マイクロソフトが2兆円超で買収したLinkedIn。今後日本でも浸透するのか
LinkedInの買収ニュースを見て
2016年も年の瀬となり、今年の転職やキャリア、人材業界のニュースを振り返っていたのですが、その中の1つとして、今年6月のLinkedInが262億ドル(約2兆7500億円)でマイクロソフトに買収されたというニュースが話題になっていましたね。
日本円にすると、2兆円を余裕で超えている金額なわけで、世界は桁が違いますな〜と改めて感じます。。
実はカナリ勝手ながら、私個人にとっても感慨深いニュースでした。
というのも、2004年、学生時代に大学生に特化したSNSを友人達と運営しており、
前年の2003年は、アメリカでLinkedInで立ち上がった年で、当時は「SNSは絶対に儲からない」と言われていた中で、
最も市場(転職市場)を捉えていたのがLinkedInで、「日本版LinkedInを作る!」という意気込み・志望動機で、転職市場を学ぼうと新卒でリクルートエージェントに入社という経緯だったのです。
(当時は日本進出してなかったので。当時のリクルートエージェントの役員陣もLinkedInという名前を伝えても、「?」といった状況でした。)
個人的な話はさておき、今回のような巨額で買収を受ける程、アメリカなどの海外ではメジャーなサービスであるLinkedInは日本に上陸して数年が経ちましたが、日本で利用している人はごく少数の人しか利用していません。
今回の記事では、LinkedInの買収ニュースにおいて思うところ、また、なぜ日本においては流行らないのか、今後日本で浸透するのか、転職のプロである転職エージェントの視点で、その可能性を検証してみたいと思います。
LinkedIn(リンクトイン)とは?
「そもそもLinkedInって何?」という方もいらっしゃるかもしれませんので、
説明をしておきますと、LinkedInとは、世界最大級のビジネスに特化したSNS(ソーシャル・ネットワーキングサービス)です。
2003年5月にサービスを開始され、2016年5月現在、世界で約4億人、200カ国で利用されています。
家族や友人とつながるのではなく、同僚や上司や取引先とのコミュニケーションとして利用され、プロフィールは職務経歴書と同じ役割になります。一言で説明すると「ビジネス版Facebook」になります。
日本人にはまだ馴染みのないサービスかもしれませんが、アメリカを中心とした海外では多くの人が利用されており、特に採用において有効活用されている方が多いです。
パナソニックでは北米の中途採用の8割がLinkedIn経由で採用できているそうですが、日本では極一部の企業が海外拠点の外国人を採用するためのツールとしてのみ利用しており、日本国内で普及しているとは言い難い状況です。
統計ポータル「スタティスタ(Statista)」によると、LinkedInの登録ユーザーは全世界で4億3,300万人を超えていますが、日本では100万人程の会員登録に留まっているようです。
私の実感値では、日本ユーザーの属性は、業界として、外資系企業・金融・コンサル・IT業界の方が多い印象です。
LinkedInの特徴は何と言ってもビジネスに特化しており、登録ユーザーが、自分のビジネスプロフィールを公開している点と思います。
LinkedInのプロフィール欄に入力できる項目としては、以下になります。
- 現在の勤務先
- ポジション名(役職)
- 勤務開始日
- 業種
- スキル
- 最終学歴
- 学位
- 資格
こちらを公開して、「つながり機能」という会社や大学など自分と近しいプロフィールの人物をサーチする事が可能です。
それによって、大学生は志望の会社の社員にOB訪問を依頼したり、取引先へのアプローチや、企業の採用活動などに利用されるのです。
また、その際に、InMailという有料オプション機能もあり、自分と直接のつながりのないLinkedInユーザーに連絡することができる手段になります。
こちらは、ベーシックアカウント(無料)では使うことができないため、プレミアムアカウント(有料)登録が必要です。
以下のプランがあり、送信可能回数が決まっています。
- 就活プラン
- プロフェッショナルプラン
- 営業プラン
- 採用プラン
マイクロソフトのSNS買収の過去
マイクロソフトがSNSを買収したのは、今回が始めてではありません。
Facebookに対しても、$15B(150億ドル)で買収を打診した事があると言われており、
結果買収には至らず、当時、株式のわずか1.6%である$240M(2億4000万ドル)を投資していたり、
2012年には、エンタープライズSNS(所謂社内SNS)Yammer(ヤマー)を12億ドル(約950億円)で買収し、「Office 365」と連携しています。
LinkedIn自体も、スライドシェアを買収してますし、マイクロソフトにとっては、LinkedInに留まらずスライドシェアも同時に傘下に収めた事になります。
