名古屋はなぜコンクリート像の珍スポットが多いのか?
B級スポットマニアから熱い視線を注がれる名古屋
B級スポット、珍スポットマニアの間では名古屋を中心とする愛知県さらには東海地方は、お目当てとなる場所の宝庫と言われています。
とりわけコンクリート製の人形が立ち並ぶスポットがやたらと多い、というのが好事家たちの共通する意見です。
名古屋にはなぜコンクリート像の珍スポットが多いのでしょうか?
それはズバリ、類まれなるコンクリート像専門の造型家がいたからなのです。
その人の名は浅野祥雲(あさのしょううん 1891~1978)。昭和の時代に鉄筋コンクリート製の人形を猛烈な勢いで創作した人物で、生涯遺した作品の数は500体とも1000体とも言われています。これほど多くの作品を手がけながら美術史に名を刻むことはなく、一般的にはまったく無名ですが、B級スポットシーンでは超有名人で、サブカルチャー好きの間ではそれなりに名の知れた存在です。
「デカい」「たくさん」「カラフル」「ダイナミック」
が魅力の浅野祥雲作品
祥雲は明治中期に岐阜県で生まれ、大正末期に名古屋へ移り住んで、昭和初期から40年代にかけて無数のコンクリート像を作りまくりました。代表的なスポットは'''五色園'''(愛知県日進市)、'''桃太郎神社'''(愛知県犬山市)、'''関ヶ原ウォーランド'''(岐阜県関ヶ原町)で、この3箇所はファンの間で“浅野祥雲三大聖地”と呼ばれています。この他にも、東海地方には寺社を中心に祥雲の作品が見られるスポットがあちこちに存在するのです。
その特徴は「デカい」「たくさん」「カラフル」「ダイナミック」の4要素。等身大かそれ以上のスケールの像が屋外に何十体、何百体と林立し、極彩色にペイントされ、様々なポーズで躍動しています。そのインパクトたるや、一度見たら忘れられません。
祥雲は果たして本当にB級なのか?
初の本格作品集&研究書が完成!
膨大な作品群を誰もが見られる形で遺した祥雲ですが、その生涯や創作に関する記録らしい記録はほとんどなく、その実像はベールに包まれていました。ファンを自認する人たちも施設に足を運んで写真を撮るくらいしかアプローチの手段がなく、パッと見のド派手な印象から“面白おかしい変なモノ”ととらえてブログなどで笑いのネタにするケースがほとんどでした。
しかし、この度初めて、この幻の造型家の真実に迫る作品集&研究書が発刊したのです! タイトルは『コンクリート魂 浅野祥雲大全』(Amazonで購入可)。何を隠そう、著者はこの私、“日本唯一の浅野祥雲研究家”を自称する大竹敏之です。
最大のウリはオールカラー204ページの大ボリューム。現存が確認できている祥雲作品をすべてカラー写真で掲載し、その数奇しくも758(ナゴヤ)体!文献はもちろんネットでもまったく取り上げられたことがない新発見スポット・作品も多数紹介。さらにご遺族から製作の依頼主、助手など、生前を知る関係者の証言を多数拾い集め、さらにさらに信仰、観光、建築など多面的な角度から時代性を考察し、民俗文化としての浅野祥雲の存在意義をあぶり出していきました。
サブカル本のふりして実は・・・
明らかになる幻の造型家の真実
こうして見えてくるのは“B級スポットの父”“変な人形をいっぱい作った人”という世のイメージはきわめて表層的なものでしかないという事実です。と同時に既存の文化・美術史観に対してもひとつの問題提起となるのではないかと思っています。
というわけで、サブカル本の衣をかぶりながら、埋もれた民俗文化を掘り起こしていこうとするこの1冊。もちろん、堅苦しいことは抜きにして、祥雲作品のほぼすべては公園や寺社など屋外に設置されていて自由に見学できるものがほとんどなのでレジャーガイドとしても活用できます。浅野祥雲を通して、名古屋のディープな魅力にハマっていただければと思います。