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年間最多勝の若隆景と初場所でついに新三役の若元春 いま大波に乗る兄弟が語る互いの強み、さらなる挑戦

飯塚さきスポーツライター/相撲ライター
稽古後に取材に応えていただいた兄の若元春(左)と弟の若隆景(写真:筆者撮影)

3月場所で初優勝し、2022年の年間最多勝を受賞した、弟の関脇・若隆景と、2022年9月場所・11月場所と2場所連続で2桁勝利を挙げ、初場所で新三役への昇進が決まった兄の若元春。若貴以来の兄弟三役の誕生に角界が沸いている。いま最も注目の二人に対談形式で話を聞いた。

互いに大活躍の1年を振り返る

――九州場所を振り返っていかがですか。

若隆景「勝ち越しはしましたが、自分でも満足いく結果ではなかったので、反省してまた初場所に向けてしっかり稽古したいと思います。毎場所楽な場所はなくて、精神的にも肉体的にもきついですし、苦しみながら相撲を取っているので、九州場所が特別苦しかったかと言われたらそこまでではないのですが」

若元春「僕は、幕内自体が挑戦だとずっと思っているんですが、そのなかでも自分の相撲の色を出していくというのが九州場所で取り組んだ挑戦でした。左四つになりたいのは変わらないけど、そこにもっていくまでの過程で相撲の色を出していく部分では、かなり挑戦したかなと思いますね」

――若元春関は終盤5連勝。2場所連続10勝を挙げました。波に乗っている原因はなんですか。

若元春「幕内にいること自体、波に乗れていると思います。あとは必死に取って、そこに結果がついてきただけ。ずっとエンジンをふかしている状態なので、体もメンタルも悲鳴を上げていますが、それでもまだアクセルを踏めるだけ踏もうと思います。ちょっと転べば負け越しもあり得るような相撲なので、たまたま2場所いい結果につながっただけ。これが自分の実力だとは思いません。成績はたまたまだと思っておいたほうが頑張れますから」

――若隆景関は14日目で勝ち越しを決めました。心境はいかがでしたか。

若隆景「勝ち越してホッとしました。星勘定したらいけないんですけど、出だしからそこまで白星が多かったわけじゃないので」

――千秋楽は、優勝決定戦巴戦への進出がかかる大関・貴景勝関と対戦。惜しくも敗れてしまいましたが、やはり相手の気迫が違ったのでしょうか。

若隆景「気迫もあったと思います。ただ、それで簡単に負けているようじゃダメだなというふうにあらためて思いました。今後に向けては、精神面の強化に加えて、下からの攻めを磨いていかないといけない。自分の下からの攻めが出ているときはいい相撲で勝てるので、この相撲を磨いていきたいです。相手云々よりも、自分の相撲をどんどん伸ばしていきたいと思います」

――以前、元横綱・3代目若乃花さんの相撲を参考にしているとおっしゃっていました。対戦相手の研究よりも、ご自身の相撲の研究がメインですか。

若隆景「いまも若乃花さんの相撲を見ていますし、戦う相手の研究ももちろんします。でも、相手がどうこうよりも自分の相撲を取り切ること。ある程度頭の中でイメージトレーニングをして、相手がこう来るからこう行こうとも考えますが、でもやっぱり土俵に上がったら考えた通りにならないことがほとんどだと思うんです。あれこれ考えすぎるよりは、自分がこういう相撲を取るとしっかり決めて、そこをぶらさずにいけばいい相撲が取れると思います」

――お二人とも、この15日間で印象的な取組はどの一番でしたか。

若元春「翔猿関と佐田の海関は、ずっと苦手意識のある相手だったので、九州場所で勝てたのは大きかったと思います。翔猿関は、押し込めば下がって引っかけてくるし、残せば一気に前に出てくるし、横の動きも速い。毎回引っ掻き回されて負けていたんですが、今回は立ち合いからかちあげて相手を浮かせられました。佐田の海関は立ち合いがうまくて、左を差せないどころかもろ差しになられるので、今回は立ち合いもろ手で立って左をねじ込んだらなんとか勝てました。場所のテーマである自分の“色”を出そうとしてうまくいった2番だったので、印象に残っています」

若隆景「毎日一番一番必死なので、僕は特にないかな。ただ、全体的に振り返って中途半端な攻めになる相撲が多かったなと思いますので、そういうところを改善したいです。いい相撲も何番かありましたが、それを継続しないといけないので、気持ちのもっていき方を含め15日間通していい相撲を取れるようにしたいと思います。(得意の)おっつけも、前に出ていないとできません。下から攻めて前に出る意識をすると、おっつけもまわしを取ってからの攻めも自然と出ると思うので、それを目指していきたいです」

