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男女平等とLGBTは別問題?政府の「男女共同参画基本計画」に必要な視点とは

松岡宗嗣一般社団法人fair代表理事
内閣府男女共同参画局のWEBサイト

男女が平等な社会であるべきだーー。この”お題目”に反対する人は多くはないだろう。しかし、依然としてジェンダーギャップ指数は121位と、明らかに平等からは程遠い現状だ。

現在、内閣府は「第5次男女共同参画基本計画」の素案に対してパブリックコメントを募集している。実はこの計画、「多様なジェンダーやセクシュアリティのあり方」という視点からも重要な計画といえる。

11の分野に分けて「計画」を策定

「男女共同参画基本計画」これは、男女が社会の対等な構成員として、政治や経済などさまざまな分野で均等に参画できる社会の実現を目指し、1999年に成立した「男女共同参画基本法」に基づき、政府等が取り組む施策をまとめた「計画」だ。

政治や企業などでの”指導的地位”への女性の参画拡大をはじめ、雇用、科学技術・学術、地域や防災などの領域での女性を取り巻く環境の整備、女性に対するあらゆる暴力の根絶、女性の健康支援、教育やメディアなど11の分野に分けて計画が立てられている。

2000年から5年おきに改訂され、今年で5回目。「第5次男女共同参画基本計画」の素案に対し、現在パブリックコメントが募集されている。

「多様な性のあり方」という視点

「男女」という枠組みで捉えても、未だ女性と男性が平等に扱われているとはいえない現状だが、近年は、そもそもジェンダーは「男女」という二つに分けきれないことや、男性や女性という枠組みの中でも、異性愛/同性愛や両性愛、シスジェンダー/トランスジェンダーなど、性のあり方の多様性への注目が集まっている。

25日に開かれた今回の素案に対する公聴会では、辻村みよ子・東北大学名誉教授もこれについて触れ、ジェンダーに基づく差別(Gender Based Discrimination)を考える必要があり、LGBTも含んでいく方向性について言及した。

実は「男女共同参画基本計画」は、こうした多様なジェンダーやセクシュアリティという視点からも非常に重要な計画と言える。

パートナーシップ制度と男女共同参画推進条例のつながり

男女共同参画基本法は、政府だけでなく自治体にも「計画」の策定を求めている。

自治体の中には、男女共同参画を推進するための「条例」をつくり、その条例に基づいて「計画」を策定する場合もある。

「LGBT」という言葉が広く知られるきっかけとなった要因の一つに、2015年の渋谷区・世田谷区で初めて導入された「パートナーシップ制度」があげられる。実は渋谷区は「男女平等及び多様性を尊重する社会を推進する」という条例を作り、その中でパートナーシップ制度を取り入れている。

今年8月時点で57の自治体に導入が広がっている同制度。中には渋谷区と同様に「男女共同参画推進条例」を改正する形で導入している自治体もある。

例えば、2019年3月には、東京都豊島区が男女共同参画推進条例を改正。「パートナーシップ制度」だけでなく、「性的指向や性自認による差別禁止」や「アウティングの禁止」なども盛り込んだ画期的な条例だった。

こうした条例は、遡ると2013年に東京都多摩市で成立した「多摩市女と男の平等参画を推進する条例」が起点となっている。

当時、条例検討懇談会の会長をつとめた浅倉むつ子・早稲田大教授の尽力により、 性別だけでなく「性的指向」や「性自認」という概念・定義が明記され、多様な性のあり方を含む条例へと変わっていった。

ジェンダー平等とLGBT問題は別問題ではない

ジェンダーによる格差が大きい日本社会では、まだまだ「男女」という枠組みでこの問題を考える必要性は大いにある。

その一方で、「ジェンダー平等」と「LGBT問題」は別のものとして語られることがあるが、問題の根本的な解決のためには、男女二元論や、異性愛やシスジェンダー規範とも地続きの課題であることが認識されるべきだ。

自治体の「男女共同参画推進条例」が多様な性を含むジェンダー・セクシュアリティに関して平等な社会を目指し変化しつつあるように、今回の「男女共同参画基本計画」でも2010年の第3次計画以降、「性的指向や性同一性障害」という概念が入った。

