まもなく最終回・光る君へ 紫式部が描いた、月と友情とギター 隠された「映画のような名場面」とは?#4
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大河ドラマ「光る君へ」も12月15日(日)で最終回を迎えますが、紫式部や源氏物語に関心を持つ方が増えているようです。
ドラマの作中では藤原道長の「この世をば 我が世とぞ思ふ 望月の 欠けたることも 無しと思へば」の句は、紫式部にとって感慨の深い満月(十五夜)でした。一方、源氏物語の作中には、ほとんど紹介されない「十六夜(いざよい、満月の翌日の月)」の名場面が隠されています。
「光る君へ」の舞台の1つ 福井県越前市
「光る君へ」の舞台の1つが、福井県越前市。
紫式部(まひろ)の父が越前守(えちぜんのかみ、県知事にあたる)として赴任した地で、紫式部も同行しています。
武生駅からバスで20分の場所には、紫式部公園と「紫ゆかりの館」があります。
今年12月30日で閉館となる、越前 大河ドラマ館とは異なり、こちらはいつでも訪ねられます。
紫ゆかりの館
福井県越前市東千福町21-12
開館 9:00〜17:00
休館 月曜(祝日・振替休日の際は翌平日)、年末年始(12月29日から1月3日)
入館料 無料
館内は規模はコンパクトですが、展示内容がわかりやすく、常設であることは貴重です。
「源氏物語」はなぜ挫折しやすい?
さて、大河ドラマ「光る君へ」をきっかけに、源氏物語の解説本などにチャレンジしたものの、あまり良さが分からない、という方も多いようです。
その理由として、登場人物が多過ぎて困惑している、律儀に第一帖(第1巻)桐壺(きりつぼ)から入っている、源氏の恋愛遍歴に興味が持てなかった、などがあります。
この解決策は、下の太字部分です。
源氏物語が「難しすぎる」と思う人は、たった2人の登場人物を理解しておくと簡単になる #1
上の記事で紹介したように、源氏物語は、光源氏と頭中将(とうのちゅうじょう)という、男性の登場人物から入る方が分かりやすいです。双方とも血筋がよいイケメン。出世と女性遍歴を争う、親友かつライバルとなります。
源氏物語「何が面白いの?」と思う人も、コント要素がある第六帖ならすぐ楽しめる#2
また、源氏物語は第六帖(第6巻)の末摘花(すえつむはな)から入ると、非常に分かりやすいです(上の記事で紹介)。
源氏物語のあらすじを一言で言えば?「読むのが難しい」と感じる人に伝えたい3つのコツ #3
そして、源氏物語は古代の物語としては、外伝(挿入される短編)や光源氏の死後の物語など構成が複雑すぎます。最初に、事情があって皇族の地位を失った光源氏が、貴族(現在の官僚)を経て、再浮上に賭ける物語であることを理解するだけで、全く見え方が変わってきます(上の記事で紹介)。
今回の記事では、第六帖(第6巻)末摘花(すえつむはな)の最後の部分を分かりやすく紹介します。上の#1、#2、#3から読み進めて来て頂くと、より深く理解できます(#3のみでもOK)。
第六帖(第6巻)末摘花(すえつむはな)の後半の展開
18~19歳の頃、光源氏は、皇族の忘れ形見の令嬢が、古い屋敷で暮らしているという話を聞き、美人の恋人を得るチャンスだと、自身の幼なじみに邸宅に案内させます。
末摘花(すえつむはな)と呼ばれる令嬢による、琴(きん、現在の琴より高級な楽器)のあまり上手くない演奏を別室で聞きますが、舞い上がっていた光源氏は、さすがに楽器の筋が違うと思い直します。
琴(きん)の演奏は妙に短く終わり、光源氏は不満げに末摘花邸を出ますが、垣根の辺りで人影に気づきます。何と、源氏と女性遍歴を争うライバルの頭中将が後をつけてきていたのです。
