二日市温泉「大丸別荘」の危険な大浴場――。宿関係者から漏れる怒りと悲痛「なんてことをしてくれたんだ」
二日市温泉「大丸別荘」の大浴場のお湯を年に2回しか入れ替えず、消毒用の塩素注入も怠り、利用者が健康状態を害したため、保健所が検査に入るとレジオネラ属菌が基準値の最大3700倍も検出された問題。
宿のHPで謝罪し、湯の管理を明記したことで、徐々に収束の方向に進むかと思いきや、謝罪会見における山田真社長の認識があまりに甘く、さらに物議を醸している。一連の責任を取り、山田社長は3月2日付で退任。福岡県は同旅館を刑事告発する方針を固めた。「全国旅行支援」参加資格も取り消され、この問題はまだ尾を引きそうだ。
「とんでもないことをしてくれた……」
温泉地、旅館ホテルがざわついた1週間
この1週間はざわついた。知り合いの宿オーナーと話していても「ありえない」「ちゃんとして欲しい」と怒りの声にあふれていた。自治体の厚生部から運用点検の注意喚起をするようにと通知が来たという話も聞く。
群馬県法師温泉の岡村興太郎会長(群馬県温泉協会会長・日本温泉協会副会長)は、あくまで個人的な意見として次のように話してくれた。
「レジオネラ属菌は常菌であるけれど……、掃除しないということは、ご飯を食べる食器を洗わないことと同じです。なんてことをしてくれたんだという気持ちもありますが、それ以上に切ない。本当に切ない」と、「切ない」という言葉を繰り返した。
その真意は、人が最もリラックスしていられる温泉、浴場に「危険」を招いてしまった無念だろう。
私自身も、第一報を知ってから「残念」という言葉しか出てこなかった。
広大な敷地に日本庭園が広がり、館内は意匠をこらした設えで高級感が漂う。廊下には昭和24年、昭和天皇が御泊まりの際にご使用の品々が展示されており、「大丸別荘」はいわゆる誰もが憧れる純和風の旅館である。大浴場は岩風呂で、湯船の底には石が沈んでいて、足裏で転がすと気持ちが良かった。アルカリ性単純温泉の透明感あるつややかなお湯……と思うと、やはり「残念」という言葉以外ない。
岡村会長によれば、日本温泉協会にもマスメディアを含め、多くの問い合わせが来ているが、
「『大丸別荘』さんはうちの会員でないので」とコメントは差し控えたという。
「会員には掃除を徹底するようにと、会員冊子に特集を組むところです」と再発防止を訴える。
群馬県法師温泉の目玉である、明治28年に作られた文化財の大浴場「法師乃湯」では週に2回、広い湯船のお湯を落とし、掃除をしている。湯船の底に敷かれた玉石も、ひとつひとつ綺麗に磨く。「石と石の間に温泉の成分が溜まってしまうので綺麗にしています」と岡村会長は話す。
私は、毎日宿泊客が寝静まってから、社長自ら深夜にお湯を抜き、ブラシで浴場や湯船をぴかぴかに磨き、それから朝までかかり新鮮なお湯をためる温泉旅館をいくつも知っている。温泉旅館やホテルにとって、温泉は要である。大多数は労を厭わずきちんと管理している施設であることを、私からきちんと皆さんにお伝えしておきたい。「大丸別荘」は、ごくごく特殊な事例である。
2004年の白骨温泉の着色問題から改善されたこと
2004年に長野県白骨温泉で発覚した、入浴剤によって湯を着色した問題も大きな批判を呼んだ。ただそれ以降、温泉地や旅館は自社サイトで分析表を公開し、虚偽でないことを伝える努力をするようになった。それまでは温泉の効果効能を語る仲居さんはいなかったが、いまでは「うちは00泉で、お肌に優しいんです」などと、当たり前のようにお湯の解説をしてくれる。
今回も、湯船に注ぐお湯の管理や、浴場や湯船の清掃状況などを利用者にどのように伝えるか、改善の一石を投じるのではないか。
利用者として見るべきポイント
ひとまず利用者としては、脱衣所に掲示されている循環設備の有無やレジオネラ属菌の検査実施日を確認することで安心感を得られる。