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スキのない藤井聡太三冠を豊島将之竜王は切り崩せるか~第34期竜王戦七番勝負第3局展望~

遠山雄亮将棋プロ棋士 六段
記事中の画像作成:筆者

 ここまで挑戦者の藤井聡太三冠(19)が2連勝している第34期竜王戦七番勝負は10月30・31日に福島県いわき市で第3局が行われる。

 藤井三冠が一気に奪取へ近づくか。それとも豊島将之竜王(31)が反撃ののろしをあげるか。第3局を展望していく。

相掛かり

 二人は夏にダブルタイトル戦を戦い、対戦を重ねてきている。

藤井聡太新叡王の誕生で夏の十二番勝負終戦。藤井三冠の新しい武器「相掛かり」が勝利の原動力に

 今年に入って藤井三冠の先手番で行われた対局は全部で7局ある。

藤井三冠が先手番の時の対戦表。2021年のみ
藤井三冠が先手番の時の対戦表。2021年のみ

 王位戦七番勝負第3局を皮切りに、藤井三冠が先手番では6連勝中だ。

 9月頃から藤井三冠が先手番で相掛かりを多用するようになり、ここ3戦は相掛かりを続けている。本局も先手番の藤井三冠が相掛かりを採用する可能性が高い

 対する豊島竜王はどう対応するか。

 ここ3戦の相掛かりで、豊島竜王は相手に7筋の歩を飛車で取らせる作戦を連採している。

 一歩を損するかわりに駒組みを早く進めて作戦の主導権を握る構想で、実際に3戦とも豊島竜王が先に攻めている。

 その作戦は直近の竜王戦七番勝負第1局で初めて功を奏し、リードを奪うことに成功した。しかし終盤で攻めを誤って逆転負けを喫している。

 豊島竜王は主導権を握って技をかけにいく展開を好んでおり、一歩を取らせる作戦は棋風に沿ったものであるといえる。

 ただ、豊島竜王が後手番で最後に勝った6月の対局では、藤井三冠にある程度動かせておいてから技をかけにいって優位を築いている。

 一歩を取らせて強引に主導権を握りにいく作戦を再び採用するのか、それとも後手番らしく追随してカウンターを狙うのか、豊島竜王の出方に注目だ。

藤井三冠が4つ目のタイトルへ近づくか

 改めて七番勝負の表をご覧いただこう。

30日に1日目が指される
30日に1日目が指される

 2連勝と絶好のスタートをきった藤井三冠にとって、4つ目のタイトル獲得へ視界良好といえる。

 藤井三冠は第1局の前夜祭で、

 「(豊島竜王の)序中盤の指し手の精度が非常に高くて、(王位戦と叡王戦では)差をつけられてしまうといった展開が多かったので、竜王戦では修正」したいと述べていた。

 実際、第1局で藤井三冠は先手番にもかかわらず主導権を握られる上に形勢でもリードを許す展開だった。

 しかし第2局では後手番で積極的な序盤戦をみせてリードを奪い、見事に課題を修正してみせた。

 藤井三冠は2局とも大きなミスがなくスキがない。2日制の竜王戦のような長い持ち時間における対局での安定感は群を抜いている。

 序盤で五分以上の戦いに持ち込めれば、勝つ確率が上がるだろう。

豊島竜王の逆襲は

 豊島竜王がここまでと作戦を大きく変えるとは考えにくい。豊富で精密な研究を元に後手番でも序盤からリードを奪いにいくだろう。

 筆者の見解では、豊島竜王は藤井三冠にある程度動かせたほうがいいのではないかと思う。

 反動を利用したほうが技がかかった時に大きなリードを奪える可能性が高いからだ。王位戦七番勝負第1局はその理想を体現した一局だった。

 強引に主導権を握りにいくと、どうしても反動がキツくなる。竜王戦七番勝負第1局ではその作戦がうまくいったものの、藤井三冠が修正してくるのは間違いない。 

 白星がほしい勝負では動きたくなるのが人情だが、幾多もの厳しい勝負を戦ってきた豊島竜王である。勝負に徹した指しまわしをみせるのではないだろうか。

 明日(30日)行われる1日目から目が離せない。ABEMA将棋チャンネルなど各メディアで中継が行われるので、ぜひご覧ください。

将棋プロ棋士 六段

1979年東京都生まれ。将棋のプロ棋士。棋士会副会長。2005年、四段(プロ入り)。2018年、六段。2021年竜王戦で2組に昇級するなど、現役のプロ棋士として活躍。普及にも熱心で、ABEMAでのわかりやすい解説も好評だ。2022年9月に初段を目指す級位者向けの上達書「イチから学ぶ将棋のロジック」を上梓。他にも「ゼロからはじめる 大人のための将棋入門」「将棋・ひと目の歩の手筋」「将棋・ひと目の詰み」など著書多数。文春オンラインでも「将棋棋士・遠山雄亮の眼」連載中。2019年3月まで『モバイル編集長』として、将棋連盟のアプリ・AI・Web・ITの運営にも携わっていた。

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