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「持続可能な物流」は地方経済と市民生活の存続に不可欠 北海道名寄地区に見る物流拠点化構想

森田富士夫物流ジャーナリスト
広大な北海道の人とくらしと物流(写真:イメージマート)

 日本は人口減少が続いている。同時に人口の偏在化が進んで大都市に集中し、地方の人口減少はより著しい。それに伴って地方の中小都市の衰退も目立つ。かつては賑わった商店街も閑散としている。働く場も減少して若者が大都市圏に出ていき、高齢化も進行している。まして、これまでは地域経済と雇用を支えていた大企業の工場などが閉鎖されると、そのダメージはいっそう大きい。

 一方、人口減少が激しい地方では、一番の地場産業が農業や漁業などの一次産業ということが多い。その貴重な地元の生産品を大消費地である都市部にいかに運ぶか、という問題もある。とくに一次産品は季節波動が大きく、また典型的な片荷輸送がほとんどで生産性が低いため撤退する運送事業者もある。そうなると地元経済にとって重要な一次産品の輸送(販売)も難しくなってくる。このようなネガティブスパイラルに陥っている地方は全国各地に存在しているのが現状だ。

 そのような中で、物流の「2024年問題」は地域経済や市民生活と不可分という認識から商工会議所が先頭になり、自治体や国の出先機関、生産者(荷主)、運送事業者などが協働して物流拠点化構想を推進している地域がある。物流拠点を核に持続可能な物流の構築と地域再興を一体ととらえる発想だ。
 このような物流拠点化構想を進めているのは北海道名寄地区である。そこで名寄地区における物流拠点化の取り組みを取材した。名寄地区のケースは多くの地方都市のヒントになるものと思う。

高規格幹線道路の全線開通は悲願だが、何もしないでインフラ整備だけが進むと「ストロー現象」で衰退が進行する可能性もある

 名寄市の「まち・ひと・しごと創生人口ビジョン(2023年4月改訂版)」によると、国立社会保障人口問題研究所の資料に基づいて作成した同市の人口推移は、2020年の総人口3万591人から2040年には1万9902人に、20年間で約35%も減少するという予測だ。

 人口減少は地域経済を縮小し、市民生活にも影響する。さらに、陸上自衛隊名寄駐屯地とともに同市の「2大産業」といわれていた王子マテリア名寄工場の製造設備の停機と苫小牧工場への移設が2019年10月に発表された。名寄商工会議所の藤田健慈会頭によると「工場閉鎖で人口が約1000人減る。しかも給料などが恵まれていた人たちなので、地元経済への影響は大きい」という。

 この工場閉鎖発表の以前から地元の活性化は大きな課題だった。たとえば道の駅「もち米の里なよろ」である。「道の駅なよろ」は旭川市から比布町、士別市、名寄市、美深町、音威子府村、天塩町を経て稚内に至る国道40号線沿いにある。しかし名寄市内でも南に位置する風連町西町なので、市の中心部からは離れている。

 一方、道北から旭川を経て道都の札幌市などにつながる高規格幹線道路の整備は、道北の各市町村と住民にとって長年の念願だ。北海道縦貫自動車道(通称「19線」)の士別市~稚内市間は途中の何カ所かで部分的に開通しているが、まだ全線開通はしていない。

 道北には豊富な観光資源があり、高規格幹線道路の全線開通は観光客の増加をもたらす。また地域住民にとっては生活のためにも必要だ。このようなことから今年10月に稚内市内で士別市~稚内市の早期完成を願う北海道高速道路交通フォーラムが開催された。

 しかし、名寄市にとっては「何かをやらなければ19線の開通で名寄市は通過点に過ぎなくなり、またストロー現象も懸念される」(藤田会頭)。つまり地元活性化に逆行する結果になる可能性もあるという。その一つが「道の駅なよろ」だ。「19線」が全線開通すると40号線を走る車が減り、インターとインターの間に位置する「道の駅なよろ」には市外から来る人が減少して廃れてしまう。

