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広まる! 奈良教育大附属小の「強制出向」に対する抗議の声

前屋毅フリージャーナリスト
(写真:イメージマート)

 授業の一部が学習指導要領に沿っていないとして「不適切」と指摘された奈良教育大附属小の問題は、日本の教育界に大きな〝驚き〟をあたえた。問題が表面化したのは今年1月だったが、4月には附属小も新学期を迎えて夏休みにはいり、「騒ぎは落ち着いた」とおもわれているかもしれない。しかし、問題は終わるどころか、ますます波紋を広げつつある。

|不当な出向命令に教員が提訴

 奈良教育大は今春、附属小教員として大学独自に採用した19人のうち3人を奈良県内の公立小学校に出向させた。「不適切」と指摘された授業を主体的に担ってきたのが、独自採用の教員たちだったからだ。今回は出向対象にならなかった独自採用教員たちも、いずれ出向させられるとみられてもいる。

 そして6月12日、出向させられた3人が附属小を所管する奈良国立大学機構を相手取って、労働契約法に反するとして、出向命令の無効の確認を求めて奈良地方裁判所に訴訟を起こした。

 そもそも大学側は、今年1月には独自採用教員の出向方針を示していた。その撤回を求めて、附属小の保護者のあいだでは署名運動が行われた。さらに附属小外部でも、反対の署名が集まり、大学側に提出されている。それもあって大学側は、今春の出向を3人にとどめたとも考えられる。

 それでも、大学側は出向を強行した。

 そして3教員が提訴したわけだが、動きはこれだけではない。7月14日には「人権と民主主義の教育をめざすネットワーク」(以下、ネットワーク)の主催による「学校はだれのためにあるのか-奈良教育大学附属小の問題から考える-」という集会が開かれた。

 附属小の現役教員も参加し、附属小で行ってきた授業が「不適切」と指摘されるようなものではなかったことを説明した。そして3教員の強制的な出向が不当であることも訴えた。

|あちこちで批判の動き

 この集会でネットワークは、文科省に対する質問書を提示した。文科省が「標準時間数をふまえること。ただし、過不足になることがあるが、児童生徒・学校・地域の実態等を考慮し、具体的に定め、適切に配当する必要がある」と説明してきたことを挙げ、「これに照らした場合、奈良教育大附属小がどういう点で不適切な教育課程になるのか、具体的に説明してください」など、3つの質問が盛り込まれている。

 この質問書を7月26日にネットワークは文科省に提出したが、返答はないという。(7月末現在)

 さらに7月27日、愛知県で「奈良教育大学附属小学校不当出向命令無効確認訴訟を勝たせる会・あいち(勝たせる会・愛知)」が結成集会を開いた。訴訟を起こした3教員を支援し、訴訟で勝たせることを結成目的としている。

 勝たせる会・愛知の共同代表を務める中嶋哲彦・名古屋大学名誉教授は集会の場で、「附属小は国の教育課程基準を尊重し、各学校に許される裁量の範囲で教育課程を編成して教育実践に取り組んできている。奈良教育大学が主張するような『不適切』はなかった」と述べた。

 さらに、学長には出向を命令する権限はあるが、「完全なフリーハンドで認められているわけではない」と強調。奈良国立大学機構職員就業規則の第13条では、「職員は、業務上の必要により出向を命じられることがある」となっている。業務上の必要がなければ出向を命じられる必然性はないし、「奈良教育大で採用された教員が公立小に出向させられるのはおかしい」とも、中嶋氏は指摘した。

 そのうえで、今回の強制的な出向は「不当な出向命令」でしかないし、独自採用教員を「追放」した大学側の意図がみえるとも述べた。だから、出向させられた3教員が裁判に勝つための支援を行う、というわけだ。勝たせる会・愛知は今後、3教員を支援するための活動を、さまざまな場をつうじて展開していくという。

 ネットワークや勝たせる会・愛知のような活動は、全国でジワジワとはじまり、広がりつつある。3教員の提訴が、奈良教育大附属小だけでなく、日本の教育そのものに大きな影響をあたえていくことはまちがいなさそうだ。

フリージャーナリスト

1954年、鹿児島県生まれ。法政大学卒業。立花隆氏、田原総一朗氏の取材スタッフ、『週刊ポスト』記者を経てフリーに。2021年5月24日発売『教師をやめる』(学事出版)。ほかに『疑問だらけの幼保無償化』(扶桑社新書)、『学校の面白いを歩いてみた。』(エッセンシャル出版社)、『教育現場の7大問題』(kkベストセラーズ)、『ほんとうの教育をとりもどす』(共栄書房)、『ブラック化する学校』(青春新書)、『学校が学習塾にのみこまれる日』『シェア神話の崩壊』『全証言 東芝クレーマー事件』『日本の小さな大企業』などがある。  ■連絡取次先:03-3263-0419(インサイドライン)

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