排外主義、憲法、沖縄の基地問題―開戦から16年、イラク戦争の検証が今こそ必要
本日3月20日で、イラク戦争開戦(2003年3月)から16年目となる。現地では今なお、多くの国内避難民が帰還できず、人々はIS(いわゆる「イスラム国」)の残党によるテロに怯え続けている。また、イラク戦争は、各国での排外主義や、日本での憲法、沖縄での基地問題など、現在の世界や日本の課題や政治的な争点とも深く関係している。
国内の人道支援や人権団体、平和運動の関係者、筆者含むジャーナリストらでつくる「イラク戦争の検証を求めるネットワーク」は、本日、イラク戦争16年にあたっての声明を発表した。以下、その声明を全文掲載する。
******
イラク戦争の検証を求めるネットワーク-2019年3月20日声明
https://www.facebook.com/Iraqwarinquiryjp/posts/2090221991269458
2003年3月20日のイラク戦争の開戦から本日で16年目となります。その惨禍は日本の人々の記憶から薄れつつありますが、イラク戦争は、現在の世界の問題とも直結しています。
国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)によると、2017年末時点で、世界の内戦などで国外に逃れた難民や国内避難民は、約6850万人と過去最多、日本の人口の半分を上回る数となりました。この16年間で、難民・避難民の数が急増したことの背景に、イラク戦争を含む米国による対テロ戦争が大きな要因としてあることは間違いありません。また、難民の急増は、受け入れ先の欧米や、オセアニアなどで少なからず社会の軋轢を生じさせています。今月15日に、ニュージランドで50人が殺害された銃乱射事件にも象徴されるように、世界では今、排外主義やイスラム・フォビア(イスラム教徒への差別・嫌悪)が蔓延しています。
その原点が、実際には存在しなかった「イラクの大量破壊兵器」をでっち上げ、「アルカイダ等のテロ組織に渡り、国際社会への脅威になる」と恐怖や憎しみを煽った米国の振る舞いでしょう。国際社会が反対する中で強行された戦争により、反米感情が高まり、開戦前はイラクで活動していなかつた過激派達が各国から流入。また米軍が充分な容疑もなく、次々に人々を拘束し、虐待を繰り返したことも、その被害者達を過激化させていきました。これらが直接の要因となり、IS(いわゆる「イスラム国」)が組織されました。ヤジディ教徒等のマイノリティーを虐殺し、女性達を性奴隷にしたISの残虐非道な行為は強く批難され、責任追及されるべきです。同時に、そもそもISを生み出したのはイラク戦争であることを私達は忘れるべきではありません。大規模な掃討作戦により、ISはイラクやシリアでの拠点の多くを失いましたが、その残党の脅威にイラクの人々は今も怯え続け、ISに洗脳された子ども達を地域社会がどう受け入れるかも大きな課題となっています。
この16年間でイラクでは多くの一般市民が犠牲になりました。イラクボディカウントによると、183,249-205,785人が亡くなったとしています。イラク戦争を支持した日本にも大きな責任があるといわざるを得ないでしょう。実際、イラクに派遣された航空自衛隊の空輸していた人員や物資が、実は、米軍関係のものが大部分であったことが、民主党政権時の情報開示により、明らかになっています。また、陸上自衛隊も米軍を中心とした多国籍軍のために、現地で反占領勢力に対する監視などの諜報活動を行っていた疑いがあることが、昨年4月に開示された自衛隊イラク日報により明らかになり、戦闘行為に加担したといわざるを得ないでしょう。
在沖米軍を日本の防衛のため欠かせない「抑止力」とする安倍政権は、沖縄の県民の民意を無視して、辺野古米軍新基地の建設を強行していますが、在沖米軍基地の大多数は、海兵隊の拠点です。2003年以降、在沖米軍基地からイラク、アフガニスタンへ出撃した海兵隊員は1万1500人であると、その任務は日本の防衛よりも、米国の戦争の「殴り込み部隊」という性質が色濃くあります。とりわけ、在沖米軍基地「キャンプハンセン」から出撃した第31海兵遠征部隊は、イラク西部ファルージャへの無差別攻撃で最前線で戦闘を行った等、米軍に基地を提供することで、国際人道法違反の戦争犯罪に、日本も加担してきたのです。
イラク戦争とそれがもたらした災厄に、日本も無関係ではないにもかかわらず、イラク戦争の支持・支援したことについて、検証しようという動きは、とりわけ第二次安倍政権以降、日本の政治においてほとんどありません。外務省の「大量破壊兵器情報についての検証」では、外務省内部の当事者のみで行われ、結果は、2012年末にわずかA4用紙4ページ分が公開されたのみで、検証結果そのものの開示を、政府は拒み続けています。他方、イラク戦争に有志連合軍として自国の兵士を派遣したイギリス、オランダ両国は独立した専門家による検証を行い、膨大なページ数の報告書を公表しています。米国自体も検証を複数回行っており、今年1月に公表された米軍のイラク戦争の検証では、約3万ページの機密文書を開示して調査、4年がかりで関係者への聞き取りを行い、上下巻1300ページの報告書がまとめられました。
安倍晋三首相が、改憲を目指す中で、今年夏に行われる参院選では、憲法が大きな争点となります。だからこそ、イラク戦争への支持・支援や自衛隊派遣について、徹底的な検証が今こそ必要でしょう。今後の日本の外交・安全保障において、イラク戦争を検証し、その教訓から学ぶことは、絶対必要不可欠なのです。
私達、イラク戦争の検証を求めるネットワークは以下のことを求めます。
・外務省の「大量破壊兵器情報についての検証」の公開。
・政府与党及び野党は、イラク戦争の支持・支援への経緯やその是非、自衛隊派遣、人道復興支援のあり方の検証を超党派で行うこと。
・来る参院選にむけ、各政党はイラク戦争の検証を公約とすること。
・日本政府は、在沖縄米軍基地が、イラクの民間人を攻撃したイラク戦争で利用されたことを深刻に受け止め、沖縄県民の民意を無視した辺野古米軍新基地の建設強行をただちに停止し、政府与党及び野党は、在日米軍基地が米国の戦争に利用されることの加害性やリスク等、在日米軍の「抑止力」について検証を行うこと。
以上。
2019年3月20日
イラク戦争の検証を求めるネットワーク