9つもの夜の遊び場が東京のナイトライフを革新する。地上140メートルで華やぐホテルの新ナイトスポット
ビジネスと交通の品川
品川といえば何をイメージするでしょうか。
2003年から東海道新幹線が停まるようになったり、2016年度のJR東日本における1日平均乗車人員で渋谷を抜いて5位となったり、2020年に品川駅と田町駅の間に新駅が開業する予定であったりと、品川は交通の要所となっています。
また、港南エリアには大きなビルが林立し、そこには世界に名だたる企業が入居しており、ビジネスの重要拠点になっていることも異論はないでしょう。
このように品川は交通やビジネスのイメージがありますが、実は昨年2017年あたりから夜の遊びの場にもなってきているのです。
品川・高輪エリアのプリンスホテル
品川の高輪エリアには、以下のようにプリンスホテルだけで4つもあります。
- ザ・プリンス さくらタワー東京
- グランドプリンスホテル高輪
- グランドプリンスホテル新高輪
- 品川プリンスホテル
4ホテルとも、品川駅から徒歩数分以内の近距離にあるだけに、品川・高輪エリアのプリンスホテルが、品川における人の流れや街の雰囲気を作り出しているといっても過言ではありません。
<なぜプリンスホテルで3つのブッフェレストランが同時期にオープンしたのか?その背景と5つの最新トレンド>でも触れましたが、品川・高輪エリアのプリンスホテルでは昨年大きな改装があり、以下の通り、新しいレストランがオープンしました。
- 和ビストロ いちょう坂@品川プリンスホテル
2017年4月11日オープン
- スロープサイドダイナーザクロ@グランドプリンスホテル新高輪
2017年4月14日オープン
- リュクス ダイニング ハプナ@品川プリンスホテル
2017年7月1日リニューアルオープン
- テーブルナイントーキョー(Dining & Bar TABLE 9 TOKYO)@品川プリンスホテル
2017年12月13日オープン
これらのレストランは全て、大きな空間をゾーニングすることによって多面性を持つようになっており、料理とお酒に音楽や音、プロジェクションマッピングや映像を融合させることに成功しました。
夜遅くまで営業し、これまでのホテルのレストランとは思えないほどエンターテイメント性に溢れているのです。
半年間、約8億円
この新しいレストランの中でも特に注目したいのが、一連のリノベーションの最後を飾り、2017年12月13日に品川プリンスホテル最上階39階にオープンした「テーブルナイントーキョー(Dining & Bar TABLE 9 TOKYO)」です。
何故ならば、この「テーブルナイントーキョー」のオープンをもってして、品川を遊びの場へと転換するプリンスホテルの挑戦的なプロジェクトはひとつの大きな節目を迎えるからです。
9つのエリア
まず全容について説明しましょう。
この「テーブルナイントーキョー」は、2017年6月から11月まで約半年という長い期間をかけて、約8億円も費やしてリノベーションした大型の施設です。
地上140メートルという高層階にありながら、天井高は約8メートルもあり、まるで空中に浮かぶ施設のようです。
約2000平方メートルという広い空間をモダンにゾーニングし、以下9つのエリアにデザインしました。
創作ダイニングやグリル&ステーキといったレストランの他に、広い2つの個室、シャンパーニュや日本酒をテーマにした2つのラウンジ、メインバーとウイスキーとカクテルをテーマにした3つのバーという構成になっています。
特徴的なことは、9つのエリアのうち半分以上を占める5つのエリアがお酒をテーマに掲げていることです。
ホテルの施設では通常ここまで振り切ることはしませんが、お酒は夜を楽しむために重要な要素となるだけに、ここまで力を入れているのでしょう。
アートな空間
空間は単に広いだけではなく、印象的なアートに満ち溢れています。
