藤井聡太新叡王の誕生で夏の十二番勝負終戦。藤井三冠の新しい武器「相掛かり」が勝利の原動力に
13日、第6期叡王戦五番勝負第5局が行われ、挑戦者の藤井聡太二冠(19)が豊島将之叡王(31)に111手で勝利して通算3勝2敗とし、叡王を獲得した。
振り駒で先手番を得た藤井二冠は相掛かりを採用。豊島叡王は守備銀も繰り出して攻める意欲的な指しまわしをみせたが、藤井三冠が中盤でリードを奪うと終盤では鋭い攻めで一気に豊島玉を仕留めた。
これで第62期お~いお茶杯王位戦七番勝負から続く「夏の十二番勝負」は藤井二冠の7勝3敗、王位防衛&叡王獲得という結果で終わった。
作戦の成否
叡王戦五番勝負は先手番がすべて勝利して終わった。振り駒で先手番を得た藤井二冠には運も味方したといえる。
藤井二冠は先手番で最近愛用している「相掛かり」戦法を採用した。
デビューからしばらくは先手番で「角換わり」戦法ばかり指していたが、2021年に入ってからは相掛かりの採用が目立っている。
後手の豊島叡王は王位戦第5局と同じく、歩を損するかわりに主導権を奪いにいき、守備銀まで繰り出して攻めこんだ。これは豊島叡王らしい積極的な作戦だったが、将棋AIの数字はわずかに藤井二冠に振れていた。
中盤で藤井二冠が玉を早逃げして豊島叡王の攻めから先逃げしたのがうまい構想で、そこでペースをつかんだように思う。
結果的には藤井二冠にうまく対応されて豊島叡王の作戦は効果が薄かった。
終盤は居玉だった豊島玉に飛車捨てから藤井二冠が襲いかかり、あっという間に仕留めて勝ちをつかんだ。
序盤にわずかなリードを奪い、それを中盤でジリジリと広げていき、最後は一気に勝ちを引き寄せる藤井二冠の素晴らしい指しまわしが光る一戦だった。
豊島叡王は力を発揮しづらい展開になってしまい、チャンスらしいチャンスがなかった。
相掛かりの重要性
ここからは今後の話をしていく(肩書も9月14日時点のものに)。
第34期竜王戦七番勝負でもこの二人は対戦することが決まっている。
虎の子の一冠を守れるか、豊島竜王にとって正念場ともいえる戦いだ。
ここで第62期お~いお茶杯王位戦七番勝負と第6期叡王戦五番勝負の表をみていただこう。
王位戦第1局(6/29・30)では藤井三冠が相掛かりを採用したが、そこからは角換わりが5局続き、そして王位戦第4局(8/18・19)を境に今度は相掛かりが4局続いた。
その4局は先手が3勝、後手が1勝という結果だったが、後手の1勝は逆転(藤井勝ち)であり、実質的にすべて先手が作戦的にうまくいっていたことになる。
特に藤井三冠の先手番における相掛かりでは作戦負けになることが珍しい。
唯一の例外は王位戦第1局で、豊島竜王に完敗したのは記憶に新しい。
ただこの対局は6月のものであり、この2~3ヶ月で急速に習熟度を増しているようにも思う。
王位戦第5局、叡王戦第5局と決着局で藤井三冠は先手番の相掛かりで勝利し、結果的には夏の十二番勝負を制する原動力になった。
インタビュー記事等で、藤井三冠がディープラーニング系の将棋AIを研究に活用していると出ている。
このディープラーニング系の将棋AIは旧来型の将棋AIに比べて相掛かりがうまいと筆者はみている。
その要素をうまく取り込んだことで、藤井三冠の相掛かりにおける習熟度が増しているのかもしれない。
竜王戦七番勝負
豊島竜王は昨日の対局で、敗れた王位戦第5局と同じ作戦を採用した。
これはこの作戦に自信があったのか、それとも他に策がなかったのか。それは本人のみぞ知るところである。
さきほども書いたように、この二人は第34期竜王戦七番勝負で再び相まみえる。
もし後者であれば、豊島竜王にとって竜王戦七番勝負でも藤井三冠の相掛かりが脅威になるであろう。
今回の豊島竜王の作戦は、将棋AIの評価ではほんのわずかに損とされるものだった。それでも主導権を握れるので、自ら動いて技をかけにいく豊島竜王の棋風とマッチしたものであろう。
こうして将棋AIの評価はもう一つでも自らの棋風とのマッチングにより作戦を決めるのは、人間同士の戦いでは有効である。
しかし対藤井三冠としてみるとどうか。
昨日の対局でも、序盤で得たほんのわずかなリードを藤井三冠は一度も手放さずに勝った。
そうなると、序盤でわずかであってもリードを許さない方が対藤井三冠では勝率が上がるのではないかと思わせる。
豊島竜王がこの辺り、どういった戦略で竜王戦七番勝負に臨むのか。
このシリーズは他の棋士も含めた今後の対藤井三冠における一つの指針になるかもしれない。
第34期竜王戦七番勝負は10月8日に開幕する。