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令和に『白線流し』は作られないのか? 深夜では久々の清々しい青春ドラマ

斉藤貴志芸能ライター/編集者
(C)TBS

 しばらく前に、TVerの名作ドラマ特集で『白線流し』が全話配信されていた。1996年に放送された作品。懐かしさもあって11話を一気見したが、改めて染みる青春ドラマだった。

 舞台は長野の松本。酒井美紀が名門高校の3年生の役で、受験と卒業を前にして、夢を持てずに葛藤していた。長瀬智也が演じる、同じ高校の定時制に働きながら通う青年と出会い、星の話から心を通わせていく。

 互いの境遇の違いに悩みながらの淡い恋心が描かれ、キスシーンのひとつもなく清々しかった。当時TOKIOのメンバーだった長瀬、アイドル歌手からドラマ初主演の酒井ともに17歳。

 同級生役の柏原崇、京野ことみらも含めた群像劇で、主題歌の『空も飛べるはず』(スピッツ)に彩られながら、苦しみも希望も含めた青春の輝きが純粋に描かれていた。

『白線流し』DVD-BOX(ポニーキャニオン)
『白線流し』DVD-BOX(ポニーキャニオン)

若者のテレビ離れと共に10代の物語は消えていく

 そして、ふと思ったのが、こうした高校生が主人公の青春ドラマは、最近GP帯ではめっきり観なくなったなと。2000年代に入って若者のテレビ離れが進み、ドラマも高年齢層向けの刑事ものや医療ものが増えていった。10代~20代前半があまり観なくなったテレビで、10代の登場人物がメインの学園ものなどが減っていくのは必然だった。

 振り返ると、2021年に杉咲花が盲学校高等部の3年生役で主演した『恋です!~ヤンキー君と白杖ガール~』が、今のところ最後。ただ、この作品も杉咲自身は当時24歳で、杉野遥亮が演じた相手役のヤンキーは学校に通っていない。視覚障害に向き合う良作ではあったが、往年の青春ドラマとは違う趣きだった。

オリジナルは『表参道高校合唱部!』を最後に

 さらに遡ると、2018年には同じく杉咲が主演の『花のち晴れ~花男 Next Season~』、土屋太鳳が主演した『チア☆ダン』があったが、共にヒットドラマや映画の流れを受けたドラマ。

 2017年にはサスペンス色の強い『僕たちがやりました』(窪田正孝主演)、2016年には名作リメイクのファンタジー『時をかける少女』(黒島結菜主演)が放送されている。

 しかし、オリジナルの純粋な高校生ものというと、2015年に広瀬すずが主演した『学校のカイダン』、芳根京子が主演の『表参道高校合唱部!』以降は見当たらない。

 学園ものでも『3年A組-今から皆さんは、人質です-』(2019年)、『ドラゴン桜』第2シリーズ(2021年)などは教師が主役。前クールの『マルス-ゼロの革命-』も、道枝駿佑が演じた主人公を始め高校生の物語ではあったが、動画配信で大人社会の悪を暴いていくサスペンス。等身大の青春ものではなかった。

『からかい上手の高木さん』のピュアな恋模様

 そんな中、深夜帯ながら今クールに放送中の『からかい上手の高木さん』(TBS・火曜23:56~)は、実に久々に青春の清々しさを感じるドラマだ。主人公の男女2人は中学生で、青春前期の物語だけに、純粋さがいっそう際立っている。

 原作は山本崇一朗のコミックでアニメ化もされた。永野芽郁と高橋文哉による映画版が5月31日に公開。ドラマはその10年前を描く位置づけだ。「Seventeen」モデルで16歳の月島琉衣と、映画『怪物』で注目された14歳の黒川想矢がW主演している。

 高木さん(月島)は、クラスで隣の席の西片(黒川)をいつもからかっている。授業中に厚紙が飛び出してくるように細工した筆箱を開けさせて、驚いて叫んだ西方が先生に怒られたり。

微笑ましいやり取りと甘酸っぱいシーンと

 西片は何とか高木さんをからかい返そうと必死だが、返り討ちにあってばかり。朝、普段は自転車通学の高木さんが歩いてきて、「西片と手を繋いで学校に行きたいから」と言うと、西片はまたからかわれたと思い、本当の理由を当てようとしたが外れる。高木さんは「理由はもうひとつある」と言い、1人で「それは最初に言ったんだけどな」とつぶやいて笑った。

 西片を好きなのをオブラートに包んで毎日楽しんでいる高木さんに、本気でからかい返すことだけを考えながら、時にはにかむ子供っぽい西片。2人とも本当に微笑ましい。

 一緒に海で夕陽を眺めたり、西片が罰として命じられた理科室の掃除を高木さんが手伝ったり、並んでイヤホンを分け合って曲を聴いたり。そんなシーンが何とも甘酸っぱくて尊い。

 映画の前宣伝も兼ねたドラマではあるのだろうが、月島と黒川の好演もあり、この中学生編だけで別物の傑作になりそうだ。

うってつけの10代の逸材は少なくない

 だからと言って、令和にこうしたドラマを、そのままGP帯の1時間枠に持っていくのは難しいだろう。ただ、前述の『マルス-ゼロの革命-』も、高年齢層がターゲットの番組が特に多いテレビ朝日が、GP帯で若者層の取り込みを試みたもの。

 なにわ男子の道枝駿佑の人気を当て込みつつ、視聴率的にはふるわなかったが、どうせならもっと青春に振り切っても良かったのではないか。加えて、中高年だからこそ、青春ものでノスタルジーに浸りたい需要もあるように思う。

 いずれにせよ、ただ主人公が中高生というだけでなく、良質な作品であることが必要なのは当然。『からかい上手の高木さん』の月島と黒川のような純粋さを体現するキャストも必要になる。作品のテイストはまったく違うが、28年前の『白線流し』の長瀬と酒井もそうだったように。

 そこは『最高の教師』や『さよならマエストロ』で目を引いた當真あみ、『仮面ライダーガッチャード』でヒロインの松本麗世や、豊嶋花、上坂樹里、幸澤沙良といったリアル10代の逸材は少なくない。

 実際、當真は単発の高校生ドラマ『ケの日のケケケ』に主演している。幸澤も昨日スタートの『JKと六法全書』で主演に抜擢された。彼女たちがうってつけの青春ドラマで、力を発揮してくれるはずだ。

芸能ライター/編集者

埼玉県朝霞市出身。オリコンで雑誌『weekly oricon』、『月刊De-view』編集部などを経てフリーライター&編集者に。女優、アイドル、声優のインタビューや評論をエンタメサイトや雑誌で執筆中。監修本に『アイドル冬の時代 今こそ振り返るその光と影』『女性声優アーティストディスクガイド』(シンコーミュージック刊)など。取材・執筆の『井上喜久子17才です「おいおい!」』、『勝平大百科 50キャラで見る僕の声優史』、『90歳現役声優 元気をつくる「声」の話』(イマジカインフォス刊)が発売中。

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