗野球に明日はあるか』『第1回選択希望選手』(すべてダイヤモンド社刊)など。

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