北欧独特の「酸味」コーヒーが苦手。戸惑う人々に、新しい楽しみ方を提供/オスロのコーヒー最新情報
「おばあちゃんにコーヒーをプレゼントしたいんだけれど、酸味は苦手だっていうんだ。なにかおすすめの良い豆はないかな」。オスロ発の新しいコーヒーロースタリー「テイラー&ヨルゲン」(Talor&Jorgen)創設者のテイラー・ブラウンさんに、このような質問をしてくる人は多いそうだ。
ノルウェーの首都オスロは、最先端のコーヒーが飲める街として、コーヒー好きの間で密かなブームとなってきている。特徴は、最高品質の豆を使った、浅煎りで酸味のある味。1杯の価格は高くなるが、スペシャルティコーヒー業界の人々は、その売り上げが、産地の農家に届くようにサステイナブルなビジネスモデルにも熱心だ。
筆者もコーヒーの記事を書くことが多く、時に、北欧現地のカフェ巡りをしている日本人旅行者に出会うこともある。
今、このコーヒーの波が独自の形で進んでいるオスロで、新しい風穴を開けそうな動きがある。
「酸味」のあるフローラルなコーヒーは、紅茶のようで筆者は大好きだが、誰もが「酸味」を好むわけではない。一口飲んで、戸惑う人がいることも事実だ。
日本で深煎りコーヒーに慣れている人は、オスロの一部の有名カフェで、酸味がある浅煎りコーヒーを飲むと、「え?」と驚くかもしれない。それを「新しい味だ」と思えるか、それとも、自分が今まで飲んでいたものと違うから、「おいしくない」と言ってしまうかは、人それぞれだ。
「私たちのように、誰もが北欧スタイルの酸味があるコーヒーが好きだというわけではない。外では、それを苦手だと思っている人も、たくさんいる」。
週末、オスロの有名カフェJavaでコーヒーを飲みながら、ブラウンさんはインタビューでそう話す。ブラウンさんは、北欧のコーヒー界を代表するティム・ウェンデルボー氏のもとで、かつて焙煎士として働いていたオーストラリア人だ。
「オスロでは、コーヒーを話す時に極端な分類がされる。スーパーマーケットで売られている商業コーヒーと、スペシャルティコーヒー。でも、スカンジナヴィア風だけではなくて、他にもいろいろなコーヒーがあっていいと思うの」。
オスロの最先端コーヒーは、確かに有名になりつつある。グリーネルロッカ地区といえば、コーヒーギークの集まる場所の代名詞にさえなってきている。
同時に、一部の有名カフェに対して「敷居が高すぎる」と思っている現地人がいることも確か。どうも「その世界に入りにくい」、「酸味は飲みにくい」、「あそこのカフェは有名すぎて入りにくい」と密かに感じている人もいる。事実、筆者の周りにもいる。
今、数年前に比べて増えてきているのが、良質な豆を提供しながら、浅煎りも深煎りも、酸味も苦味も、複数のオプションで提供しはじめるカフェやロースタリーだ。
カフェチェーンのKaffebrennerietは、以前から「本日のコーヒー」メニューで、酸味があるものとないもので2種類から選べるようになっていた。普通はどこのカフェも、本日のコーヒーは1種類だ。
ブラウンさんと、ノルウェー人のヨルゲン・ハンスルードゥさんが創設した「テイラー&ヨルゲン」も、良質の豆を使用しながら、酸味が苦手な人向けのクラシカルな味も提供。
クラシカルな味は、他の有名カフェにもあったが、袋を見ただけではわかりにくく、店員に聞く必要があった。
「テイラー&ヨルゲン」の公式HPを見ると、豆の説明はロースト加減を、「ライト」、「ミディアム」、「ダーク」か選択でき、明快。赤、緑、茶色などで、各豆の味が「色」で一目で連想しやすいようにデザインされている。専門店でバリスタに聞かなくても、これなら分かりやすい。パソコンやスマートフォンで、簡単にオンライン注文ができる。
パッケージも北欧デザインで可愛い。しかも、この箱のまま郵送してもらえるので、プレゼントにも最適。デザインをきっかけに、コーヒーに興味を持つことができるかもしれない可愛さだ。
なぜ筆者が関心したかというと、このようにお客さんとコミュニケーションを取ろうとする動きが、今まであまり目立たなかったから。スーパーでの商業コーヒーでも、酸味があるレベル高そうなコーヒーでもない。なんだかその枠に入り込めず、うろうろと道に迷っていた人が、ほっとできるような場所が、増えたのではないかと思った。
「コーヒーの袋は、今は驚くほど、みんな似ていない?ここまで誰もパッケージデザインについて考えなくなっているなんて、クレイジーよ。色は、たいていは白、黒、茶色。品質を保つために真空対応に皆こだわるけれど、どれだけ袋を強化しても、豆の酸化は止められない。新鮮にキープするという考えばかりにこだわるのじゃなくて、新鮮なうちに早く飲んでもらうことのほうが大事だと思うわ」、とブラウンさんは答える。
同意できない人もいる
農家をサポートするスペシャルティコーヒーには変わりないが、酸味の目立たない、昔ながらの味も提供する。一方で、ブラウンさんの考え方は、さらりと業界で受け入れられるわけではない。
1月にオスロで開催されたスペシャリティコーヒー業界関係者向けの「バリスタリーグ」では、週末にトークショーが開催された。そこには、ノルウェーやスウェーデンの焙煎士たちが集合。ブラウンさんは、分極化されつつあるオスロの傾向を疑問視して問いかけた。
「私たち焙煎士が、人々の味の嗜好をどうしても変える必要はない。誰もが酸味や品質にこだわっているわけではなく、ただ、“飲むことを楽しみたい”と思っている人もいる」などと主張した。
これまで酸味がある北欧風のコーヒーを進めてきた人々にとっては、ブラウンさんの言葉は小さな爆弾だ。「僕は、同意できない」、「そこまで幅広くやるのは、私たちのロースタリーの規模では無理だ」と、眉をひそめる人もいた。
誰かが正しいというわけではなく、コーヒーを楽しむうえでのアプローチの違いだ。とはいえ、北欧スペシャルティコーヒーの世界に「なんだか入りにくい」と思っていた人々がいることを、筆者はすでに体感していた。
そのため、今回のような、「見たこともない可愛いパッケージデザインが、郵便受けに入っていた時のワクワク感」や、「分かりやすい選択肢の広さ」、「専門店やプロのバリスタを介さない、簡単な注文方法」、「それでも豆はスペシャルティコーヒーで、農家の生活は支援」などの組み合わせは魅力的だった。
これまで6個を日本にいる友人などにオンライン注文して郵送したが、「デザインが可愛い!」と喜ばれた。デザインからスタートし、コーヒーを楽しむきっかけになった。結果として、北欧やコーヒーに興味をもつ一歩になれば、それもいい。
こうして、コーヒーの新しい楽しみ方を、続々と提供する業界関係者。毎日飲むものだからこそ、おいしく、楽しく付き合っていきたい。終わりがないコーヒーの世界は、探求しがいのある世界だ。
※「テイラー&ヨルゲン」のオンライン(英語)では、筆者が注文した6個中2個は、無事に届かず郵便物が紛失しました(日本とノルウェーの住所宛て、各一個ずつ)。これはノルウェーでよくある郵便事故なので、もし注文しても届かない時は、遠慮せずにサイトの問い合わせ先に連絡して、再送をお願いしてください。
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Text: Asaki Abumi