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天候不順や原油値上がりで野菜価格上昇 今後の懸念は青果物長距離輸送の安定確保

森田富士夫物流ジャーナリスト
遠隔地の農家から大都市の市場に運ばれる青果物のほとんどはトラック輸送(写真:アフロ)

 今年の夏から秋にかけては大雨や台風などの影響で野菜の値段が上がった。さらに最近の原油価格の急上昇でハウス野菜などの値上がりが懸念される。これら変動的な要因とは別に、今後、構造的な問題として深刻化してくるのが、遠方の産地から大都市に運ぶトラック輸送の安定確保である。

 農産物は大都市近郊でも作られているが、産地の多くは遠隔地にある。一方、大消費地は人口が集中している首都圏や関西圏、中京圏などで、これらの輸送の大半を担っているのがトラックによる長距離輸送だ。青果物は3日目販売が一般的なので、遠方の産地から限られた時間内に運ばなければならない。長距離輸送の運行スケジュールもタイトだが、市場に着いてから荷下ろし作業を開始するまで長時間待機を強いられるケースもあり、ドライバーは長時間労働を余儀なくされている。

 トラック運送業界では「2024年問題」と呼んでいるが、働き方改革関連法で2024年4月から自動車運転業務の時間外労働の上限規制が年960時間になる(一般則ではすでに720時間になっている)。この上限規制をクリアして、青果物輸送体制を安定的に維持できるようにすることが大きな課題になっているのだ。

九州の青果物の約7割は遠隔地への出荷で基本は収穫から3日目販売、その輸送の90%以上をトラックが担っている

 九州で収穫される青果物の輸送先は、約70%が首都圏、関西圏、中京圏といった大消費地である。その90%以上がトラックで運ばれている。

 3日目販売は、農家が収穫した青果物が3日目の朝6時から始まるセリにかけられるということで、それまでに市場に届けなければならない。九州のある運送会社の基本的な運行表は次のようになっている(取材先の意向で具体的な地名や詳細な時分は割愛)。

 1日目はドライバーが出社して出発前点検・点呼をして選果場に向かう。昼前に選果場に着いて荷物を積込み、12時半過ぎに選果場を出発。最寄りのインターチェンジ(IC)から高速道路に入る。その後、山口県内と岡山県付近で30分ずつの休憩をとり、1日目は滋賀県付近まで走って24時過ぎに終業し、連続11時間の休息をとる。出社から終業までの1日目の拘束時間は約12時間50分である。

 2日目は11時過ぎに始業して出発。静岡県内で30分の休憩をとり、17時過ぎに東京ICから一般道を経て首都高を利用し、18時ごろに最初の市場(A市場)に着いて荷物を下ろす。2番目の市場(B市場)には19時30分に着いて荷物を下ろし、3番目の市場(C市場)には21時ごろに着いて荷物を下ろす。なお、各市場では休憩を含んで30分程度の待機時間を見込んでいる。その後、最寄りのサービスエリアまたはパーキングエリアまで走行して23時30分に終業。連続11時間の休息をとる。これで2日目の拘束時間は約12時間20分になる。

 こうして青果物は産地で収穫されてから3日目の朝6時に始まるセリに間に合う。だが、全部の青果物がセリで売買されているわけではない。産地で等級別の出荷数が分かった時点で、大部分は売買契約ができているからだ。セリの前に売買された青果物も、「購入先が3日目の朝には荷物を受け取るという前提で取引されている。そのため2日目の深夜までには3番目の市場に届けることが暗黙の了解になっている」(青果物輸送関係者)。なお、水曜日はセリが休みだが、市場では水曜日も含めて毎日、24時間体制で荷受けをしている。

船舶や鉄道利用、産地の近くや消費地の近くでの中継輸送、パレット利用など様々な実証実験の結果のメリットとデメリット

 トラックドライバーの基本的な1日の最大拘束時間は13時間で、そのうち1時間は休憩を取らなければならない(改善基準告示)。また、連続休息期間は8時間以上となっている(同)。先の運行計画では1日目も2日目も改善基準をかろうじてクリアしているが、これは予定通りに進行した場合だ。

