欧州最大のアンティーク市へ パリ郊外「印象派の島」で50年余りの歴史を持つ「シャトゥーの骨董市」
バリの骨董市といえば、おそらくクリニャンクール蚤の市やヴァンヴの蚤の市を思い浮かべる方が多いのではないでしょうか?
前者が常設、後者は毎週末の開催ですから、どの時期にパリに来られても楽しむことができます。
けれどもアンティーク好きのパリっ子がとても楽しみにしている骨董市が実は別にあるのです。それは「Foire de Chatou(シャトゥーの骨董市)」です。
シャトゥーというのはパリの西の郊外にある町の名前です。
パリ中心部のターミナル駅、レ・アール駅から郊外線に乗れば、およそ20分で着くほどの距離にあります。
パリを潤した後のセーヌ川がこの町にも流れていて、骨董市はその中洲で春と秋、年に2回開かれます。
直近ではついこの間、9月23日から10月2日まで10日間にわたって開催されましたがこれは通算103回目。つまり50年以上の歴史を持つイベントなのです。
パリから郊外線に乗ってこのイベントを訪ねた様子は、こちらの動画でも詳しくご紹介しています。よろしければどうぞご覧ください。
では、どうして、この骨董市がそんなに人気なのでしょうか?
理由はまずヨーロッパ最大級という規模。300から350ものスタンドが軒を連ねます。
もう一つの理由は、品物のクオリティです。骨董市を主催するのは、Syndicat National du Commerce de l’Antiquité, de l’Occasion et des Galeries d’Art (通称SNCAO-GA)。かなり長い名前ですが、つまりはフランスの骨董商組合。市に出展するためには、まずこの組合のお眼鏡にかなう必要があります。
骨董品はしばしば真贋を見分けるのが難しいものです。偽物と承知で物を売る人がいないわけではないという業界です。そんな中、組合のフィルターを通った出展者だけが集う市となれば、かなり信頼がおけるというものです。
私は10年以上前にも一度、このシャトゥーの骨董市を訪ねたことがあるのですが、アンティークコレクションしている友人のパリマダムに連れられて、でした。
彼女いわく「パリの蚤の市などよりも掘り出し物に出会う可能性がずいぶん高い」。実際、彼女のアパルトマンは、シャトゥーの骨董市で買ったという品々で飾られていました。
あれから随分年月が経ちましたが、今回の再訪でも彼女の言葉に納得。私はアンティークにとりわけ詳しいわけではありませんが、これまでの経験をもって見れば、品物のクオリティが高く、お買い得なものが多いという印象を強くしました。
前回の春の開催はコロナ禍、しかも天候にあまり恵まれなかったという条件ながら、会期中3万人以上の来場者があったそうですから、人気のほどがわかります。
「旅の予定を立てたいから次回の開催日を教えて欲しい」と、半年前、しかも外国からの問い合わせがあることも珍しくないようで、案の定、入り口にはすでに次の開催日が大きく張り出されていました。
さて、イベント好き、そして食べるのが大好きなフランスという国柄ですから、この骨董市にも飲食のスタンドがずらりと並んでいます。12時ともなると席がみるみる埋まり始め、昼間から赤ワインを傾けつつ、お肉をワシワシと食べている光景があちらこちらでみられます。
生牡蠣、サンドイッチ、クレープ、タルトフランベなど、ありとあらゆる料理のスタンドがあるのですが、肉系のもののスタンドが多いと感じます。それはじつは気のせいではなく、骨董市の成り立ちに由来するもの。市はもともと、「ジャンボン(ハム)」の市として発祥したという歴史があるのだそうです。
以下、骨董市のウェブサイトの記述から、昔話を少し…。
「ガリア」と呼ばれていた時代から、フランスの各地にはハム、ソーセージ、サラミなどなど、各地方ごとに自慢の豚肉加工製品「シャルキュトリー」の伝統がありました。そうしたシャルキュトリーは19世紀までクリスマスイブのご馳走の定番だったそうです。
中世の時代、各地方のシャルキュトリー業者がパリにやってきて、ノートルダム大聖堂の周りで商いをしていました。品質の良し悪しが重要視されるようになると、粗悪な品はセーヌ川に投げ捨てられたりもしたのだとか。
1500年以降になると、商いの場所が徐々に移動してゆきます。まだ田園風景だったコンコルド広場で行われていた時期もあったようです。1840年、サンマルタン運河のあたりに市の場所が移った頃には、シャルキュトリーだけでなく、骨董品、古着、鉄くずなども扱われるようになりました。そしてほどなく、後者の重要性がシャルキュトリーを上回るようになりました。
そして1970年。市はパリ市内からの移転を迫られます。そこで助け船を出したのがシャトゥー市。以後50年以上にわたり、年に二回開催される「シャトゥーの骨董市」が親しまれてきたというわけです。
ちなみに、市が開かれる中洲の名前は、Ile des Impressionnistes(印象派の島)。この名前でピンときた方もいらっしゃるでしょう。ルノワールの「舟遊びをする人々の昼食」をはじめ、印象派の画家たちが好んで筆をとった場所。現在でも彼らゆかりのレストランや美術館があり、緑豊かな風景が広がっています。
次回の開催予定は2023年3月10日から19日
入場料7ユーロ(15歳以下は無料)
パリ市内から公共交通機関を利用する場合は、郊外線RER-A線(サンジェルマンアンレー行き)Chatou-Croissy駅で降り、ホーム後方の改札を出て徒歩5分ほど。
もしくは、一つ手前のRueil-Malmaison(ルイユ・マルメゾン)駅で降りて、会場までのシャトルミニトレインを利用(10時から12時30分、14時から18時の間、およそ30分おきに発着。無料)。
※2022年10月時点のサイト情報から