しかし、第5次の素案を見る限り、「性同一性障害」という言葉は「性自認」に変わっているとはいえ、直近10年間の社会や法制度の変化を反映しているとは言えない。

取り入れられてほしい5つのポイント

「第5次男女共同参画基本計画」は素案が公開中だ。

性の多様性の視点から、特に計画に取り入れられるべきと考える5つのポイントをパブリックコメントとして送りたい。

【1】第6分野「男女共同参画の視点に立った貧困等生活上の困難に対する支援と多様性を尊重する環境の整備」の「エ 女性であることで更に複合的に困難な状況に置かれている人々への対応」に次のことを追加する。

厚生労働省が職場の性的マイノリティに関する委託調査を実施したことや「パワハラ防止法」が成立したことを受けて、企業の取組の参考となる指針の策定や、ハラスメント防止の徹底、継続的な調査の実施などを明記すべき。防災の領域でも、避難所の施設利用やハラスメント防止について加筆すべき。

【2】第2分野「雇用等における男女共同参画の推進と仕事と生活の調和」の「2 雇用の分野における男女の均等な機会と待遇の確保対策の推進」「ウ 女性に対する各種ハラスメントの防止」に次のことを追加する

男女雇用機会均等法に基づく指針における「セクハラ」には、性的指向・性自認にかかわらず、受けるということが明記されている点や、パワハラ防止法に基づく指針でも「パワハラ」には性的指向・性自認に関するハラスメントも明記されていることから、性的指向・性自認に関するハラスメント防止の徹底を盛り込むべき。

【3】第5分野「女性に対するあらゆる暴力の根絶」に次のことを追加する。

性暴力被害については、性的指向や性自認にかかわらず必要な支援が受けられるよう明記すべき。特にDV被害などの相談窓口での適切な対応、相談・支援体制の整備を明記すべき。

【4】第7分野「生涯を通じた女性の健康支援」に次のことを追加する。

「リプロダクティブヘルス/ライツ」は性的指向や性自認に関する課題とも密接なので、リプロダクティブヘルス/ライツに関する教育を義務教育段階から生涯にわたって積極的に行うべき。認識だけでなく、具体的な施策にもリプロダクティブヘルス/ライツについて記載し、具体策を盛り込むべき。

【5】第10分野「教育・メディア等を通じた男女双方の意識改革、理解の促進」に次のことを追加する。

メディアにおける性的指向や性自認に関する不適切・不正確な報道などが相次いでいることから、メディアへの検討・改善の呼びかけを促進すべき。さらに、義務教育段階からメディアリテラシー教育を促進すべき。

異なる経験から声を送ること

パブリックコメントは、9月7日まで、内閣府男女共同参画局の意見提出に関するこちらのサイトから送ることができる。

この「男女共同参画基本計画」を取りまとめるのは、行政機関の中でも特に広範囲に渡る政策の総合調整を担う「内閣府」だ。また、男女共同参画社会の実現は「21世紀の我が国社会のあり方を決定する最重要課題」とまで位置付けられている。

一方で「女性」の置かれている状況は平等とは言えない現状。11の分野にはそれぞれ足りていない視点が多くあるだろう。さまざまな団体が今回の「男女共同参画基本計画」に対して課題点をあげている。ぜひそちらも参考にしながら、男女共同参画社会について、どんな取り組みが必要かを考えてみてほしい。

加えて、たとえ一口に「女性」といっても、シスジェンダー・異性愛の人ばかりではなく、レズビアンやトランスジェンダーの女性(または、移民など外国にルーツを持つ女性、障害のある女性)など、さまざまな異なる属性や経験を持つ女性がいるように、さらには、そもそも男女という二元論の枠組みにはあてはまらない人もいることも踏まえ、多様なジェンダー・セクシュアリティの視点を取り込んだ「計画」が進められるべきだ。そのために必要な取り組みについて、ぜひ多くの人からパブリックコメントを送ってほしいと思う。

一般社団法人fair代表理事

愛知県名古屋市生まれ。政策や法制度を中心とした性的マイノリティに関する情報を発信する一般社団法人fair代表理事。ゲイであることをオープンにしながら、GQやHuffPost、現代ビジネス等で多様なジェンダー・セクシュアリティに関する記事を執筆。教育機関や企業、自治体等での研修・講演実績多数。著書に『あいつゲイだって - アウティングはなぜ問題なのか?』(柏書房)、共著『LGBTとハラスメント』(集英社新書)など

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