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他球団とはここが違う 西武ライオンズ40年のドラフト戦略に見る3つの狙い目

大島和人スポーツライター
中村剛也は2008年から計6度の本塁打王に輝いている。(写真:YUTAKA/アフロスポーツ)

試合以上に面白いドラフト会議

プロ野球ドラフト会議は試合よりも面白い。野球をよく知らない「普通のおばちゃん」にまで刺さる普遍的な魅力がある。その証拠に試合が地上波キー局でほとんど中継されない昨今だが、ドラフト会議は高視聴率を獲得する。会議後の『ドラフト緊急生特番』も10年近く放送が続いている。

一般視聴者の注目は有名選手の行き先だ。今回のドラフト会議では根尾昂(大阪桐蔭)と小園海斗(報徳学園)に4球団、藤原恭大(大阪桐蔭)に3球団と指名が集中した。各球団にニーズの違いがあるとはいえ「すごくいい選手」の評価にはあまり差が出ない。今は逆指名制度がなく、志望届の制約もある。だから「囲い込み」「強行指名」などの裏技も使いにくい。競合選手の獲得を左右するのはくじ運で、そこは人知の及ばぬ話だ。

各球団が自力で球団を強くする方法は、2位以下で1軍の戦力となる人材を確保すること。さらに言うと「他球団が評価していなくても実は使える人材」を確保する独自路線の探求だ。

黄金時代は万能アスリートを獲得

独自路線のドラフトで結果を出している球団はいくつかあるが、埼玉西武ライオンズは時代に応じて戦略を上手く変えている好例だ。

黄金時代の西武でGMの役割を担っていたのは根本陸夫氏。1978年の所沢移転から92年に根本氏が退団するまでの西武は、彼のイニシアチブのもと、万能アスリートを好んで獲得していた。また1982年から4シーズン指揮を執っていた広岡達朗監督は「守れない・走れない」タイプを忌避する指揮官だった。9年間で8度もパ・リーグを制した森祇晶監督時代も、体格のいい、パワーがあって走れるタイプの選手をスタメンに並べていた。

森西武は「手堅い」「小技を駆使する」という印象を残すチームだった一方で、スタメンの平均身長が185センチを超えることもある超大型チームだった。広岡監督時代以上に守れない、走れない選手がいない編成だった。秋山幸二は本塁打王と盗塁王を両方獲得した経歴を持ち、外野の名手でもあった。辻発彦のような守備やしつこい打撃が印象的なタイプも、実は182センチの大型選手だ。

根本氏は寝業師と呼ばれるほどのやり手だったし、当時の西武は資金力で他を圧倒できた。進学、就職を表明している人材の指名や、故障を煙幕に使った一本釣り、ドラフト外の活用などの「裏技」も成功の一因だ。一方で今以上の隆盛を誇っていた東京六大学野球の有名選手、即戦力にはあまり目を向けず、高卒を中心とした「ポテンシャルが高い選手を獲って育てる」というシンプルな戦略の実行が西武の黄金時代につながっていた。

後の主力を「お値打ち」な順位で獲得

根本氏が退団した以後の西武も、十分に魅力的な人材を獲得している。1994年に加入したのがメジャーリーグでも活躍し今年引退した松井稼頭央で、彼はドラフト3位だ。2000年のドラフトでは中島裕之(現在の登録名は宏之)を5位で獲得した。2001年にも中村剛也を2巡目、栗山巧を4巡目と「お値打ち」な順位で獲得している。

NPBの球場も広くなり、走れて守れる、本塁打を打てる選手は争奪戦が激しくなった。西武がこの時期に獲得した選手たちは黄金時代に比べれば選手は小柄だし、守備力や走力なども含めて万能とは言い難いタイプもいる。しかし関西を担当した鈴木照雄スカウトの手腕もあり、この時期の西武は関西の高卒野手を中心に「当たり」を連発した。

今の鉱脈は「東北」「180センチ未満」

今の西武はまた違う鉱脈を掘り当てている。今季の最多勝を獲得した多和田真三郎、本塁打王を獲得した山川穂高は中部商業(沖縄)、富士大(岩手)の出身。いずれも大阪桐蔭高や東京六大学のような超有力校ではない。西武が青森大の細川亨を1巡目で指名したのは2001年だが、その後も富士大出身の外崎修汰、秋山翔吾(八戸大)などを獲得。北東北大学野球連盟のOBが今季のパ・リーグ制覇の軸となっている。

もう一つ興味深い指名方針が、1980年代とは全く逆の「小柄な選手」を上手く活用するようになったことだ。6度も本塁打王に輝いた中村は175センチ102キロで、山川も176センチ108キロ。広岡監督や森監督の頃の西武は手を出さなかったタイプで、どちらも2位(2巡目)の指名だ。今はウエイトトレーニングの導入もあり、170センチ台でも飛ばせる、100キロ台でも動ける人材が増えた。

走れて動けてパワーもある、大柄で均整の取れた体格をしている選手は、どうしても奪い合いとなる。一方で何かしら「良い印象を与えない規格外」の要素を持つタイプは評価が下がる。実際に中村や山川は守備、走塁の名手でないし、そもそも先入観で評価は下がる。しかし打撃の素晴らしさを考えれば、彼らの獲得は十二分に釣り合っている。

今ドラフトの3位で西武が指名した山野辺翔は170センチ・69キロとやはり小柄だ。本会議で指名した7選手のうち4選手は180センチ未満だが、それも「お値打ち」を追求した結果だろう。

大谷翔平や糸井嘉男のような別格はいるが、球界を見ると大柄で運動神経万能という「非の打ち所がない天然物のアスリート」は減っている。西武が資金力や裏技で他球団を出し抜ける時代でもない。

それでも「他球団と同じ手は使わない」「ブランドに頼らない」という西武の大方針は変わらない。ただし状況の変化に合わせて狙い目を上手く調整している。そんな西武ライオンズ40年のドラフト戦略を線にして観察すると、そんなストーリーが見えてきた。

スポーツライター

Kazuto Oshima 1976年11月生まれ。出身地は神奈川、三重、和歌山、埼玉と諸説あり。大学在学中はテレビ局のリサーチャーとして世界中のスポーツを観察。早稲田大学を卒業後は外資系損保、調査会社などの勤務を経て、2010年からライター活動を始めた。サッカー、バスケット、野球、ラグビーなどの現場にも半ば中毒的に足を運んでいる。未知の選手との遭遇、新たな才能の発見を無上の喜びとし、育成年代の試合は大好物。日本をアメリカ、スペイン、ブラジルのような“球技大国”にすることを一生の夢にしている。21年1月14日には『B.LEAGUE誕生 日本スポーツビジネス秘史』を上梓。

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