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「学校とは何なのか」と向き合う学校を創る

前屋毅フリージャーナリスト
クラウドファンディングも「開かれた学校創り」の一環  写真提供:CAP高等学院

●学校への疑問

 今年は、学校にとっても印象深い年となった。首相の突然の要請を受けて全国の学校が長期休校に突入し、休校が明けると休校中の「遅れ」を取り戻すという名目で超過密スケジュールを余儀なくされ、学校行事は中止されつつある。一方ではオンライン授業が注目され、「学校に行かなくても授業は受けられる」との認識も広まっている。

 そうしたなかで、学校の存在意義そのものが問われている。「学校とは何なのか」という疑問が浮き彫りになってきているのだ。

 それに対するひとつの答になりそうな高校が、今年4月に誕生し、10月から本格的にスタートしようとしている。それが、「CAP高等学院」である。その資金をクラウドファンディングで集めようとしているのも、「学校とは何なのか」につながっている。

 同校の設立者で代表も務める佐藤裕幸さんは、今年3月まで私立の中高一貫校で教鞭をとっていた。そこを辞めて、学校設立に踏み切ったのだ。そこにいたった思いを、彼は以下のように語る。

「学びの場所は、いろんな人が当事者になって、いろんなものが得られる場所でなければならないはずです。しかし現実に当事者になっているのは『学校』だけなんです」

「閉じられた学校」から「開かれた学校へ」 写真提供:CAP高等学院
「閉じられた学校」から「開かれた学校へ」 写真提供:CAP高等学院

 そして佐藤さんは、学校だけが当事者になっている例として「校則」をとりあげた。「校則をホームページに載せている学校はほぼ無いし、学校説明会でも校則が説明されることはありません」

 しかし校則は存在するわけで、子どもたちは入学してみて初めて校則の壁にぶつかり、「校則だから、やっちゃダメ」と言われることになる。その校則をつくるにあたって子どもたちが当事者として加わったわけでもないし、保護者も当事者ではない。校則をつくったのは学校であり、つまり当事者なのは学校だけでしかない。

 学校では万事がこんなふうで、学びも子どもたちや保護者が当事者になっているとは言い難い。企業や社会人となると、まるで「門外漢」でしかなく、立ち入ってはいけないようにおもわれてさえいる。学校は「閉じられた場」でしかないのだ。

●大人との出会いで化学反応

 そういう場所がほんとうに学びの場になっているのか、佐藤さんは疑問を感じた。大きなきっかけとなったのは、昨年の3月に生徒20人を引率してIT企業の見学を行ったことだった。ただの企業見学ではなく、そこで働く人たちとの意見交換を主体とする内容だった。それを企画したのは、教育関係や関係外のセミナーなどに積極的に参加してみて学校外の人たちと触れ合う重要性に佐藤さん自身が気づいていたからだ。佐藤さんが続ける。

「そのとき参加した中3の子が、『いろいろな大人と話をしてみて、いまの人間関係のままだと狭い生き方しかできないと感じました。だから留学します』と言ったんです。実際、その子は1年間、カナダに留学したんです」

 その子だけではなかった。医学部志望の中3の女生徒は、「ほんとうに自分は医者になりたいとおもっているのか、医者になる意志を固められるのか、ちゃんと確かめてみる必要がある」と見学会後に佐藤さんに語ったという。その年の夏、彼女は1ヶ月間の医療ボランティアを体験するためにタンザニアにでかけていった。

「出会ったのはIT企業で働く人たちなので、医療とは関係ない。それでも自分の仕事に対する思いなどを語り、子どもたちの話を聞いて意見を述べたりしてくれたなかで、子どもたちは自分の頭で考え、価値観を問い直しはじめたんですね」

 と、佐藤さん。それまで出会う機会のなかった大人と接したことで、子どもたちの内側で化学変化が起きたのだ。「これこそ学びだ」と考えたが、学校だけが当事者である閉ざされた場所では、そういう場にはならない。だから、新しい学校を創ろうと、佐藤さんはおもったのだ。

●クラウドファンディングは「当事者」との出会い

 CAP高等学院は、広域性通信高校と連携することで単位取得のための学習をサポートしていく。それが実現できたのも、佐藤さんが学校の枠から飛び出して様々なセミナーなどに参加し、人脈を広げていたからだ。もちろん、単位取得のためだけなら、新しい学校を創る意味はない。CAP高等学院では多様な大人との出会いの場をつくり、さまざまな学びを提供していくという。さらに、生徒が当事者となって自分たちの学びと学校のかたちをつくっていく。

 クラウドファンディングもその一環である。今年10月のスタート時点での生徒数は10名で、すでに選考は始まっているが、その生徒の授業料などをクラウドファンディングで調達する。クラウドファンディングでの支援者へのリターンとして「オンライン職員室」への参加権やワークショップ開催権などが用意されている。

 つまり、支援者も子どもたちと関わっていく「当事者」になるのだ。子どもたちの学びに主体的に関わり、それを自らの学びにもしていける。閉じた世界から、学校が社会とつながる場に変わっていく。

 CAP高等学院が、ほんとうの学びを保障する学校のひとつの姿になるかもしれないし、「学校とは何なのか」という問いへの答になっていくかもしれない。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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