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「ガザが危ない!」④

土井敏邦ジャーナリスト

週末は厳しい外出禁止令が敷かれるガザ(撮影・ガザ住民)

【ガザが危ない!④】

ガザ在住のジャーナリストからの緊急報告です。

〈20年12月29日〉

【路上でタバコを売る男性】

(Q・名前と年齢を教えてください)

 フセイン・サラダンで、50歳です。

(Q・ここで何をしているんですか?)

 道を通る人にタバコを売っています。

(Q・仕事はどうですか?)

 状況はひどいです。とくにコロナウィルスの問題が出てきてからは。人びとはタバコより食べ物と薬を求めています。毎日の稼ぎは7~10シェケル(210~300円)ほどにしかなりません。

(フセイン・サラダン/50歳/撮影・ガザ住民)

(Q・毎日何時間ぐらい働いていますか?)

 毎日6~8時間です。

(Q・数分前に近くで飲み物なナッツを売っている息子さんに話を聞きました。彼は家族の経済的にひどい状況について語ってくれました。もう少し詳しく家庭状況を教えてくれませんか?)

 私と息子のアブドゥルラフマンが家族の稼ぎ手です。3ヵ月に一度、時には4ヵ月に一度、ラマラの自治政府の社会福祉省から1600シェケル(48,000円)を得ています。しかしこの金では日常の基本的な生活費にもなりません。薬のために大金を支払っています。私や妻が慢性の病気を抱えているからです。

(Q・この悲劇的な状況は誰の責任だと思いますか?)

 あらゆるパレスチナの政治家たち、政治勢力です。イスラエルもまた、この恥ずべき“封鎖”に責任があります。自治政府がガザを統治していた時代は、今より状況はよかったです。仕事の機会もあり、収入もよかったからです。自治政府時代もイスラエルの占領時代も、私は大工の仕事をしていました。ずっと働いていて、自由時間もありませんでした。給与はとてもよかったです。

(Q・息子さんは、自分の店を持つことが夢だと言っていましたが、どう思いますか?)

 息子や彼の世代の不運がとても悲しいです。彼らにはまったく権利がないのですから。人権はいったいどこにあるんですか?

 息子が夢を実現できるように励ますつもりです。彼が自分の店を持てればと願っています。その店が家族全員の店になるでしょう。全員で息子を支援し、その店の仕事を手伝うことになるでしょうから。

(Q・名前と年齢を教えてください)

 アブドゥルラフマン・サラダンで、25歳です。

(Q・ここで何をしているんですか?)

 お茶やコーヒー、それにナッツを売っています。

(Q・仕事の具合はどうですか?毎日どのくら

い稼げますか?)

 仕事はひどい状態です。コロナウィルスが状況をさらに悪化しています。人はほとんど家に閉じこもっているからです。通りを歩く人はほとんどいません。一日で稼げるのは10~15シェケル(約300~450円)です。想像してみてください。朝の8時から15時まで働いてほんの10~15シェケルですよ!

金曜日と土曜日は働けません。政府が外出禁止令を敷くからです。

ア(ブドゥルラフマン・サラダンで/25歳/撮影・ガザ住民)
ア(ブドゥルラフマン・サラダンで/25歳/撮影・ガザ住民)

(Q・家族について教えてください)

 兄弟が2人、姉妹も2人います。それに両親です。ほとんど収入がないため、家庭はとても貧しいです。50メートル先で、父はタバコを売っています。

(Q・支援してくれる組織はないんですか?)

 不幸にもハマス政府は私たちを支援してくれません。UNRWAも助けてくれません。なぜならUNRWAによれば私たちは「難民」ではないからです。唯一、自治政府(ヨルダン川西岸)の社会福祉省だけが3ヵ月に一度、支援してくれます。

(Q・学校へは行きましたか?)

 はい、行きました。しかし10年生(中学3年生)のとき中退しました。家庭が貧しくて学校を続けられず、大学に行く希望もなかったからです。

(Q・誰に責任があると思いますか?)

あらゆるパレスチナの政党に罪があると思います。しかし最大の責任はハマスです。

(Q・将来はどうするつもりですか?)