「品川新メトロポリス」をテーマにしたエレベーターホールの木工スクリーンは日本を代表するキモノデザイナーである斉藤上太郎氏がデザインし、窓から広がる空が引き込まれたようなレセプションホールのアートガラスカウンターはアーキテクチュア グラスアーティスト野口真里氏が製作しました。
他にも、斉藤氏は「TOKYO FUSION DINING」の金属アートパネルやアーチコリドーの壁面ファブリックを、野口氏は「COCKTAIL BAR」の腰部にあるガラスアートを創り出しています。
こういった細部のアートの他に、空間自体にも大きなテーマが与えられています。
東京湾を望める「AWA LOUNGE」は「水面の輝き、透明感、波、うねり」を、富士山を捉えられる「SHIZUKU LOUNGE」は「木漏れ日や影、ゴツゴツ、ザラザラとした質感」を表現しています。
DJカウンターを設けた「NINE BAR」では幾何学や有機的な曲線が大胆に取り入れられ、最も奥にある「GRILL & STEAK」は明るくて華やかな空間となっているのです。
それぞれのエリアで全く異なるデザインとなっているので、一周回るだけでも胸が踊るような気持ちになるでしょう。
カクテルやシャンパーニュが充実
お酒の特徴は何でしょうか。
「AWA LOUNGE」は泡と命名されているくらいなので、シャンパーニュにとてもこだわっています。月替りでブランドが新しくなり、マグナムボトルを用意し、スタンダード、プレステージ、ロゼと3種類程度も取り揃えているのです。
また、ワインはグラスで約30種類もオーダーできるようにするなど、他のホテルでも行っていないことを英断し、気軽にワインを楽しめるようにしています。
カクテルもリノベーションによって新しくなっていますが、今流行のミクソロジーではありません。
オーセンティックながらもモダンさを感じさせるオリジナリティ溢れるカクテルを提供しています。
モヒートを6種類も用意していたり、外国人向けに紫蘇や抹茶を使ったカクテルを創作したり、ノンアルコールカクテルに力を入れたりと趣向を凝らし、既に評判が高いです。
バーマスターを務める高木裕己氏は「ミクソロジーからオーセンティックなカクテルにトレンドが回帰している。朝4時まで営業しているので、お酒を楽しんでいただきたい」と述べます。
料理の特徴
料理の特徴は何でしょうか。
「GRILL & STEAK」では、神戸ビーフに次いで外国人に認知されて人気が高く、高級和牛としても名高い飛騨牛を主に取り扱っていますが、黒毛和牛だけではありません。
30日熟成させて旨味を増した「USアンガスドライエイジングビーフ Tボーンステーキ」などの熟成肉もあります。
スモーク醤油、ワサビ、自家製の塩、福岡や熊本のなめみそである「しょんしょん味噌」、サルサベルデなど、他では味わえないコンディメントをアレンジしていることが特徴的です。
「TOKYO FUSION DINING」では創作料理やプレゼンテーションの妙味を楽しめます。
「生ハムメロン T9スタイル”氷山仕立て”」はスペインのハモンセラーノにマスクメロンを合わせ、最後にコンソメビーフのソルベを目の前で削ってもらえます。
オーソドックスな生ハムとメロンを予想していると、よい意味で期待を裏切られるでしょう。
「甘い炎の炙り和牛”SUKIYAKI”」はワゴンがテーブルまでやってきて、実演ですき焼きを作ってくれるというこだわりです。ステーキのように厚みのある肉に、綿菓子を加えて甘味をつけ、フランベして香りを付け、温泉玉子を添えています。
ダイナミックな作り方はインスタ映えしますし、面白い取り合わせとなっているので、新しいすき焼きとして話題になるのではないでしょうか。
背景
空間、お酒、料理について説明してきましたが、そもそも「テーブルナイントーキョー」はどのようにして生まれたのでしょうか。
リノベーションの検討を始めたのは2015年の夏頃からであり、新しい施設をオープンする目的は以下の3点でした。
- 24時間遊べる新たなエンターテインメントスポットへの進化
- 品川における新たな顧客ニーズへの対応
- 訪日外国人の方が深夜まで楽しめるナイトスポットの提供
