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ホホジロザメの仲間「巨大ウバザメ」はなぜ空中へ飛翔するのか

石田雅彦科学ジャーナリスト
photo credit: Colin Speedie/Wave Action.

 ウバザメ(Cetorhinus maximus、Basking Shark)は、おとなしい性質のサメだが巨大で姿形がホホジロザメ(Carcharodon carcharias、White Shark)に似ている。その巨体をしばしば海面から空中へ飛翔させることが知られているが、その生態が少しずつわかってきた。

二番目に大きなサメ

 国際自然保護連合(IUCN)のレッドリスト2001年度版(ver.3.1)でVU(Vulnerable、危急種、絶滅危惧II類)に指定されているウバザメは、最大種であるジンベエザメ(〜20メートル)に次ぐ大きさのサメだ。

 最大体長6〜8メートル、まれに10メートル以上の大きさになると考えられており、どう猛なホホジロザメやアオザメ(Isurus oxyrinchus、Mako Shark)と同じネズミザメ目(Lamnidae)の仲間になる。

 ホホジロザメの仲間で同じような紡錘形の体型をしているとはいえ、ウバザメは攻撃的ではなく性格はいたって温和とされる。これは彼らの餌がほとんど動物性プランクトンで、他の魚類などを捕食しないからと考えられている。

 巨大な口を開けながら泳ぎ、海中のプランクトンを鰓で濾し摂って食べるため、長距離をゆっくりと回遊しながら移動している。ウバザメの主な生息域は、動物性プランクトンの豊富な温帯の海域なのはそのためだ。だが、1000メートル近くまで潜ることも知られている(※1)。

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ウバザメの生息海域。温暖な温帯の海域に生息しているが、巨大な肝臓を持つため肝油やフカヒレ目的などで乱獲され、海面付近を回遊する生態やその穏やかな性格もあって数を減らしている。Via:IUCNのウバザメ(Cetorhinus maximus)のページhttp://www.iucnredlist.org/details/4292/0(2018/09/23アクセス)

 捕食の容易なプランクトン食のため遊泳スピードも遅く、動きも俊敏ではなく緩慢とされてきたが、最近の研究により実際はホホジロザメに匹敵するほどの活動力を持っていることがわかった。これは英国のクイーン大学ベルファストなどの研究グループによる調査で、王立協会(Royal Society)の生物学雑誌『Biology Letters』に発表された(※2)。

 ウバザメの観察研究はまだ少ないが、ウバザメはホホジロザメと同じように海面から空中へ高くジャンプ(Breaching)することが知られている。これは仲間とのコミュニケーションをとる社会行動か、身体に寄生するヤツメウナギ(Petromyzon marinus、Sea Lampreys)を払い落とすためと考えられているが(※3)、のんびりした巨体のウバザメにとっては大変な労力だろう。

ホホジロザメに匹敵する海面ジャンプの速度

 同研究グループは、アイルランド沖でウバザメを、また南アフリカ沖でホホジロザメの海面ジャンプをビデオで記録し、両者を比較した。ウバザメのジャンプは90時間以上の録画で600回、記録したという。また、ウバザメにタグを付け、衛星で追跡し、その行動を調べた。

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口を大きく開けて海中のプランクトンを採餌するウバザメ。Via:NOAA Fisheries Service. National Oceanic and Atmospheric Administration.

 その結果、ウバザメの海面ジャンプ速度は、ホホジロザメに匹敵し(秒速4.9〜5.1メートル:4.8メートル)、ホホジロザメのジャンプ映像記録がオットセイを捕食する際のものと比較すると、そう切迫した理由でもなさそうなウバザメのジャンプ速度が際立っていることがわかる。

 ウバザメの垂直方向への移動を推測してみると、ほぼ1秒間に1回、尾ビレを振りながら28メートルの深度から急浮上していると考えられ、通常の速度で泳ぐ場合、1秒間に0.2回の尾ビレの振りが1.2回に増えるようだ。

 研究グループは、体長8メートル(Fork Length)で2700キログラムのウバザメが体長4メートルのホホジロザメと同じ秒速5メートルで泳ぐ場合、2/3のパワーを使うと考えている(加速度は毎秒0.4メートル)。

 毎秒5メートルで泳ぐウバザメは2.7ワット/キログラム/秒(1秒間に約56キロカロリー、ヒト成人男性の1日のエネルギー量が2650キロカロリー)を消費するが、海面ジャンプなどで最大出力を出す際は50ワット/キログラム/秒(1033キロカロリー)になり、これもホホジロザメに匹敵するパワーだ。だが、消費エネルギーが大きいため、ウバザメが1日にジャンプする回数はホホジロザメの半分ほどという。

 温帯に生息するわりに日本近海での目撃例や捕獲例は少ないウバザメだが、生殖年齢に達するまでに最短で6年かかるようだ。マイクロプラスチックの海洋汚染が問題になっているが(※4)、プランクトンを採餌するウバザメの筋肉からマイクロプラスチックによる毒性の高い残留性有機汚染物質(Persistent Organic Pollutants)が発見されている。

 ウバザメは、環境変化を知らせてくれる存在ともいえ、その生態研究や個体数把握などの必要な生物の一つともいえるだろう。

※1:Gregory B. Skomal, et al., "Transequatorial Migrations by Basking Sharks in the Western Atlantic Ocean." Current Biology, Vol.19, 1019-1022, 2009

※2:Emmett M. Johnston, et al., "Latent power of basking sharks revealed by exceptional breaching events." Biology Letters, Vol.14, Issue9, Doi: 10.1098/rsbl.2018.0537, 2018

※3:Michael P. Wilkie, et al., "Lamprey parasitism of sharks and teleosts: high capacity urea excretion in an extant vertebrate relic." Comparative Biochemistry and Physiology Part A: Molecular & Integrative Physiology, Vol.138, Issue4, 485-492, 2004

※4:「『ウミガメ』の赤ちゃんが警鐘を鳴らす『微小プラスチック』の致命的危険性」Yahoo!ニュース:2018/09/18

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

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