誘拐事件に関し、千葉大が卒業取り消しを検討することは「推定無罪」の原則に反する
誘拐事件に関連して容疑者が卒業した千葉大学が会見し、懲罰委員会を設け卒業取り消しを検討すると報じられています。これは、刑事裁判の原則である「推定無罪」に反しています。事件は衝撃的なものですが、まだ容疑者の段階(逮捕状が出ており身柄は確保されていたが、逮捕はされていない)であり、裁判所で有罪が確定する前から卒業生を犯罪者のように扱うことは大きな問題があります。
また、このような千葉大学の方針について問題点を記事に書かず、むしろ推進するような報道を行うマスメディアは「リンチ(私刑)」を行うに等しい行為です。
- 誘拐容疑者の卒業「取り消しも検討」 千葉大が会見(朝日新聞デジタル)
逮捕されても犯罪を行ったとは限らず、裁判で無罪になることもあります。何事にも間違いはあり、誤認逮捕や冤罪もあり得えます。そのため、刑事事件は「推定無罪」の原則があります。
千葉大学が、卒業生の指名手配と身柄確保というだけで卒業取り消しに言及したのは、有罪が確定するまでは罪を犯していない人として扱わなければいけないという原則に反しています。「仮に有罪としたら」と卒業取り消しに言及したのかもしれませんが、「仮に無罪だとしたら」と考えるのが、推定無罪です。
卒業取り消しは可能なのでしょうか。事件を起こしたとされる2年前までさかのぼり停学することで卒業要件を満たさないとする、ということですが、授業は出席しているようですし、「事後的」に停学するとなると卒業してから有罪となると、あらゆる卒業生が取り消しになりかねません。
本来、千葉大学は卒業生を守る立場にあるはずです。在学中の行動などについて報道にしゃべることも問題です。大学構内で事件が起きたわけでもないので謝罪の必要もないでしょう。
なお、千葉大学の学位規程には第21条に「学位授与の取り消し」という項目がありますが対象は修士や博士であり、大学卒業の「学士」は含まれていません。
事件が衝撃的であればあるほど、報道は加熱し、プライバシー暴きや、社会的制裁が先行することがあります。松本サリン事件のように逮捕どころか重要参考人となっただけでも犯人扱いした報道が行われて社会問題になってきました。千葉大学の動きは、逮捕段階で職場を懲戒解雇になったり、資格が取り消しになったり、して生活基盤を奪わることと同様です。後に冤罪と分かっても、奪われた名誉や基盤は十分に回復せず、報道で受けた社会的な制裁が消えないことはこれまでにも明らかなのです。
本事件はこれまでの冤罪とは違うと思われている方もいるかもしれません。ですが、私たち(千葉大学も)は事件について直接見たわけではなく、主にマスメディアの報道を通じてしか知ることが出来ません。その報道も、各社が被害者などの関係者、警察当局から断片的な情報を取材して記事化したものであり完全ではありません。「容疑者が犯人に違いない」という印象を持っている人もいるかもしれませんが、それはマスメディアの情報によって作り出されているに過ぎないのです。
千葉大学は現段階においては、推定無罪を守り、マスメディアのリンチ(私刑)圧力に屈さず、安易な卒業取り消しや謝罪を行わず、卒業生を守ってもらいたいと思います。それが大学のあるべき姿ではないでしょうか。そして、マスメディアは容疑者段階での犯人視報道をやめ、(容疑者のフェイスブックの過去の投稿を紹介するような)プライバシーを晒すような記事を慎むべきです。千葉大学の方針に疑問の記事を書く立場のはずです。
犯罪を裁くのは裁判所であり、マスメディアではないのです。