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大国と大資本の利害が最優先された  市民団体の抗議声明に見るTPP大筋合意の問題点

大野和興ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

TPP交渉の大筋合意に対し、TPP反対の運動に取り組んできたさまざまの運動グループが次々と抗議声明を出した。それらの声明は今回の大筋合意なるものに鋭い批判を行っている。そしてTPP反対の運動をより一層強く展開するとしている。以下、さまざまの論点からの「大筋合意」批判を紹介する。

◆大資本の権益が最優先された

今回の「大筋合意」の本質をどう見るか。農民や都市生活者、労働者などが集まって校正している「TPPに反対する人々の運動」というグループがある。そこが6日に公表した抗議声明は、「今回の大筋合意の性格を簡潔にまとめると次の二点に集約できます。一つは、大まかにみて新興国の主張が抑え込まれ、先進国特に米国、ついで日本の利害が優先されていること。二つは、日本の国内問題です。終盤まで懸案として残った自動車部品の原産地比率では日本の自動車産業の立場を守り抜いた反面、農業・農産物では限りなく妥協を重ね、ほとんど丸裸と言ってよい状況に陥ったこと」と述べている。別のいい方をすると、米国と日本の大資本の権益を最優先に置いた「合意」が参加12カ国間でも、参加国の国内でも強行されたということである。

また自治労や教組、全農林や全水道などで構成している平和フォーラム(フォーラム平和・人権・環境)は、「TPP交渉の『大筋合意』に対する見解」(10月6日)で、「今回の医薬品のデータ保護期間をめぐる交渉にみられるように、TPP交渉が多国籍企業の利益優先のために行われ、多くの人たちの命と暮らし、人権や主権を脅かすことにつながるものであることが明らかになりました」と、同様の考え方を提示している。

ここでいう「医薬品データの保護期間」というのは、例えばガンや感染症に効果のある新薬を開発した製薬会社がそのデータをオープンにしないで独占的に利益を得ることができる期間をさしている。この期間が長いほど、開発会社は大きな収益を上げられることになる。患者側にとっては、この保護期間が切れることで独占体制が崩れ、安い薬が手に入れやすくなる。TPP交渉では、大製薬資本を擁する米国が保護期間12年を要求、それに対してオーストラリアや多くに新興国は5年、そして日本は8年を主張。交渉は最後までもつれ、実質8年で決着した。結局米国の製薬資本が3年間独占的利益を獲得できることになった。

◆秘密交渉と民主主義

TPP交渉の特徴は、その徹底した秘密主義にある。いま何が交渉され、どんなことが話し合われているか、外部には一切漏らさない決まりで運営されている。今回の「大筋合意」でも、それが貫徹された。そのことを市民グループやNGOで構成され、政府に対してTPP交渉の情報公開を要求している「「市民と政府のTPP意見交換会 全国実行委員会」の抗議声明(10月6日)は以下のように指摘している。

「交渉の過程における情報公開や市民参加は極めて不十分であり、有権者の代表である国会議員への情報公開すらほとんど行われないまま、交渉が進められてきていますまたその内容が公開されていないことから、市民は知る権利さえ奪われている状態です」

「情報公開と市民参加は民主主義の基本であり、とりわけ,市民生活のあらゆる側面に影響を与える可能性のあるTPPのような経済連携協定においては,いっそうそれが重視されなければなりません」

「(日本政府は)TPP交渉参加の他の国々に比べても透明性の欠落が目立っています。

こういった非民主的な手法でもって筋合意に至ったTPPを、私たち「政府と市民のTPP意見交換会」実行委員会は、私たちを拘束する国際協定として到底受け入れることはできません」

平和フォーラムはこうした政府の姿勢を次のように規定している。

「安倍政権は、(略)秘密交渉を続け、終始、交渉『合意』に前のめりの姿勢を取り続けまし た。これは、民主主義をも破壊する暴走であり、戦争法案とともに、米国追従、日米同盟の強化を目論んだものと言わざるをえません」

◆農業と食の安全

「食の安全・監視市民委員会」が10月6日に出した抗議声明は、TPPと食の安全について以下のように指摘している。

「日本の消費者が要求してきた(略)食品などに対する厳しい規制基準がこの協定の運用によって甘い国際基準や輸出国の基準にとって代わられることを危惧する。(略)各国の規格の策定に関してTPP各国や事業者が関与できる途を開くなど、日本国内の表示基準も消費者の選択権を確保する目的から事業者に有利な基準に緩和されることを恐れる。これについては日米二国間協議や日本政府の自主規制によってすでに実施されているものも多く、さらなる規制緩和は許しがたい」

政府は、TPPによって食の安全のための規制が緩和されることはないとしているが、それは疑わしいとしているのである。

◆政府への要求と今後の運動

市民組織「TPPに反対する人々の運動」は「大筋合意」を受けての当面の要求を次の三点に集約している。

1、政府は、ただちに「大筋合意」に至る交渉経過をつまびらかにすると同時に、合意内容をすべて公開すること。

2、国会議員は、与党自民党議員を含め、TPP参加条件を少なくとも国会決議の水準にまで引き戻し、現行「大筋合意」での参加を拒否すること。

3、政府は、今回の「大筋合意」は公約違反であることを認め、合意を白紙に戻すことを参加国に提起、それが入れられない場合はTPP交渉から離脱すること。

ここでいう国会決議と公約については、一面に詳しく述べている。

ジャーナリスト(農業・食料問題)、日刊ベリタ編集長

1940年、愛媛県生まれ。四国山地のまっただ中で育ち、村歩きを仕事として日本とアジアの村を歩く。村の視座からの発信を心掛けてきた。著書に『農と食の政治経済学』(緑風出版)、『百姓の義ームラを守る・ムラを超える』(社会評論社)、『日本の農業を考える』(岩波書店)、『食大乱の時代』(七つ森書館)、『百姓が時代を創る』(七つ森書館)『農と食の戦後史ー敗戦からポスト・コロナまで』(緑風出版)ほか多数。ドキュメンタリー映像監督作品『出稼ぎの時代から』。独立系ニュースサイト日刊ベリタ編集長、NPO法人日本消費消費者連盟顧問 国際有機農業映画祭運営委員会。

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