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配達アプリは不要。20年以上、メジャーリーガーたちに食事デリバリーしているのは誰なのか。

谷口輝世子スポーツライター
(写真:USA TODAY Sports/ロイター/アフロ)

 まだ、夢の中にいるメジャーリーガーを起こさぬように、早朝から食事の支度をする人がいる。ブルージェイズの有望新人、ブラディミール・ゲレーロ・ジュニアの祖母、アルタグラシア・アルビーノさんだ。

 ブルージェイズのゲレーロ・ジュニアは本拠地カナダのトロントにアパートを借り、そこで祖母と同居している。若い選手が、仲間の若い選手とルームメートになり、共同でアパートを借りている例は少なくないが、故郷から離れた都市で祖母と同居している珍しいケースだろう。

 アルビーノさんが早朝からから食事の支度にかかる様子を、ニューヨークタイムズ紙のジェームス・ワグナー記者とフォトグラファーのタラ・ウォルトンさんが伝えている。(8月25日の電子版)。写真が写し出している大きなお鍋からは、おいしそうな匂いまでが漂ってくるようだ。

 いくつもの大きなお鍋が写っているのは、孫の食事の用意だけをしているわけではないからだ。ブルージェイズの選手にもおすそ分けするべく大人数の食事を調理している。トロントでのヤンキース戦の前にゲレーロ・ジュニアに声をかけると「(祖母は)多くの人に食べてもらえるように作っているからね」と言う。最近はアプリで料理の配達を頼めるサービスが人気だが、ゲレーロ・ジュニア自ら、保存容器に入った祖母の手作り料理を球場まで運んできているそうだ。

 アルビーノさんは生まれも育ちもドミニカ共和国。少女期から母が営むフードスタンドで調理の手伝いをしてきた。プロである。

 アルビーノさんの料理は、ブルージェイズの選手たちだけでなく、対戦相手の選手にもふるまわれている。トロントに来るたびにラテン系の選手らが楽しみにしている。故郷の味に飢えているのではないか、というやさしさの先には、敵も味方もない。おばあちゃんの懐の深さだろう。そうはいっても、ゲレーロ・ジュニアが相手チームのロッカールームに入ることはできないので、対戦相手のロッカールームの係員を経由して運ばれている。前述したニューヨーク・タイムズ紙の記事によると、祖母はどの選手からもお金は受け取っていないという。固辞している。

 ヤンキースのルイス・セベリーノもおばあちゃんのお世話になっており、9月13-15日のトロントでの3連戦で話を聞くと「おいしいよ!」と言っていた。

 ご存知の通り、ゲレーロ・ジュニアの父は野球殿堂入りを果たしたブラディミール・ゲレーロだ。伯父はドジャースなどでプレーしたウィルトン・ゲレーロである。アルビーノさんは、息子たちが現役メジャーリーガーだったころから、彼らと同居し、チームメートや対戦相手の選手の分までご飯を作ってきた。ゲレーロ家の伝統が、孫がメジャーデビューしたことで、メジャーリーグの球場に戻ってきたのだ。

 現在、孫のゲレーロ・ジュニアは20歳、おばあちゃんは66歳。食事を作り終えるとブルージェイズの本拠球場ロジャース・センターのネット裏後方で試合を観戦することが多い。まだまだお元気そうで、このぶんだと、ひ孫とその仲間たちにも、おいしい食事を作っていただけそうである。

 

スポーツライター

デイリースポーツ紙で日本のプロ野球を担当。98年から米国に拠点を移しメジャーリーグを担当。2001年からフリーランスのスポーツライターに。現地に住んでいるからこそ見えてくる米国のプロスポーツ、学生スポーツ、子どものスポーツ事情をお伝えします。著書『なぜ、子どものスポーツを見ていると力が入るのかーー米国発スポーツペアレンティングのすすめ 』(生活書院)『帝国化するメジャーリーグ』(明石書店)分担執筆『21世紀スポーツ大事典』(大修館書店)分担執筆『運動部活動の理論と実践』(大修館書店) 連絡先kiyokotaniguchiアットマークhotmail.com

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