 2日目の深夜までに3カ所の市場に納品するには、「最初のA市場に2日目の18時には到着しなければならず、逆算すると地元を1日目の12時半過ぎに出発することが必要だ。しかし、正午過ぎに出発できる車両はわずかで、かなりムリをしているのが実態」(青果物輸送関係者)。さらに、「市場に着いてから荷下ろしを始めるまで長時間待機を余儀なくされることもある」(同)。そのためドライバーの労働時間短縮が大きな課題になっているのだ。

 九州の青果物輸送事業者の一部のグループでは「2024年問題」を2年後に控えて労働時間短縮に向けた様々な実証実験に取り組んでいる。

 フェリーやRORO(ロールオン・ロールオフ)船を活用した輸送では、フェリーは北九州(新門司港)~阪神(大阪南港)航路で、RORO船は大分港~清水港(静岡県)航路で実験を行った。ドライバーは、フェリーなどの船上で移動している時間は連続休憩時間の扱いになる。そのためフェリーやRORO船を利用すれば労働時間を大幅に短縮できる。

 だがフェリーもRORO船も乗車料金が必要だ。また、陸上で高速道路を利用する時間帯が深夜割引制度の適用外になってしまうため大幅なコスト増になる。さらにフェリーでは積載余力が少ない。また、RORO船はフェリーと違い旅客定員が12人なのでドライバーの乗船枠に限度があり、定員をオーバーすると利用できなくなる。その上RORO船は清水港着が2日目の19時なのでA市場着が21時50分になり、2日目中に3市場に荷物を届けることができない。

 一方、JRコンテナ輸送は一部で利用しているが、収穫後3日目販売では時間的に間に合わない。「3日目販売が基本だがスイカやミカンなど4日目販売でも問題ないものはJR貨物を利用している」(青果物輸送関係者)。そこで一部の青果物で4日目納品の実験もしたが、「4日目納品では青果物の種類によって商品劣化がある。また夏場と冬場の違いもあり、品目別に今後も実験をしていく」(同)。

 その他、地元県内に中継基地を置いた積合せ輸送の実験では、リードタイムの問題があった。逆に消費地の近くに中継基地を置く実験ではコストが問題になった。また、イチゴでパレット輸送の実験もしたが、「従来の積載量を100とすると、パレット積みでは62しか積めず、パレットのレンタル料も必要になる。納品先の市場で荷受けした後の仕分け作業などの問題もある」(青果物輸送関係者)。

待機時間等の実態調査の結果、約3分の1が1時間以上でそのうち3時間以上の待機時間が7.5%という青果市場もある

 青果物輸送事業者のあるグループが、2019年10月~2021年6月の間、首都圏の各市場において待機時間などの実態調査を実施した。首都圏全市場(延べ91市場)で、調査数1万8,972回の集計結果では、待機時間30分未満91.9%、30分~1時間未満4.6%、1時間~2時間未満2.2%、2時間~3時間未満0.8%、3時間~4時間未満0.3%、4時間以上0.2%だった。

 だが、その中のある特定の青果市場(D市場)では待機時間が特に長いという結果がでた。D青果市場(調査回数453回)では、30分未満53.9%、30分~1時間未満13.9%、1時間~2時間未満15.5%、2時間~3時間未満9.3%、3時間~4時間未満4.4%、4時間以上3.1%である。ほぼ3分の1が1時間以上の待機時間で、3時間以上が7.5%もあるという結果だ。

 事業者たちは待機時間の長さの原因分析も踏まえて、D青果市場をはじめ待機時間の長い市場には改善要請の働きかけを続けている。

 トラックドライバーの労働時間短縮は喫緊の課題だ。消費者にとっては天候不順や原油価格上昇による野菜価格の高騰も大きな問題だが、「青果物の長距離輸送ドライバーの労働条件の改善にもご理解、ご協力をいただかないと、新鮮な野菜を運べなくなってしまう」(青果物輸送関係者)と関係者は危機感を募らせている。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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