――若元春関と仲良しの阿炎関が初優勝しました。親友の活躍をどう見ましたか。

若元春「純粋にすごいなと思いました。ふみや(阿武咲)に負けたときは、ちょっと厳しいかなと思ったんですけど、そこから星を戻していって千秋楽の本割で高安関を突き出した瞬間、これはいけるなと思いました。3月は弟、11月は阿炎関と、2022年は身近な人が優勝したので、次こそはパレードカーの旗手をやりたいです!準備できてるんだけどな~(笑)。僕自身は優勝なんて夢のまた夢なので、2023年は頑張って旗手を目指します。旗手は番付もそれなりに上じゃないとできないので、落ちないようにしがみつきます」

――優勝もぜひ自分事にしてください(笑)。

若隆景「充実した1年」 若元春「子どもが生まれて身が入った」

――お二人とも、2022年を振り返っていかがですか。若隆景関は3月に初優勝、さらには年間最多勝を受賞されました。

若隆景「充実した1年だったと思います。2022年が始まるときには、こんなにもいい1年になるとは思っていませんでした。充実した相撲を取れているのは自分でも驚きです。逆に、もっとやればもっと上を目指せるんだと自分でも思っているので、上を目指せるからにはしっかりやることをやって、期待に応えられるようにしたいと思います」

若元春「僕は、5月に子どもが生まれて私生活が充実してきた分、仕事である相撲にも身が入ったと思います。あんまりそう考えたことはなかったんですが、結果を見ればそういうことかなと。子どもが生まれたのは5月場所中で、生まれたその日に勝ち越しました。なかなか出て来てくれなくて、2日くらい寝ていなかったんですが、それでも勝てたのは頑張ってくれた妻のおかげですね。来場所は最高位ですが、当たる相手は変わらないので、地位に気負わないで頑張りたいと思います」

――2022年は、新型コロナウイルスによる制限が徐々に緩和され、巡業や出稽古なども戻ってきました。本場所以外ではいかがでしたか。

若隆景「イベントがほとんどないコロナ禍で番付が上がってきたので、徐々に始まってきた巡業やイベントに幕内の上位として出られるのはすごいことだなと思いました。自分は十両のときにしか巡業に出たことがなかったので、ちょっと不思議な感じというか。昔は役力士っていいなと思っていたので、いざ自分が三役で巡業に出られるのはやっぱりうれしかったですね」

若元春「弟はコロナ禍で十両って言いましたけど、僕なんか幕下でしたから。もともと巡業は幕下で出ていたときから好きだったので、なんとか幕内まで上がって来られてよかったです。サインを求められるのが新鮮で、ありがたいですね。素直にうれしいです」

――10月には、お二人の兄弟子であり現師匠の荒汐親方(元幕内・蒼国来)の断髪式がありました。部屋の関取として参加していかがでしたか。

若元春「学生の頃から荒汐部屋に合宿に来て、親方が日本に来た頃から知っていました。そんな兄弟子が髷を落として親方になる区切りで、関取として参加できたことは大きいと思います。感慨深かったです」

若隆景「この断髪式は、部屋全体で式を盛り上げようという雰囲気があったので、そこに貢献できてよかったなと思います」

荒汐親方の断髪式では、長男の若隆元(左)と共に3兄弟で化粧まわし姿を披露した(写真:筆者撮影)
荒汐親方の断髪式では、長男の若隆元(左)と共に3兄弟で化粧まわし姿を披露した(写真:筆者撮影)

