「差別ダメ」のウソ―法務大臣が容認、偏見を煽る国内最大のヘイト勢力とは
特定の人種や民族の人々に対する差別や偏見、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりするなどの攻撃的な言動「ヘイトスピーチ」。今月は、ヘイトスピーチを「許されない」と明記し、国や自治体に対策を促す「ヘイトスピーチ解消法」の施行から5年となる。1日の会見で、上川陽子法務大臣はヘイトスピーチについて、「多様性と包摂性のある『誰一人取り残さない社会』の実現を目指す上で、決してあってはなりません」と強調。ヘイトスピーチ解消法施行5年の節目を機に、一層の取り組み強化を呼びかけた。だが、戦災や人権侵害から命からがら日本に逃げてきた難民達にとっては、法務省及び出入国在留管理庁(入管)こそ、組織的にヘイト(憎悪)を煽っている国内最大の存在であると言えよう。この矛盾について、会見で上川法相に問いただした。
◯法務省/入管が差別を煽る
人権擁護局を擁する法務省は、ヘイトスピーチ解消もその所管に含まれる。ヘイトスピーチの定義として、法務省はそのウェブサイトで、
と定義。「それを見聞きした方々に、悲しみや恐怖、絶望感などを抱かせるものであり、決してあってはならないもの」としている。ところが、日本で庇護されることを求める難民認定申請者に対しては、法務省/入管は、事実に基づかない発信を繰り返し、差別や偏見、憎悪を煽っているのだ。
例えば、認定率0.2~1%と、他の先進諸国に比べ桁違いに少ない日本の難民認定数について、法務省/入管は「大量の難民や避難民を生じさせる国との地理的要因は、日本と欧米とでは大きく異なる」との主張を報道資料やそのウェブサイト等で繰り返している。また、「難民認定申請の中に、日本からの退去の回避、日本での就労又は在留を認めてもらうことを目的として行われた濫用・誤用的な申請が相当数含まれている」との主張も繰り返している。つまり、"日本での難民申請はほとんど虚偽のもの"とミスリードさせるような主張であり、実際、SNSやYahoo!ニュースでのユーザーコメントでは、難民申請者に対し「偽装難民の人権など守る必要ない」「不法滞在者は帰れ」等の誹謗中傷が大量に書き込まれ続けているのだ。
◯法務省/入管の統計に矛盾
だが、法務省/入管の統計を見ると、その主張の矛盾が露わとなる。日本での難民認定申請者が避難してきた出身国は、多くの難民が逃れている国々と重なる。例えば、トルコからの難民認定申請者数は、日本での申請全体の中で常に上位に入っているが、これまで、日本では、トルコ出身のクルド人が難民認定された事例は過去一度もない。しかし、トルコで少数民族のクルド人が深刻な迫害を受けていることは、国際社会では常識的なことで、2019年ではドイツでは5,232人(難民認定率33.8%)、カナダでは2,011人(同73.7%)、アメリカでは1,400人(同41.3%)のトルコ出身者が難民認定されている(関連情報)。
また、法務省/入管が「難民認定制度の濫用者が多い」と名指ししてきたのが、ミャンマーからの難民認定申請者だ。ミャンマーで民政移管が始まった2011年以降、同国出身者の日本での難民認定率は急低下し、ほとんど認定されなくなってしまった。だが、法務省/入管が「難民が発生する状況にない」としていた民政移管の開始後も同国少数勢力のロヒンギャに対する、村の焼き討ちや虐殺、強制収容など深刻な人権侵害は行われていたし、他の少数民族とミャンマー国軍との紛争は続いていた。
さらに、2015年以降、日本での難民認定申請では、最初に難民である可能性や、過去に申請歴があるか等で、A、B、C、Dと4つの分類に振り分けられられるが、そのうち、「明らかに難民ではないと思われる」とするB案件は、近年では全体の2、3%程度である。
つまり、「日本に真の難民が来ることは少ない」「日本での難民認定申請はその多くが濫用」という、法務省/入管の主張は、明らかに事実と異なるデマだ。それにもかかわらず、そのデマを法務省/入管は執拗に主張し続けており、上述のようにインターネット上での難民認定申請者に対するヘイトスピーチ的な書き込みにも、法務省/入管のデマの受け売りであるものが非常に多く見られる。法務省/入管こそ、難民認定申請者に対するヘイトを煽っている国内最大にして最悪の存在だと言えよう。
◯上川法相の言行不一致
上川法相は会見で「ヘイトスピーチは決して許されない」と強調した。ならば、明らかに事実と異なり、難民申請者に対する差別や偏見を煽るような法務省/入管の発信自体を、まず見直すべきではないか。筆者は、今月4日の会見で、上川法相に問いただしたが、それに対する回答は、従来の法務省/入管の主張を、合理的かつ具体的な根拠も示さないまま繰り返すだけのものだった(関連情報)。
法務省/入管の難民認定申請者への差別的なスタンスは、国連人権理事会・恣意的拘禁作業部会の意見書(2020年9月)など、国連の人権関連の各委員会からも指摘されてきたことだ。往々にして、差別する側は「自分は差別していない」と言いがちであるが、上川法相や法務省/入管の幹部一同は、自らの言行こそが最悪のヘイトスピーチとなっていることを自覚するべきだろう。
(了)