韓国への悪夢 短距離ミサイルを1分間に4連射へ――北朝鮮が加速させる攻撃能力
北朝鮮は今月2日に続いて9日にも飛翔体の発射を強行した。事実上の短距離弾道ミサイル発射で、短期間に連射実験を繰り返し、攻撃能力向上を加速させている。ミサイル実験をめぐっては、北朝鮮側が「通常の訓練」「自衛的行動」と主張するのに対し、英仏独など欧州5か国が非難声明を発表、北朝鮮側はさらにこれに反発する形で発射を強行しており、またしても負の連鎖が起きている。
◇目指すは「1分間で4発」か
北朝鮮国営の朝鮮中央通信は10日、金委員長が9日に朝鮮人民軍前線長距離砲兵区分隊の砲撃訓練を再び指導し、その結果に「大きな満足の意」を表明したと報じた。
韓国側の分析によると、9日には3発が発射され、最大飛距離約200キロ、最高高度約50キロ。3発とも超大型放射砲(実質的には短距離弾道ミサイル)と推定される。米政府当局者はCNNテレビに「北朝鮮が発射したのは4発」と述べていることから、1発が失敗した可能性も排除できない。
超大型放射砲の連射実験は▽昨年8月24日▽同9月10日▽同10月31日▽同11月28日▽今月2日――に続き6回目。回数を追うごとに発射間隔を縮めている。2発だけの連射は3月2日の試射で連射能力を20秒に縮めているため、今回は3発以上の連射能力を試した可能性がある。
現時点のデータでは、今回は▽1発目と2発目の間隔が20秒▽2発目と3発目が1分以上――となっている。後者が1分以上かかっているのが、発射能力の問題なのか、意図的に間隔をあけて発射したのか明確ではない。今回の3連射が成功かどうか、さらなる分析が必要だ。
超大型放射砲は、2列4本の発射管を装着した移動式発射台(TEL)から発射されている。仮に「20秒間隔で4発連射」、つまり「短距離弾道ミサイルをTELから1分間に4発撃つ能力」を持てば、実戦配備の水準に達したとみることができる。これを多種類の放射砲とともに発射すれば、追尾や迎撃はより困難となり、韓国や在韓米軍への脅威はいっそう高まる。
◇韓国に踏み絵迫る
北朝鮮による今月2日の発射に際して、韓国大統領府(青瓦台)が遺憾の意を表明したのに対し、北朝鮮側は金委員長の妹、金与正党第1副部長名義の談話を通して「誰かを脅かすために訓練をしたのではない」「差し出がましいふざけた態度」と露骨な表現で非難していた。
また、国連安全保障理事会が5日開いた非公開の緊急会合後、英国とドイツ、フランスなど5カ国が北朝鮮を非難する共同声明を出すと、北朝鮮外務省報道官は「米国にそそのかされた無分別な振る舞いは、別の重大な反応を誘発する導火線になろう」(7日談話)として、ミサイル実験を継続する可能性を示唆していた。北朝鮮としては、あくまでも自衛目的である点を強調し、批判そのものを受け付けない立場を鮮明にしていた。
北朝鮮は韓国に対して「踏み絵」を迫っているようにも見える。金委員長は4日、電撃的に文在寅韓国大統領に親書を送り、新型コロナウイルスの拡大防止に取り組む文大統領を慰労した。
北朝鮮では「最高指導者(金委員長)の親書はとてつもなく重い。たとえ金与正氏が金委員長の実妹であっても、金与正氏の談話とは比較にならないぐらい、親書というものは強力な意思表示である」(在日朝鮮人識者)とされる。したがって北朝鮮としては、韓国と関係改善を進めてもよいという基本姿勢を示しつつも、北朝鮮の行動を批判するような言行は慎むよう戒めているように思える。
新型コロナウイルスの感染拡大をめぐる緊張は北朝鮮でも続き、指導部としては感染拡大への懸念が高まって国内が動揺するのを抑える必要がある。国際社会の反発を招きながらも、ミサイル発射などの「通常の訓練」を実施する背景には、金正恩体制が安定していることを誇示し、国内を引き締めたいという思惑があるのかもしれない。
金委員長は9日の現地指導でもマスクをせずに現れた。至近距離にいる朴正天軍総参謀長が黒色のマスクをしているのとは対照的だ。金委員長の近くには朴氏以外の幹部の姿が見当たらないことから、感染拡大への懸念から同行者を最小限にしている、との観測も出ている。