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ヘヴィ・ロックの新世界標準NEPENTHES(ネペンシス)、グルーヴ・モンスター化した新作を発表

山崎智之音楽ライター
NEPENTHES / courtesy Daymare Recordings

“血の通った音楽”という表現があるが、NEPENTHESの音楽はそんな生やさしいものではない。彼らの3枚目のアルバム『Grand Guignol(グラン・ギニョール)』は“血を噴き、血の海をもがく音楽”だ。

2012年に結成、超弩級ヘヴィ・ロックでシーンを蹂躙してきた彼らだが、約5年ぶりとなる新作はさらにパワーアップ。メタルもハードコアもドゥームも呑み込んでグルーヴの渦に巻き込んでいく。

グラン・ギニョールの舞台の幕が上がる。ヴォーカリストのNegishi Yoshiakiに訊いた。

NEPENTHES『Grand Guignol』(デイメア・レコーディングス/現在発売中)
NEPENTHES『Grand Guignol』(デイメア・レコーディングス/現在発売中)

<ドゥーム・ロックとは、“リフがすごくカッコいい音楽”>

●NEPENTHESは昨年(2022年)結成10年を迎えて、いよいよベテランの領域に入ってきましたね。

いや、そんな感覚は全然ないです。いろんなハードコアでもメタルでも先輩バンドが辞めてないし、若手の気分ですよ。もちろん俺たちより前からやっている人もいるし、新しいバンドも出てきている。ただ俺の中では“ロック=若者の音楽”なんで、若いつもりでこだわっていきたいですね。“大人のロック”なんてアンビヴァレントな表現を聞くと、何言ってんだこいつ、みたいな気もするし。

●ロックという音楽、特にヘヴィなロックにこだわる理由は何でしょうか?

何でしょうね。ガキの頃から好きだったうるせー音楽がモチベーションになって、それを今でもやり続けている...というのが動機です。うるせー音楽をやっていても、長くキャリアを積んでいけば力の抜き方を覚えるものだけど、そうではなく!ガキの頃の衝動を忘れることなく、ガッ!と突っ込んでいく音楽をやることを心がけています。

●NEPENTHESの音楽性について、初めて聴くリスナーに説明して下さい。

自分らでこれがカッコ良いと信じる音楽を突き詰めたのがNEPENTHESの音楽だし、このアルバムですね。これまでのアルバムと較べても曲の持つ“圧”、リフの持つグルーヴ感が強化されています。ドゥームというと意図的にグルーヴやノリを潰していく部分があったりするけど、俺たちの場合Suto(Kensuke、ギター)が元EARTH BLOW、Goto(Tatsuya、ベース)がBAREBONESだったりして、圧倒的にロックンロールが根っこにあるんです。Iwamotor(ドラムス)もノリを重視するタイプのドラマーだし、それがNEPENTHESの個性になっていますね。

●NEPENTHESの音楽はヘヴィでハードコアでサイケデリックなスタイルが同居していますが、ドゥーム・ロックの要素が重要な位置を占めています。ドゥームに対して、どんなこだわりがありますか?

ドゥーム・ロックというのは、俺の中では単純に“リフがすごくカッコいい音楽”なんですよ。本質的にリフ・ロックで、スラッシュ・メタルやデス・メタルのリフにもカッコいいものがあるけど、それとは質感の異なるカッコ良さですね。

●『Grand Guignol』の音楽性は過去2作と較べて、どのように変化したでしょうか?

うーん、俺自身はあまり変化したという意識はないけれど、メンバーが変わることによって触発される部分はありますね。でもGotoさんが加わったことでロックがロールするグルーヴが強くなったことは確かです。コロナ禍はあったけど、2018年からこのメンツでライヴを重ねてきて、だいぶグルーヴ・モンスターになってきた感触がありますね。こういうノリを出せるバンドは、俺たち以外にいないと確信しています。

●『Grand Guignol』というタイトルの通り、エログロな見世物小屋が建ち並ぶような作風になっていますが、アルバムのトータル性は意識しましたか?

多少はありますね。NEPENTHESを始めたときから大きくは変わっていないけど、今回は「Perfect World」の歌詞で“グラン・ギニョール”というフレーズを使っていることもあって、より明確になっていると思います。これまでの『scent』(2015)『CONFUSION』(2017)というタイトルはよりピンポイントで突いていたけど、『Grand Guignol』はバンドそのものを体現しています。見世物小屋というと花やしきの前の通りとか新宿の花園神社とか、そういうイメージですね。“六尺の大イタチ”とか(笑)。

NEPENTHES / courtesy of Daymare Recordings
NEPENTHES / courtesy of Daymare Recordings

<ロックンロールにヤラれた男たちの初期衝動>

●アルバムからの先行リーダー・トラック「Cut Throat」はどんな曲ですか?