女性へのナンパの現場を頭中将に見つかった光源氏は、少し驚いたものの、ちょっと愉快な気分になります。
お互いに月(満月の翌日の十六夜の月=いざよいのつき)をテーマに「雲隠れがお上手で」のような和歌を交わした後、源氏の末摘花と対面が不調に終わったこともあったのか、互いに妙に気が乗り、別の女性との約束があったのも忘れ、笛を吹きながら、家路につきます。
笛は、平安時代の男性にとって、現在のギターのようなもの。
女性にふられた後、次の女性との約束より友情を選び、笛を鳴らしながらほのかな月明りに照らされ家路につく若き2人の姿は、青春の輝きを感じさせ、まるで映画の名場面のようです。この隠れた名場面は、源氏物語解説でも取り上げられることは少ないです。
このあと、2人は末摘花の争奪戦を繰り広げ、幼なじみの助けを得て、何とか光源氏が一夜をともに過ごす機会を得ますが、どうも姫は大人しすぎ、源氏も不安を抱きつつ、朝を迎えます。
まづ、居丈の高く、を背長(足が短い)に見えたまふに、「さればよ」と、胸つぶれぬ。うちつぎて、あなかたはと見ゆるもの(欠点に見えるもの)は、鼻なりけり。
まず、(期待していたモデル体型とは逆で)足が短く見えるので、(薄々嫌な予感はしていたが)「やっぱりだったか」とがっかりした。次なる欠点は鼻であった。
普賢菩薩の乗物(鼻の長い象)とおぼゆ。あさましう高うのびらかに、先の方すこし垂りて色づきたる(鼻の先が、紅花=末摘花のように赤い)こと、ことのほかにうたて(キモい)あり。
お鼻の長い象さんかよ!とお思いになる。鼻がすごく長くのびて、垂れ鼻で、紅花(別名が末摘花)のように赤く色づいているのが、とりわけキモいと言えた。
何と、頭の中将と半年間に渡って争奪戦を繰り広げ、最後には幼なじみの人脈を使ってごり押ししてまで得た姫が、イメージしていた美しい令嬢とは、似ても似つかぬ姿(短足で、鼻がぞうさんで無駄に赤い)だったのです。
ちなみに光源氏は、そうはいっても末摘花に先々まで経済的援助を続けており、この辺りが、世間の「光源氏=単なるナンパ師」のイメージとは大きく異なっています。
この人を平等に扱う姿は、大河ドラマ「光る君へ」の道長像と重なります。
このシリーズは以上です。源氏物語がとっつきにいと感じる方は、ぜひ光源氏と頭中将だけを把握し、第六帖(第6巻)の末摘花から入ってみてください。
末摘花を知れば、ほかの人物もよく分かります。
第五帖(第5巻)若紫の「雀の子を、犬君が逃がしつる……」の場面は、教科書にもよく採用)に出てきます。実は、のちの正妻・紫(=若紫)は、見た目には恵まれないものの、父には愛されていた末摘花と対比されています。
紫(=若紫)は、見た目は良いものの、父の愛情を受けていない人物像として描かれているのです。
ちなみに、末摘花は第五十四帖・蓬生(よもぎう)で再登場しますのでお楽しみに。
もう少し詳しく知りたい方に
源氏物語が苦手な人に人気の「末摘花」 不細工な姫の物語(受験ネット)
福井では、越前市とあわせ、消えた都市・一乗谷を巡るのもおすすめです。
【ブラタモリ福井 全ロケ地】タモリさんが消えた都市・一乗谷を訪ねる#120(とらべるじゃーな!)
京都・宇治も源氏物語の舞台です。
【ブラタモリ京都宇治 全ロケ地】源氏物語、お茶、平等院鳳凰堂をタモリさんがめぐる#103(とらべるじゃーな!)
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※引用資料「マンガでわかる源氏物語 (池田書店のマンガでわかるシリーズ)」 砂崎 良 (著)、上原 作和 (監修)、亀小屋 サト (画)、サイドランチ (画)
※参考資料 源氏物語(一)桐壺―末摘花 (岩波文庫)