 それ以外にも懸念材料はある。一番の課題は道北経済を支えている水産業や農業、畜産業の将来性だ。たとえばオホーツク海沿岸の猿払村や紋別市などは日本有数の天然ホタテの産地である。このホタテは全く加工しないで殻に入ったまま小樽港や苫小牧港などにトラック輸送され、中国などに輸出されている。

 一つは人手不足で地元では加工できないという事情もあるが、付加価値を付けずに出荷しても儲かるので手間をかけないでも良いという意識もあるようだ。しかし、産地から輸出港までのトラック輸送は典型的な片荷輸送で収益性が低い。さらに「2024年問題」などから地元の中小運送事業者がホタテ輸送を敬遠するようになってきた。そこに後継者問題も加わり撤退する事業者も出ている。

 このように地元運送業界の衰退は、地場産業の物流危機と一体で、地域経済や住民生活の存続にも関わってくる。

地域活性化には周辺地域を含む地場産業の付加価値化や道の駅の活用など総合的な対策が必要、その核になるのが物流拠点化

 このような地域の実情を踏まえ名寄商工会議所では以前から道の駅の活用などによる地域活性化を検討していた。そのような中で2017年に北洋銀行と北海道物流開発(本社・札幌市)の民間2社から、道の駅を活用する共同輸送構築についての提案があった。道の駅に地元で生産された水産物や農産物などを集め、札幌周辺から道北に食品や日用雑貨などを運んできたトラックが帰り荷として積んで帰る。あるいは猿払や紋別からホタテなどを名寄に運び、道の駅などで加工してパッケージ化するなど付加価値を付けて札幌周辺から来たトラックで輸出港や消費地に運ぶ。さらに長距離ドライバーの労働時間短縮のための中継基地として活用するといった提案である。

 そこで名寄商工会議所では2017年10月に北海道経済人フォーラムを開催。道北北部の荷物を名寄市に集約して共同輸送する取り組みなど、一大物流拠点構想の具体的な検討を始めたのである。全線開通する「19線」の活用でもある。

 さらに同年11月には国交省北海道開発局も物流ネットワークの効率化に有効な取り組みを検討する名寄周辺モデル地域圏域検討会を立ち上げた。共同配送、貨客混載、拠点集約化などに取り組むための検討会である。

 なお、話は前後するが北海道開発局では今年3月に閣議決定された「第9期北海道総合開発計画」において「生産空間」政策を打ち出している。同局の資料によると、「生産空間」とは「(農業や漁業など)生産のみならず、観光、脱炭素化に資する森林資源、豊富な再生可能エネルギー導入ポテンシャル、その他多面的・公益的機能を提供し、北海道の価値」を生み出すものとしている。「生産空間」は名寄市などの道北地域、帯広などの道央地域、釧路などの道東地域で構想されている。

 北海道開発局建設部道路計画課の松本一城道路調査官によると、北海道の市町村の多くは食料自給率が100%以上で「生産空間」が多いが、まだ主要都市と高速道路や高規格幹線道路でつながっていない地域がある。そこで、道路網の整備を進めると同時に、道路を使っていかに効率化を図るかという発想に基づく政策の一つのようだ(9月13日の松本調査官の札幌における講演より筆者が解釈・要約)。

 本題に戻ると、2018年7月には名寄周辺モデル地域圏域検討会に物流ワーキングチーム(WT)を設置した。このWTは、同検討会と北海道経済人フォーラムが実質上一体となり「19線」の全線開通とそれに伴う名寄周辺の物流拠点化構想などを具体的に検討するもの。

 そのような取り組みの中で2019年には宅配便事業者間の連携もスタートした。大手宅配便事業者も人口減少により配送密度が薄くなって生産性が低下する。だが、宅配は今や日常生活には欠かせないサービスである。そこで名寄市が中心になって大手宅配便事業者の配送拠点の相互共同利用の実験に取り組んだのである。