真逆な二人の思い出トーク

――ここでお二人の幼少期についても伺います。長男の若隆元さんを含め、3人兄弟で育ちました。小さい頃はお互いになんと呼んでいましたか。

若元春「弟のことは、『あつし』とか『あっち』て呼んでいたかな(若隆景の本名は渥)。大波さん(若隆元)は、『あんちゃん』でした」

若隆景「大波さんはそうだね。でも剛士(若元春の前の四股名)は、うーん、どうだっけ…」

若元春「たしか『みー』じゃない?港(若元春の本名)の『み』」

――兄弟で何をして遊んでいましたか。

若元春「僕は割とずっと一人でいました。マンガが好きで、一人でマンガを読んでいたんです。大波さんと渥はよく一緒に遊んでいたよね」

若隆景「何して遊んでいたかなあ。外に行って自転車に乗ってどこか行くことが多かったかな。自分はどちらかというと外で遊ぶことが多かったと思います」

――性格が真逆のお二人。逆に共通点は何かありますか。

若元春「食べ物の嗜好が似ているかもしれません。二人とも寿司が好きなので」

若隆景「逆に寿司以外はたぶん全然似ていないと思います。寿司しかない(笑)」

――互いにお互いをどんな兄・弟として見ていますか。

若元春「小さい頃からしっかりした性格です。僕が高校3年生のとき、部長をやりたくなくて弟に投票したのは覚えています。渥のほうが部長に向いてるんじゃないかな~って(笑)。それくらいしっかりしていて、よく考えています」

若隆景「昔からよく食べていました。すごかったですよ」

若元春「はい、食べるの好きだったっす。うちは夜ごはんが各々出てくるんですけど、いつも兄弟二人が残した分まで食べていましたね」

――お父さまも元力士で、ご実家はちゃんこ屋さんを営まれています。おうちのごはんはどんなものでしたか。

若元春「父と母、どちらか手の空いたほうが作って持ってきてくれていました。お店で出す料理が余っていれば出てくることもあるけど、普段はふつうのごはんです。焼き鳥丼みたいな鶏丼が好きでした」

若隆景「僕は好きだったものは特にないですね。あ、でも茶碗蒸しは好きでした。店のメニューなので、余ったときにだけ出てくるんですけど、店のメニューは割となんでも好きだったなあ」

若元春「そうだね。店のメニューで茶碗蒸しが余ったときはまじでテンション上がりました」

――これだけは互いに負けないというものは何かありますか。

若元春「趣味の詳しさじゃないですか。僕はプロレス。それは弟にだけじゃなくて、角界でも上位で負けないと思いますけどね」

若隆景「趣味でいえば『ワンピース』のことだったらそれなりに詳しいと思います」

若元春「お互い何言ってるかわかんないですからね(笑)」

――では、それぞれの尊敬している部分は。

若隆景「体が大きくて、左四つになったら強いから、それはすごいと思っています」

若元春「立ち合いの鋭さと、一番は稽古に対する姿勢。僕は気を抜くとだれる性格だけど、彼はだれることが一切ないから、そういう自己管理能力がすごいなと思います」

性格は真逆の二人。写真は荒汐親方の引退相撲で兄弟対決をしたとき(写真:筆者撮影)
性格は真逆の二人。写真は荒汐親方の引退相撲で兄弟対決をしたとき(写真:筆者撮影)

1年間の躍進を2023年にもつないでいく

――最近の稽古は充実していますか。

若隆景「昨日も今日も(ほかの部屋の力士たちに)出稽古に来てもらっていたので、普段よりも充実しているんじゃないかなと思います」

若元春「僕らは9:1(で若隆景の勝ち)じゃないですか」

若隆景「いやそんなことないと思うけど…」

若元春「僕が左四つにならないと勝てないので」

――お二人とも、今後の活躍がますます楽しみです。最後に、2023年の1年に向けて目標をお聞かせください。

若元春「この1年、必死にやってなんとか食らいついてきたので、2023年もしっかり成績を出して、少しでも上に行けるように頑張りたいと思います。三賞や金星は取れていないし、勝ったことのない人もたくさんいますから、できていないことをひとつひとつクリアしていきたいです」

若隆景「2022年は充実した1年だったと思いますので、(優勝や年間最多勝といった)経験を生かして成長していき、次はさらに充実した1年にしたいと思います。具体的には、もう一つ上の番付を目指してやっていきたい。まだはっきりとはわからないけど、自分の相撲を取れれば上は見えてくるかなと思います」

【この記事は、Yahoo!ニュース個人のテーマ支援記事です。オーサーが発案した記事テーマについて、一部執筆費用を負担しているものです。この活動は個人の発信者をサポート・応援する目的で行っています。】

スポーツライター/相撲ライター

1989(平成元)年生まれ、さいたま市出身。早稲田大学国際教養学部卒業。ベースボール・マガジン社に勤務後、2018年に独立。フリーのスポーツライター・相撲ライターとして『相撲』(同社)、『Number Web』(文藝春秋)などで執筆中。2019年ラグビーワールドカップでは、アメリカ代表チーム通訳として1カ月間帯同した。著書に『日本で力士になるということ 外国出身力士の魂』、構成・インタビューを担当した横綱・照ノ富士の著書『奈落の底から見上げた明日』。

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