これらの買収によって、マイクロソフトは、エンタープライズ分野での巨大なチャネルを持ち、見込み客に対して、より広くリーチを広げていく事ができ、事業としての発展性が広がったのだと思います。
海外ではメジャー、日本ではマイナー
前述したとおり、海外では、アメリカを中心に多くのユーザーを抱えるLinkedInですが、日本においてはまだまだマイナーなサービスと言えると思います。
全世界のFacebookの月間アクティブユーザーが17億1,000万人(2016年6月)に対して、LinkedInのユーザーは4億人(2016年5月)と約4倍の差があるものの、LinkedInがビジネス特化型という特徴を考えると、そこまで大きな差があるとは感じません。
しかし、日本国内だけで考えると、2016年9月時点で、Facebookの国内ユーザーは2600万人に対して、2016年5月時点のリンクトインの国内ユーザーは100万人と約26倍という大きな差があります。海外と日本でなぜ全く違うのか、なぜそうなってしまったのか、日本で流行っていない理由を3つにまとめました。
1、転職に対する価値観の違い
日本では転職でステップアップするという考え方が浸透していません。中途採用においては20代で複数の会社を経験している人間を敬遠する傾向にあり、終身雇用が崩壊しているとはいえ、多くの人が「できれば1社で長く勤めたい」と考えています。また勤続年数を基準にした社内の評価制度や福利厚生など、転職が多いと不利な状況になるのが日本の労働市場です。
アメリカではいつでもステップアップ(転職)できる環境を作ることが当たり前の考え方とされていますが、日本では、働きながら転職エージェントに登録すると、「今の会社に不満がある」と考えられてしまいます。そのためLinkedInのサービスが受け入れづらい土壌がありました。ダイバーシティの推進など少しずつ労働市場の流動化が進み始めているものの、日本はアメリカの労働市場と比較して閉鎖的であり、LinkedInが流行らない理由の一つだと考えられます。
2、遅かった日本語対応とFacebookの先行者利益
LinkedIn(リンクトイン)は2003年5月にサービス開始と、Facebookの2004年2月開始よりも歴史が長いサービスです。しかし、Facebookは2008年5月に日本語対応をしましたが、LinkedInは2011年10月にようやく日本語対応をしました。この3年間が決定的な差を生んでしまいました。
Facebookは2010年2月にはアメリカ以外では初となる海外法人を日本に設立。当初は言語の問題でFacebook後進国でありながら、Facebookは日本市場に本気で力を入れてきたことがわかります。その結果、2011年9月末には日本のFacebookユーザーは1000万人を超えており、LinkedInが2011年10月に日本語対応したときにはすでにFacebookが既存ユーザーを囲い込んでいました。
3、ユーザビリティの問題
当たり前ですがサービスが流行するにはユーザビリティ(使いやすさ)は必要不可欠です。後発サービスでも先行サービスより優れていれば問題ありませんが、LinkedIn(リンクトイン)はユーザビリティが弱点でした。
TwitterやFacebookはシンプルな設定で使いやすく、「このサービス面白いよ」「このサービスに一緒に登録しない?」という口コミで少しずつ認知度が広がっていきましたが、LinkedInの場合は「使い勝手が悪いよ」「変なスパムメールがたくさん届く」という悪い評価・クチコミが多く占めていました。LinkedInは楽天の三木谷浩史社長や安倍首相なども登録したことで、注目を集めましたが、ネガティブな評価を覆すだけのものにはなりませんでした。
2015年にアメリカで発表された主要なソーシャルメディアの顧客満足度においてLinkedInは最下位の評価。一度、低評価をうけてしまうと覆すのは容易ではありません。ここから日本の市場で盛り返すのはかなりの努力が必要でしょう。
まとめ
LinkedIn(リンクトイン)は世界市場ではいまだ成長を続けており、堅調に推移していますが、日本ではかなり苦戦していると思います。
現在の日本市場のSNSは飽和状態にあると考えられ、LinkedInに限らずSNSサービスが新規参入しても、シェアを伸ばすのはかなり厳しい状況にあると考えられます。
しかし世界的企業のマイクロソフトに買収されたことで、少なからず日本市場でも影響があるかもしれません。
私自身も学生時代にその可能性に取り憑かれ、日本にもこういったサービスを作りたいと就職先を選んだ企業・サービスですので、個人的には応援したい気持ちが強く、今後どのような施策に取り組むのか、どういったシナジーが生まれるのか、日本市場にどのような影響を与えるのかに注目したいです。
参照:http://www.slideshare.net/linkedinjapan