 名寄地区ではさらに共同輸送実証実験にも取り組んできた。2020年に商工会議所、名寄市、金融機関、農業協同組合、宅配便事業者、中小運送事業者などで構成する道北圏域ロジスティクス総合研究協議会を設立し、中継輸送の実証実験に取り組んだ。さらに2023年には共同輸送・中継輸送実装実験研究会を設立している。また協議会と北海道開発局が協働してロジスク(ロジステイクス×スクラム)を発足した。ロジスクは物流事業者間のマッチングモデルで、共同輸送や中継輸送したい品目やルートなどを事業者同士が話し合える場の提供である。なお、ロジスクは名寄を中心とする道北だけではなく、道央と道東でも進められている。

工場撤退の跡地を活かして物流拠点化し地元活性化を図るとともに、中小運送事業者の「2024年問題」の解決に取り組む

 名寄を中心とした道北の中継輸送の実験では、2021年に札幌市~枝幸町間の片道約300キロメートルをそれぞれ単独輸送していた冷凍イクラや冷凍ホタテ、宅配荷物を「道の駅なよろ」でトレーラのヘッドを交換するというもの。札幌市~枝幸町間は往復で約13時間30分の拘束時間だったが、ヘッド交換によって札幌市~名寄市が片道約200キロメートルで往復約8時間30分の拘束時間に、枝幸町~名寄市は片道約100キロメートルで往復約7時間30分の拘束時間になる。

 また、2023年には「道の駅なよろ」を中継基地にしてトレーラのヘッド交換方式(枝幸町~石狩市、旭川市~稚内市、稚内市~札幌市)、ドライバー交代方式(稚内市~札幌市)、荷物積み替え方式(枝幸町~札幌市)の実験を行った。さらに同年には札幌市から「道の駅なよろ」に運ばれてきた荷物を道北の複数の事業者が各地域に輸送。反対に道北の複数の事業者が運んできた荷物を札幌から来たトラックが帰り荷として積み合せて輸送する、といった実験もしている。

 ここで道北地域の物流の課題を改めて整理しておこう。まず地域の物流が縮小してきているという問題がある。これは都市部からの時間距離があること、荷物の季節波動が大きく片荷輸送でコストがかかるなどが原因だ。その結果、地元の運送事業者の撤退もある。また、全国ネットの宅配便事業者も人口減少で配送密度が薄くなり作業効率が低下している。

 このようなことから道の駅を活用するなど、名寄周辺地域の物流拠点化が考えられたのである。だが肝心なのはニーズがあるかどうか、ビジネスとして成立するかどうかである。そこで「道北地域の各自治体や企業などへのヒアリング調査も行った」(藤田会頭)。その結果、一次産品だけではなく大手企業の工場から出荷される荷物でも、輸送の仕組みを工夫すれば潜在的なニーズがあることが分かった。

 次に、物流拠点化には運営主体が必要だ。そこで2020年11月に株式会社まちづくり名寄(本社は名寄商工会議所内、藤田健慈社長)を設立した。

 まちづくり名寄は王子マテリアの工場跡地内の大型倉庫を2棟借りて中継輸送などの拠点にすることにした。この倉庫は10月までにエア・ウォーター物流と日本通運サッポロ支店に転貸しした。両社は苫小牧港から道北まで運ぶ家畜飼料の中継基地や、旭川から鉄道貨物輸送する道北の農産物の一時保管などに活用する。

 このように名寄地区では商工会議所が先頭になって物流拠点化構想を進めている。行政機関、地元経済界、荷主、物流事業者が協働して地域活性化と物流の「2024年問題」解決を一体のものとして取り組んでいる事例である。地域社会にとってもネガティブスパイラルからポジティブスパイラルへの転換を図る試みだ。

物流ジャーナリスト

茨城県常総市(旧水海道市)生まれ 物流分野を専門に取材・執筆・講演などを行う。会員制情報誌『M Report』を1997年から毎月発行。物流業界向け各種媒体(新聞・雑誌・Web)に連載し、著書も多数。日本物流学会会員。

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