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沈黙の韓国候補を横目に「次の事務局長はワタシ」と既成事実化を図るライバルのナイジェリア候補

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
スイス・ジュネーブにあるWTO本部(写真:ロイター/アフロ)

 世界貿易機関(WTO)事務局長選出が遅延するなか、劣勢の兪明希(ユ・ミョンヒ)韓国産業通商資源省通商交渉本部長が沈黙しているのに対し、当確に近いナイジェリアのヌゴジ・オコンジョイウェアラ元財務相が関係各国に活発にメッセージを送って存在感を示している。競争相手の国のトップである文在寅大統領にまで「感謝の気持ち」を表明するほどの余裕をみせつけ、「次は自分である」として既成事実化を図っている。

◇文在寅大統領にも「感謝」伝える

 韓国紙の朝鮮日報(11月24日)によると、オコンジョイウェアラ氏は先月27日、菅義偉首相がその前日の所信表明演説で「2050年カーボンニュートラル(温室効果ガス実質ゼロ)」を宣言したことに対して支持を表明した。

 同じころ、オコンジョイウェアラ氏への支持を表明してきた▽南アフリカのラマポーザ大統領▽オーストラリアのバーミンガム貿易相――らに感謝の気持ちを伝えた。

 また今月17日、米ピーターソン国際経済研究所(PIIE)主催の行事に参加し、「デジタル貿易と電子商取引が、より大きな経済的包摂(あらゆる人が有意義な経済活動に参加できるよう情報取得を平等にすること)に発展する可能性がある」とも表明、事務局長に就任後の青写真を提示することも忘れなかった。

 オコンジョイウェアラ氏は、発展途上国へのワクチン普及を進める国際組織「Gaviワクチンアライアンス」の会長も務めている。

 韓国政府が先月28日、Gaviなどが運営する「COVAXファシリティー」(新型コロナウイルスのワクチンを複数の国と共同で購入する枠組み)に1000万ドル(約10億4450万円)の貢献を決定したことに言及して「パンデミック(世界的流行)の解決に向けた大きな一歩」とも述べ、WTO事務局長選挙でライバル国のトップである文大統領に感謝の意を示すなど、余裕も見せている。

 これに対し、兪明希氏は韓国国内でのイベントや、一部のラジオ番組のインタビューに応じる程度で、対外的にメッセージを発信していないという。先週放映のラジオ番組のインタビューで「継続的に協議をしながら、加盟国間の意見の一致を導き出すため努力をしている」と述べ、婉曲的表現ながらも事務局長選から撤退する意思がないことを明らかにした。韓国外務省も同様の立場だという。

◇総力戦の韓国、撤退は難しく

 WTO事務局長の選挙は、現職だったアゼベド氏(ブラジル)が今年5月、「個人的な決断」を理由に任期(4年)を1年残して退任する、と表明したのを受けて始まった。7月8日に募集が締め切られ、韓国や英国、ナイジェリア、メキシコなどから計8人が立候補。1次選考により5人に絞り込まれた。

 その後、韓国は、文大統領が約90カ国首脳と電話会談や親書のやり取りを通して、康京和外相が外交チャンネルを駆使して、それぞれ「兪明希氏支持」を訴えるなど、総力戦を展開。2次選考の結果、兪氏が勝ち残り、オコンジョイウェアラ氏との一騎打ちとなった。

 最終選考は、選考委員が加盟164カ国代表団と非公開協議を繰り返し、加盟国の全会一致で新事務局長を決定するという流れだ。事務局側は10月28日の加盟国による会合で「先進国や途上国から幅広い支持を得ている」としてオコンジョイウェアラ氏を推す意向を表明し、日本や中国、欧州連合(EU)などが賛同した。

 だがこの時、米国が韓国候補の支持を表明したため、全会一致とはならなかった。

 トランプ大統領はこれまで、経済大国の中国がWTOで「発展途上国」扱いされ優遇措置を受けていると主張し、「WTOは中国に肩入れしている」との批判を繰り返してきた。そもそも中国が支持する候補を米国が受け入れるわけにはいかない。またアフリカ出身者が事務局長になれば、途上国に有利な政策が増えるという懸念も強い。

 一方、米国はWTOでの最終決定に強い影響力を持つものの、米国が反対しただけでオコンジョイウェアラ氏の優勢が覆されるわけでもないようだ。

 WTOは今月9日に一般理事会を開いて事務局長選出について協議する予定だった。だが、新型コロナ感染拡大を受けた対面会合の規制のため、開催が延期された。一般理事会の日程は決まっていないが、バイデン米政権発足プロセスをにらみながら12月以降での開催を模索するとみられる。

 決着がこじれれば、WTOで初となる投票が実施される可能性も報じられている。ただ、WTOは合意形成を重視する立場から、過去に投票が実施された例はない。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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