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薪代の補助制度?「熱のFIT」でバイオマスストーブを普及させよう!

田中淳夫森林ジャーナリスト
薪や木質ペレットなどバイオマス燃料は高いのが難点。(ペイレスイメージズ/アフロ)

 じんわりと寒さが近づいてくる。そろそろコタツやストーブの心配をしなくてはならなくなってきた。

 そこで頭に浮かぶのは薪ストーブや木質ペレットストーブなどバイオマスエネルギー。化石燃料と違って二酸化炭素の排出が理論上はなく、地球温暖化防止に寄与する。木材を供給できる山村地域の経済振興にも有効だろう。

 ただ普及はなかなか進まない。薪ストーブの“不都合な真実”を考えるのような難癖つける輩もいる(^^;)うえ、設置にはいくつかの課題がある。その中で、もっとも大きな問題は価格だろう。

 バイオマス関係の薪や木質ペレットストーブやボイラーの本体価格も高いが、燃料費がバカにならない。供給システムが十分にないうえ生産コストが高いからだ。通販などで取り寄せたら重さと体積があるだけに送料がかさむ。ホームセンターなどで扱っているものもバカ高い。薪一束500円以上する。それで、どれぐらいストーブが焚けるだろう。24時間燃やし続けたら1日持つだろうか。

 もう少しバイオマスエネルギーの普及の観点からなんとかならないのだろうか、と思っていたら、とっておきの制度がイギリスに存在した。「熱のFIT」である。

 FITとは、再生エネルギー固定価格買取制度と説明されるとおり、太陽光や風力、そしてバイオマス(主に木材)などを使ってつくられた電力を高い固定価格で買い上げる制度だ。それによって普及を後押ししてコストの引き下げを図る。

 日本でも実施しているのだが、ことバイオマス発電に関してはまったく見当違いの方向に進んでいる。コストは下がらず、燃料は山を丸刈りして運び出したり、海外から輸入しているのだ。全然地球環境によくない。そもそもバイオマスエネルギーの電力に転換できる効率は1~2割と低すぎる。残りは熱として捨てているのだ。

本末転倒の巨大バイオマス発電所の建設が進む

 ところがイギリスは、2011年から電気のFITから固形バイオマスを外し、熱のFITこと「再生可能な熱への助成RHI(Renewable Heat Incentive)」を始めたのである。再生可能な熱の生産コストと化石燃料による熱生産のコストの差を政府の補助金で埋めるものだ。非家庭部門と家庭部門(2014年スタート)に分けており、非家庭用のバイオマスボイラーにはkWh当たり8.6ペンス、家庭用には12.2ペンスと決められた。現在のレート(1ペニー=1.4円)ならば、それぞれ12円と17円前後になる。

 家庭部門では、年間一律に15MWhと決められているので、具体的な補助額は、1年間で1830ポンド(1ポンド=147円換算で27万円近く)だ。助成額は、市場条件の変動に応じて四半期ごとに改定されるが、支援期間は、それぞれ7年と20年に及ぶ。

 対象は、都市ガスが届かない農村部で、約75万世帯だという。助成されるのは、家庭用ではバイオマス専焼のボイラーと木質ペレットのストーブで、ともに燃焼効率や排出などが一定基準以上の認証を得たものだけ。ただ、これらの機器の導入に対する補助金もあった。

 

 こうした制度を日本にも取り入れられないか。

 もちろんイギリスとと同じにはできない。そもそも変動の大きな化石燃料とバイオマス燃料の購入価格の差額を決めるのが簡単ではない。それに設置場所がない施設もあるし、薪などを購入せずに自力で生産している家はどうするのか。趣味的な薪ストーブに助成すべきどうかの議論もあるだろう。考えれば考えるほど難問が出てくる。

 それでも、まずは学校や公共施設、医療福祉施設、農業施設、さらにはショッピングセンターなどの冷暖房や給湯に利用すれば効果的なはずだ。家庭用も、寒冷地や規模で線引きすれば不可能ではない。

 おバカなバイオマス発電のFITよりも、熱のFITを普及する方がよほど環境にやさしいだろうから、検討の余地はある。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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