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高齢ドライバーの交通事故問題  超小型車や三輪バイクへの乗り換えも

柳原三佳ノンフィクション作家・ジャーナリスト
楽しいカーライフ。誰もが加害者にならずに終える方法を模索している(ペイレスイメージズ/アフロ)

「加害者予備軍」そのリスクにどう備えるか

 9月21日から始まった『秋の全国交通安全週間』。

 今年のスローガンは、

(1)子供と高齢者の安全な通行の確保と高齢運転者の交通事故防止

(2)夕暮れ時と夜間の歩行中・自転車乗用中の交通事故防止

(3)全ての座席のシートベルトとチャイルドシートの正しい着用の徹底

(4)飲酒運転の根絶

 だそうです。

 これまで数多くの交通事故を取材してきた私の脳裏には、それぞれの項目に当てはまる悲惨な事故の状況や、被害者、遺族の長い苦しみが蘇ります。

 事故の当事者になるまでは、どこか他人事のように感じている人も多いと思います。しかし、一瞬の事故は、被害者になっても、加害者になっても、本人とその家族のその後の人生を一瞬で変えてしまうのです。

免許返納を拒否する高齢ドライバーにどう対応するか

 そこで今回は、スローガン(1)にある『高齢ドライバーの交通事故防止』という観点から、どうすればよいかを考えてみたいと思います。

 ちなみに「高齢運転者マーク」をつけましょうという努力義務が課せられているのは、70歳以上の自動車免許保有者です。

 警察庁によると、平成28年末の70歳以上の運転免許保有者は、977万1844人で、全免許保有者のうち11.9%を占めています。つまり、運転免許保有者の10人に1人は70歳以上ということになります。

 しかし、あと7~8年もすれば、いわゆる「マイカーブーム」のときに免許を取ってクルマに乗り続けてきた団塊世代がほぼ全員75歳以上になり、免許保有者の超高齢化時代が来ると言われています。

 今年の3月、道路交通法が改正され、75歳以上の高齢ドライバーに対する認知機能検査や講習が厳しくなったこともあり、自主返納に応じる人がかなり増えているようです。

 大半の方は、「この年になって加害者にはなりたくない」その思いが一番強いのではないでしょうか。こうした考えで自らを律し、他者への配慮ができる人は、ある意味、「しっかりしている人」だと言えます。

 しかし、もっとも心配なのは、運転技術を過信し、自分が加害者になることなどイメージできないお年寄りです。

クルマという”足”がなければ生きていけない

 実は、数年前に亡くなった、明治生まれの私の祖父がそうでした。

『三度の飯よりクルマが好き』という見出しで新聞にも取り上げられたことのあるおじいちゃんで、免許のキャリアも長く運転も上手でした。

 ところが、80代になってから車のあちこちに凹みが見られるようになり、家族は運転をやめるよう何度も説得しました。

 しかし、「大丈夫だ!」の一点張りで、絶対にクルマを手放そうとしません。

 それからの数年間は、まさに闘いでした。

 お店の駐車場でフェンスに激突したこともありました。

 運転能力が極端に低下し、本当にハンドルが握れなくなるまでの数年間に、重大な人身事故を起こさなかったことだけが不幸中の幸いでした。

「クルマがなければ買い物にも、病院にも行けない」

「クルマの運転が生きがいだ」

 免許を手放したくない理由にはいろいろあるでしょう。

 特に、公共交通機関がなくクルマなしには生活が成り立たない地域にお住いの高齢者にとって、この問題は深刻です。

 私自身もクルマやバイクの運転が大好きなので、いざ自分の身に置きかえると切実です。

 警察庁では、「高齢者の運転に関する家庭内での話し合いの促進」も対策のひとつとして挙げていますが、まさに、”言うは易し……”ですよね。

免許返納の前に「超小型車」ユーザーになってみる

 そこで私が考えるのは、クルマを手放したくないというお年寄りから一気に免許を取り上げるのではなく、「低速度」「コンパクト」「雨風しのげる」をキーワードに、1人乗りの超小型車や三輪バイクなどを探し、完全に免許を返納するまでの”つなぎ”としてしばらくの間使ってみませんか? という提案です。