“Cut throat=喉を斬る”というのはあえて言葉で具体的に曲の世界を描写したものであって、それだけを表現したものではないんです。ファースト・アルバムに「相剋」という曲があったけど、それと同じように、自分の中に相反するもう1人の自分がいて対話するもので、『CONFUSION』を完成させた後すぐにSutoが書いたリフを基にした、ドゥーム/ストーナーなノリの曲ですね。

●「I wanna feed you dog」というタイトルはザ・ストゥージズの「アイ・ワナ・ビー・ユア・ドッグ」へのオマージュでしょうか?曲そのものはヘヴィだということを除けばあまり似ていませんが...。

うん、オマージュというか、パロディ・タイトルですよね。曲を似せようとは思っていなかったけど、ちょうどタイトルがピッタリはまった感じです。

●「Bloodlust」もヴェノムに同題の曲がありますが、やはり共通するのはヘヴィだという一点に留まると思います。

ヴェノムはもちろん大好きなんで、俺なりに落とし込んでいます。ただそれは、bloodlust(血への渇望)という言葉の持つ質感がヒントになっているというか、Sutoが曲を持ってきた時にこの言葉がバーンと頭に浮かんだんです。曲としては全然似ていませんしね。詞はアンセムとして書いたんです。キッズをひとつに結びつける曲ですね。聴いた人がそう感じなかったら、それはそれで成功です。俺はこういう感じの歌詞しか書けないんで(笑)。

●アルバムのトータル性といえば歌詞だけでなく、「Bloodlust」「Cut Throat」でリード・ギターの3連フレーズが繰り返されるのは意図した連続性でしょうか?ディープ・パープルの「チャイルド・イン・タイム」に通じるフレーズがとても印象的です。

決して意図したものではないけど、Sutoが「『チャイルド・イン・タイム』っぽいな」とか言っていたような気がする(苦笑)。みんなオールド・ハード・ロックが好きで自分の血肉となっているから影響を受けてきたし、それを2023年にやることが自分たちのあり方であり立ち位置だと考えています。

●アコースティックの冷ややかな小曲「I.C. Water」について教えて下さい。

「I.C. Water」は「Still Life」と「Cut Throat」のあいだにワンクッションを置く曲です。もちろん曲として良い仕上がりだと思うけど、ノリをいったん収めて緩急をつける、ブラック・サバスの「オーキッド」とかみたいなイメージですね。

●「わくらば」は11分を超える、アルバムを締め括るに相応しいドゥーム叙事詩ですね。

「わくらば」はファーストの後あたりからずっとあったけど、なかなか進まなくて、ようやく完成出来た曲なんです。苦労したかいがあって、変な曲だけど、アルバムのハイライトのひとつになりました。元々このタイトルはバンドを結成するはるか前、いろんな本を読み散らかしていて、どこかで“病葉”という言葉にインパクトを感じたんですね。でも10年近く寝かせているうちに、漫画『鬼滅の刃』に“病葉”というキャラが出てきて...読んでいないけど、ネタが被るのは嬉しくないし、ひらがなの「わくらば」にしました。今後は曲を書いたら早めに発表していきますよ。

●レコーディング・エンジニアに原浩一さんを迎えたことで、どんな効果がありましたか?

俺は原さんのことは存じ上げなかったけど、アルバムをリリースする“デイメア・レコーディングス”の濱田さんから提案されたんです。古くはボアダムズがアメリカのツアーでブワッと盛り上がったときに付いていたPAの人だと聞いて、あとBABYMETALやBoris、FRAMTIDやGLOOM、NIGHTMARE、SECOND TO NONEなどを手がけてきたということを知って、そういうところから来ている方ということで、お願いすることにしました。バチーン!というハイエンドのサウンドが素晴らしいし、NEPENTHESのようなバンドの音楽に理解があって、元来持っている音楽性を生かしながら、現代的な音作りで新しいところに持っていってくれましたね。ベーシック・トラックの録り音からしてドカンとでかくて、「オオッ!」と声が出ました。そんなおかげで、自分でワクワクしながらアルバム作りに向かうことが出来ました。

●アルバム発売記念ライヴを東名阪で行いますが、NEPENTHESのライヴの魅力はどんなところにあるでしょうか?

さっきの話じゃないですが、ロックンロールにヤラれた男たちの初期衝動がそのまま出てるんじゃないかなと思います。でもそれはリバイバル音楽としてのロックンロールではない、この4人が合わさってちゃんとアップデートされたモノなので、ジャンル関係なくカッケー!と感じてもらえるんではないかな、と。カッコよくなきゃロックンロールじゃねぇですから(笑)。

【最新アルバム】

NEPENTHES ネペンシス

Grand Guignol / グラン・ギニョール

Daymare Recordings 現在発売中

【ライヴ予定】

TECHNOCRACY×NEPENTHES

DOUBLE RELEASE SHOWCASE GIG

-- 3月18日(土)東京・新大久保 EARTHDOM

with 老人の仕事

-- 4月23日(日)大阪・心斎橋 Music Bar HOKAGE

with SLEEP CITY / THE HAWKS

-- 5月14日(日)愛知・名古屋 LIVE & BAR RED DRAGON

with GREEMACHiNE

【バンド公式Facebook】

https://www.facebook.com/nepenthesband

【レーベル公式サイト】

http://www.daymarerecordings.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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