Yahoo!ニュース

大倉颯太:千葉ジェッツ入りはスキルの向上とゲームの理解度を上げる絶好の機会

青木崇Basketball Writer
千葉ジェッツでさらなるレベルアップを目指す大倉 (C)Takashi Aoki

A student of the game.

 これはアメリカのプロアスリートやコーチからよく耳にする言葉で、『ゲームの研究家』と訳すことができる。千葉ジェッツに特別指定選手として入団した東海大2年生の大倉颯太は、バスケットボールというゲームをすごく研究している選手と言っていい。そう思えるようになったきっかけは、北陸学院高の2年生だった2016年のウインターカップだ。

 準々決勝で土浦日本大高と対戦した時、北陸学院は4Q途中でリードを2ケタに広げると、大倉が点差と時間をしっかり把握しながら、ゲームをコントロール。センターの選手を自身の少し前で動かすことによってボールをコントロールしやすくし、土浦日本大高がディフェンスでプレッシャーをかけにくい状況を作り出す。フロントコートに入った後は、ショットクロックが10秒を切ってからトップの位置でピック&ロールを行い、時間をかけていいシュートを打てる形を何度も作ったことで、追撃の機会を与えなかった。高校生でここまでしっかりクロック・マネージメントをできるということで、衝撃を受けたのをよく覚えている。

 半年後、中国で行われるNIKE ALL ASIA CAMPで大倉と再会した時、ゲームの研究に熱心という一面を体感した。キャンプを終えると参加した各選手へのインタビューをするのだが、時間の都合で大倉の取材を移動のバスの中で行うことを強いられる。普通の子なら終わった後に他の選手たちと一緒に話せる場所に戻るものだが、大倉だけは違った。「ゲームメイクはそれなりにできましたし、ドライブアタックやシュートも全然通用したと思いました。劣っていると思ったのはスピードだと思います」といったコメントを残した後は、NBAやNCAAなど筆者が取材してきて知ったことやバスケットボールの見方について、いろいろ質問してきたのである。その後も何度かオンラインでやり取りしてきたが、その中の一つは、『筆者が試合中にどんなメモを取っているのか?』というものだった。

 NBAを筆頭にいろいろなゲームの映像を見る習慣がある大倉は、そこで気付いたことや学んだことを練習の中で繰り返し、試合で使えるようにする術を高校生の時から身につけていた。そういったことをチームメイトと共有できるようにしっかり教えられるところも、他の高校生とは違う。3年生時のウインターカップを前に練習を見学させてもらったが、大倉は中学からのチームメイトである清水宏記(現中央大学)とともに、北陸学院を率いる濱屋史篤コーチの言葉を代弁するかのように、下級生に戦略を教えていたことがすごく印象的だった。

北陸学院の時から後輩にプレーに関する説明するなど、ゲームの理解度が高かった大倉 (C)Takashi Aoki
北陸学院の時から後輩にプレーに関する説明するなど、ゲームの理解度が高かった大倉 (C)Takashi Aoki

東海大でやってきたことが正しいと認識できたデビュー戦

 東海大に進学した大倉は1年生から主力として活躍し、昨年のインカレ制覇に大きく貢献。しかし、今年は故障もあって不本意なシーズンを過ごすこととなり、リーグ戦が6位、インカレも準々決勝敗退に終わってしまう。それでも、プレーの質が着実に上がっていることは、インカレの映像を見ればすぐに理解できた。千葉ジェッツの練習に参加するという発表がされた後、西村文男の故障離脱によって特別指定選手として入団という事態に発展しても大きな驚きはない。

 12月21、22日に行われた横浜ビー・コルセアーズ戦でBリーグデビューを果たした大倉は、緊張するどころか、確固たる自信を持ってプレーしていた。デビュー戦の2Qで決めた3Pシュートは、ピック&ロールからディフェンス対応の甘さをしっかり突いたもの。2戦目の4Qに速攻から原修太のレイアップをアシストしたプレーは、ポイントガードとして必要な視野の広さを持っている証。「僕自身この1週間で出る準備をしていたかと言えば、まったくしていなかったです。でも、その中でチャンスがあり、特別指定になってベンチに入らせてもらって、少ない時間でしたけどチームに出してもらって、非常にいいスタートが切れたんじゃないかなと僕自身は思っています」と2戦目後に語った大倉の非凡な身体能力とIQの高さは、B1で通用するレベルにあると言っていいだろう。

 東海大のシーズンが不完全燃焼だっただけに、千葉ジェッツでB1を体感できることに大倉のモチベーションは上がっている。大学で体感できないことを把握していることは、「千葉は東海ほど細かくやっていないですけど、必要な場面でみんながパッとできる、だれが何をしようとしているのかがわかるのは、練習でも試合でもすごいなと思いましたし、ビッグマンからでもガードからでもフォワードからでもいろいろなストロングポイントがあって、みんなが理解しているんだなと思いました」というコメントでも明らか。また、より高いレベルでプレーできる利点として、「東海は日本人しかいなくてアシストが難しかったり、相手が留学生でロブパスができなかったりしますけど、(ここでは)ペイントタッチでアタックしていいパスを出せばダンクするし、アシストになるなと感じました。今までが無駄だったわけじゃないですけど、一つ一つしっかりやって自分のやるべきことをすれば得点にもつながるし、僕自身のアシストになるなと思いました」と語る。

1週間で改めてわかった弱点のレベルアップにフォーカス

「元々IQの高い選手ですし、バスケットボールをよく知っていますし、学ぼうとする意識が高い選手」と話す千葉ジェッツの大野篤史コーチは、大倉にとって布水中(石川県)の大先輩。そんな指揮官の下でプレーし始め、わずか1週間弱の練習と試合の中で新たな気付きがいくつかあり、自身に足らない部分を把握できたことは大倉にとって大きな収穫になっている。プレーの精度という点では、「スポット一つのズレとかも許されないし、それが全部に影響するのでごまかしが利かない場所」と表現しながらも、東海大学でやっていることが正しいものであり、プロでやるための準備になっていると認識。約3か月という限られた期間になるが、大倉は千葉で過ごす時間を無駄にするつもりはまったくない。

「(試合に)出てチームに貢献するに越したことはないですけど、自分自身トレーニングを見てもらったり、スキルを見てもらったり、細かく自分を見たときに課題がありすぎたので、来てよかったとまず感じます。試合どうこうって自分で思うよりも、スタッフの方が出てやってこいと言われれば、全力でやれる準備はしていますが、それ以前に1日1日を、試合に照準を絞るのではなく、積み重ねて、この特別指定が終わった時にどれだけ成長できるかというところに今はすごくフォーカスしているので、1日1日を無駄にしないようにと思っています」

Basketball Writer

群馬県前橋市出身。月刊バスケットボール、HOOPの編集者を務めた後、98年10月からライターとしてアメリカ・ミシガン州を拠点に12年間、NBA、WNBA、NCAA、FIBAワールドカップといった国際大会など様々なバスケットボール・イベントを取材。2011年から地元に戻り、高校生やトップリーグといった国内、NIKE ALL ASIA CAMPといったアジアでの取材機会を増やすなど、幅広く活動している。

青木崇の最近の記事