近年、羽田空港の国際化などにより日本の玄関口として品川が非常に発展しており、訪日外国人の客が増えています。加えて、従来は通過点であった品川を目的地として様々な客が訪れ始めました。
こういった状況を鑑みて、多様な客層に対応した遊び場を提供できる場として、コンセプトが9つのエリアを持つ施設を創出したのです。
9つの異なる「業態」=「TABLE」を持つということで、「テーブルナイントーキョー」=「TABLE 9 TOKYO」という名称に至りました。
オープン後の反響
オープンしてから1ヶ月以上が経ちますが、「テーブルナイントーキョー」へ訪れた客の反応はどうなのでしょうか。
初めて訪れた人の中には、広大な空間と高層階からの景色が目に飛び込んだ瞬間に、驚きの声を上げることもあります。雰囲気と料理の評判はよく、日本人だけではなく訪日外国人の客もたくさん訪れているのです。
興味深いのは、食事をとった後にラウンジやバーを利用する客が多いこと。これこそが、9つものエリアを擁し、その中で様々な遊びを楽しんでもらいたいというプリンスホテルの考えではないでしょうか。
オペレーション
多くの客が満足してますが、これだけ大きな施設で9つものエリアを運営するにあたって、苦労していることはあるのでしょうか。
実はこれだけ大きな空間で異なる9つのエリアがあるため、オープン前にサービスや調理のレベルを統一化することに力を入れていました。OJT(On-the-Job Training=オン・ザ・ジョブ・トレーニング)やシミュレーションを徹底的に実施し、満を持してようやくオープンを迎えたのです。
空間がとても広く、これまでの料飲施設と同じように隅々まで目を行き届かせることが難しいため、スペシャリストを養成して各エリアに配置しています。
スペシャリストは、担当エリアのスタッフと頻繁にコミュニケーションを交わし、問題点を吸い上げ、各エリアですぐ解決し、対応できるようにしているのです。
スタッフの教育強化と権限委譲が、膨大な料飲施設を支える大きな原動力になっていると言えるでしょう。
プリンスホテルのトップ
「テーブルナイントーキョー」の前身となる1994年12月にオープンした「トップ・オブ・シナガワ」は、既に閉館したグランドプリンスホテル赤坂(旧「赤坂プリンスホテル」・現「ザ・プリンスギャラリー 東京紀尾井町」)最上階にあった「トップ・オブ・アカサカ」と並んで、ゴージャスできらびやかなホテル施設の象徴でした。
ダイナミックな空間、ミラーボールやシャンデリアは非常に華やかであり、プリンスホテルの「トップ」でデートしたり、赤プリのスイート(赤坂プリンスホテルのスイートルーム)でパーティーを主宰したりすることは、とてもクールであるとされていたのです。
そのようなプリンスホテルの「トップ」も、現在は以下の7店舗となりました。
- トップ・オブ・ヒロシマ@グランドプリンスホテル広島
- トップ・オブ・ヨコハマ@新横浜プリンスホテル
- トップ・オブ・プリンス@札幌プリンスホテル
- トップ・オブ・オオツ@びわ湖大津プリンスホテル
- トップ・オブ・クシロ@釧路プリンスホテル
- トップ・オブ・フラノ@新富良野プリンスホテル
参考
- トップ・オブ・アカサカ@グランドプリンスホテル赤坂
2011年3月クローズ
- トップ・オブ・シナガワ@品川プリンスホテル
2017年3月クローズ
「テーブルナイントーキョー」はホテルにしては珍しく朝4時まで営業するバーを擁していたり、様々な種類のお酒を用意したり、人気のグリルに力を入れたり、インスタ映えするようなアクションを盛り込んだフュージョン料理を取り入れたりするなど、新しい試みを行っています。
偉大な夜の遊び場であった「トップ・オブ・シナガワ」に代わり、料理とお酒にますます磨きをかけ、空間をモダンにデザインし、ホテルで夜に遊ぶことがカッコイイと証明する「テーブルナイントーキョー」がこれから、品川・高輪エリアはもちろん、東京におけるナイトライフを革新していくのではないかと、私は注目しています。