 もちろん「自動ブレーキ」も効果的でしょう。しかし、ブレーキ制御より、まずは走行速度自体を制限する方が、被害を最小限に減らせると思うのです。

最高速度14キロの「キャビン君」(ショップライダージャパンのWEBサイトより)
最高速度14キロの「キャビン君」(ショップライダージャパンのWEBサイトより)

 ためしに、「コンパクトカー」「超小型EV」「電動ミニカー」「三輪バイク」「屋根つきバイク」といったキーワードで検索してみてください。いろんな車種が出てきます。

 もちろん、速度の遅い小型車は、交通量の多い国道などを走るのには向いていませんし、危険だという意見もあるでしょう。しかし、自宅の周辺を走るのには適しているのではないでしょうか。

 一例を挙げると……、

●最高速度が時速14キロに抑えられている「電動カートキャビン君」

●超小型EV車として、コンビニなどでよく見かける「トヨタコムス」

●最高速度49キロの「エレクトライク」は、なんと150キロの荷物を積載することができるそうです。

 新車はもちろん安心ですが、中古市場やオークションでさがすと、コストはずいぶん下げられますよ。

(ただ、クルマの運転が好きで、身体が元気なお年寄りには、いきなりセニアカーや電動車椅子をすすめても、おそらく”ドライバー魂”が納得しないと思います)

普通免許は返納して二輪だけを残す方法も

 4輪免許を返納して2輪免許だけを残すという方法もあります。

 そんな人には、足を着かなくても転ばず、多少の雨ならしのげる、HONDAの三輪バイク「ジャイロキャノピー」なんかもお勧めです。

 

 ちなみに、私は根っからオープンカーが好きなので、もう少し歳をとったら少し排気量を下げて、派手な色の小さなオープンにでも乗り換えようかなあ~~。

 そうそう、バイクだったら、足を着かなくても乗れる一体型のサイドカーも楽しいですね。

 たとえば、250CCのスクーターをベースに作られている「オミクロンサイドカー」もかっこいいでしょ?

 実は、昔乗ったことがあるのですが、安定していますし、とにかく目立って楽しいんです(笑)。

スクーターベースの『オミクロンサイドカー」(サクマエンジニアリングのサイトより)
スクーターベースの『オミクロンサイドカー」(サクマエンジニアリングのサイトより)

 もはや骨董品の域に入るかもしれませんが、ベスパカー(中にスクーターが入っていてエンジンはキック始動でギアチェンジはスロットル)なんかもオシャレですよね。

 今日、ヤフオクで検索してみたら、出ていました!!

 が、そもそも高齢になったら、力がなくなってキック始動は無理でしょうけれど……(泣)

イタリアのベスパカー(ヤフーオークションの画像から抜粋)
イタリアのベスパカー(ヤフーオークションの画像から抜粋)

 歳を重ね、身体能力が衰えてきたとき、意地を張って大きなクルマやバイクに乗り続けるより、まずはこうした、低速&コンパクトな車種に切り替えれば、重大な加害事故のリスクが減るのではないでしょうか。

 高齢運転者問題は、ハンドルを握るすべてのドライバーが加害者予備軍。

 その日をどう受け入れるか、今からシミュレーションしておきたいものですね。

ノンフィクション作家・ジャーナリスト

交通事故、冤罪、死因究明制度等をテーマに執筆。著書に「真冬の虹 コロナ禍の交通事故被害者たち」「開成をつくった男、佐野鼎」「コレラを防いだ男 関寛斉」「私は虐待していない 検証 揺さぶられっ子症候群」「コレラを防いだ男 関寛斎」「自動車保険の落とし穴」「柴犬マイちゃんへの手紙」「泥だらけのカルテ」「焼かれる前に語れ」「家族のもとへ、あなたを帰す」「交通事故被害者は二度泣かされる」「遺品 あなたを失った代わりに」「死因究明」「裁判官を信じるな」など多数。「巻子の言霊~愛と命を紡いだある夫婦の物語」はNHKで、「示談交渉人裏ファイル」はTBSでドラマ化。書道師範。趣味が高じて自宅に古民家を移築。

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