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『ドラゴンボール』の仙豆は、1粒食べたら10日は何も食べなくても平気。どんな豆なのか?

柳田理科雄空想科学研究所主任研究員
イラスト/近藤ゆたか

こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。

『ドラゴンボール』に登場する「仙豆」は、カリン様が栽培していた不思議な豆だ。

直径1cmほどなのに、1粒食べれば10日間は何も食べなくても平気! 体の疲れもケガもすっかり回復する!

たいへん貴重なものらしく、その効能を知らずにむさぼり食べたヤジロベーを除いては、悟空もクリリンもベジータも、全ストーリーを通して数粒ずつしか食べていない。

これ、いったいいかなる豆なのか? ものすごいエネルギーが詰まっているのだろうか。

ここでは、仙豆の効能のうち「10日は何も食べなくても平気」に注目して、使用上の注意点を考えてみよう。

◆一粒で3万3600kcal

仙豆を食べたらどうなるのか?

すごく栄養があるが、豆1粒だから、満腹にはならないのでは……。そんな気もするが、「満腹感」は胃が膨らんだだけで感じるものではない。血液中に栄養分が吸収されると、脳が反応して「もう食べなくていい」という指令を出すのだ。

ただ、それは食べ始めてから20分後。だから「早食いはよくない、食べすぎてしまう」というんですね。

ヤジロベーは、その効能を知らず、仙豆でいっぱいの壺に右手を突っ込んで、つかめるだけつかむと、一挙に口に押し込んでいた。満腹中枢が指令を出すヒマもなく食べちゃったということだろうが、そんなことをして大丈夫なのだろうか……?

ヤジロベーのその後が気になるが、まずは仙豆の実態を考えてみよう。

仙豆を1粒食べれば、10日は何も食べなくて平気。この効果が期待できるからには、仙豆1粒には「人間が10日間に必要とするエネルギーが含まれている」ということだろう。

人間がエネルギー源にできるのは、炭水化物、脂肪、タンパク質の3つだけ。これ以外のもの、たとえば石油や太陽光線などは、どんなに多くのエネルギーを含んでいたとしても、人間の体は利用できない。栄養ドリンクなども、栄養そのものが入っているのではなく、それらの消化や消費を進める働きをするだけだ。

ここから考えると、直径1cmほどの仙豆には、人間が10日間に必要とする炭水化物や脂肪などがギューッと凝縮されているのではないだろうか。

だとしたら、大変な重さになる。たとえば、1gの炭水化物に含まれるエネルギーは4kcal。どんなに凝縮しても、この重さとエネルギーのバランスは変わらないはずだ。

体重70kgでよく運動している男性は、1日に3360kcalを必要とする。その10日分とは3万3600kcal。仙豆1粒にそれだけのエネルギーが含まれていて、3つの栄養素のバランスが大豆と同じだとしたら、水分をまったく含んでいない場合でも、1粒の重さは5.9kg。なんと13ポンドのボウリングのボールと同じ重さだ!

そう考えると、ちょっと心配にもなってくる。

疲れ果てて体も痛み、体力を回復しようと仙豆を食べたら、13ポンドが胃にズシン! モーレツに胃もたれしそうだ。

◆食事は一切禁止です

モーレツに頑健な胃腸を持っている人も、仙豆を食べた後は気をつけたほうがよろしい。

なにしろ10日分の栄養は、その1粒の豆で足りているのだ。仙豆に含まれる3万3600kcalが完全に消化吸収されたら、寝ているあいだに3.7kgの脂肪となる。

つまり、「何も食べなくても平気」というより「食べたらすごく太る」。仙豆を食べると、まず3.7kg太ることを覚悟しなければならない。

その後10日間は何も食べなくていいわけだから、そのとおりにしていれば1日に370gずつ痩せていって、10日で元の体重に戻る。

仙豆は、食べると一晩でズドンと太って、その後少しずつ痩せていく……という不思議な食べ物なのだ。食べた翌日に友人に会おうものなら「仙豆食べたでしょ!」とすぐバレると思います。

たった1粒でもこの騒ぎ。大量に食べたヤジロベーは、どうなってしまうのだろうか。

ヤジロベーが口に押し込んだ仙豆を50個と考えよう。すると、13ポンド50個が胃にズドドドン! すべて消化吸収されたら185kg太る!

ヤジロベーは身長165cm、体重78kgだというから、体重はなんと263kgに……。

仙豆はその後、戦いで傷ついた悟空やクリリンやピッコロやベジータなどが、体力を回復し、ケガを治癒するために使われるようになる。

オドロキの効果だが、だからといって「1粒食べると、10日は何も食べなくても大丈夫」という性質がなくなったわけではないだろう。

彼らもみんな、食べた直後にはちょっと太って、その後10日かけて元の体形に戻っていく……という体験をしながら、体を癒したり戦ったりしていたのだろうか?

謎の尽きない不思議な仙豆である。

空想科学研究所主任研究員

鹿児島県種子島生まれ。東京大学中退。アニメやマンガや昔話などの世界を科学的に検証する「空想科学研究所」の主任研究員。これまでの検証事例は1000を超える。主な著作に『空想科学読本』『ジュニア空想科学読本』『ポケモン空想科学読本』などのシリーズがある。2007年に始めた、全国の学校図書館向け「空想科学 図書館通信」の週1無料配信は、現在も継続中。YouTube「KUSOLAB」でも積極的に情報発信し、また明治大学理工学部の兼任講師も務める。2023年9月から、教育プラットフォーム「スコラボ」において、アニメやゲームを題材に理科の知識と思考を学ぶオンライン授業「空想科学教室」を開催。

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