 私の夢は小さな店を持つことです。いつの日か持てると思います。暑い日差しや雨から自分を守るための屋根の下で暮らす必要があります。どれほど私が苦しんできたか想像できますか?住居の頭の上には屋根はなく、周りは壁で囲まれていましたから。

(Q・いま25歳で、結婚のことは考えていませんか?)

 結婚を考える精神的な余裕はありません。経済状態はゼロですから。結婚の準備ができるまで何年も待たなければならないと思います。私たちの兄は28歳ですが、まだ独身です。私たちの伝統では兄より先に結婚はできません。

〈21年1月11日〉

(Q・名前と年齢は?)

 ナビール・アブジャザールで、40歳です。

(Q・家族について教えてください)

 妻と4人の息子、4人の娘がいます。家族全員は10人です。

(Q・家族の健康状態はどうですか?)

 家族は慢性の病気を抱えています。私は精神的な病気と軟骨の病気を抱えています。娘の一人は肺結核を患い、もう一人の娘は目と視力に問題を抱えています。息子の一人は腎臓病を抱えています。

(ナビール・アブジャザール/40歳と子どもたち/撮影・ガザ住民)
(ナビール・アブジャザール/40歳と子どもたち/撮影・ガザ住民)

(Q・収入は?家族はどうやって生活していますか?)

 不幸にも収入源はありません。またガザ政府の省庁も社会福祉も他の貧困家庭のような支援はしてくれません。私はずっと嘆願書を書き続けています。しかし全く返事はありません。ガザには働く機会もありません。たとえ仕事があっても、私の健康状態のために働けません。私たちの状況は最悪です。わずかな食料で家族は生き延びています。全員がひどい栄養状態です。子どもたちに食べ物を残すために自分が食べるを控える時もあります。3ヵ月に一度、UNRWA(国連パレスチナ救済事業機関)から小麦粉、砂糖、食料油、豆、コメ、粉ミルクなどを支援を受取ります。それは少しは助けになります。また調理された食料や衣料品を支援してくれる親切な人たちもいます。

(Q・新型コロナウィルスは家族にどういう影響を及ぼしていますか?)

 私の家族はだれも感染していません。扉を閉じ、家族を他の世界から孤立させています。慢性の病気をもつ家族が感染することを恐れています。とりわけ胸の病気を抱えている娘ことが心配です。子どもたちを治療のために病院へ連れていくことをとても恐れています。病院はいつも大混乱で、コロナウィルスの陽性患者でいっぱいだからです。

(Q・以前は仕事をやっていたんですか?)

 大学を卒業して以来、自分の専門を生かせる仕事をみつけることができませんでした。だから農業労働者となり、スーパーマーケットでも働きました。しかし今は失業中です。

(Q・大学で何を勉強したんですか?)

 コンピューターです。

(Q・子どもたちは学校へ通っているんですか?)

 全員、学校で学んでいます。とても優秀な成績です。

(Q・この古くて狭い住居で、どうやって生活しているんですか?)

 ごらんのように大家族なのに、2部屋だけです。見てください、このボロボロの台所とトイレを。

(Q・このひどい状況は誰の責任だと思いますか?)

 全てに責任があります。イスラエル政府とガザのハマス政府と自治政府(ヨルダン川西岸)のすべてです。

(Q・あなたの家族の将来をどう考えていますか?)

 私の夢は家族のために大きな家を持つことです。そして子どもたちに大学で勉強させることです。

〈20年12月31日〉

 この72時間の間に、2人の若者が焼身自殺をしました。また殺人が2件起きています。

ジャーナリスト

1953年、佐賀県生まれ。1985年より30数年、断続的にパレスチナ・イスラエルの現地取材。2009年4月、ドキュメンタリー映像シリーズ『届かぬ声―パレスチナ・占領と生きる人びと』全4部作を完成、その4部の『沈黙を破る』は、2009年11月、第9回石橋湛山記念・早稲田ジャーナリズム大賞。2016年に『ガザに生きる』(全5部作)で大同生命地域研究特別賞を受賞。主な書著に『アメリカのユダヤ人』(岩波新書)、『「和平合意」とパレスチナ』(朝日選書)、『パレスチナの声、イスラエルの声』『沈黙を破る』(以上、岩波書店)など多数。

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