パリを舞台にしたフランス映画への抵抗。社会の片隅で生きる庶民に光を当てることを目指して
白石和彌、中野量太、片山慎三ら現在の日本映画界の第一線で活躍する監督たちを輩出している<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭>が7月15日(土)から開催中だ。
本映画祭は今年節目の20回目。メインのプログラムとなる国際コンペティション、国内コンペティションのほか、本映画祭をきっかけに大きな飛躍を遂げた監督たちをゲストに招く「SKIPシティ同窓会」といった特別上映も行われ、例年にも増した充実のラインナップが組まれている。
その開催に先駆け、昨年の国際コンペティションで見事受賞を果たしたフィルムメイカーたちに受賞直後行ったインタビューを届ける。
二人目は、最優秀作品賞(グランプリ)を受賞したフランス映画「揺れるとき(英題:Softie)」のサミュエル・セイス監督。
東フランスの貧しいエリアで暮らす10歳の少年の成長と性の目覚めを描いた本作について同行したプロデューサーのキャロリーヌ・ボンメルシャン氏を交えながらと話を訊く。全五回。
いまのフランス映画にない、みられない設定や題材を選択
前回(第四回はこちら)は、少年の性というセンシティブな内容を含んだ脚本についての話で終わった。
その上で、本作で描きたかったことをサミュエル・セイス監督はこう明かす。
サミュエル「自分が脚本を書くときにいつも意識してるのは、ほかでは見たことのないものを描きたいということ。
それは裏を返すと、自分も驚きたい、見てみたいと思える物語ということでもある。
そして、こういうとうぬぼれに聞こえてしまうのかもしれないんですけど、その自分がほかに見たことがない、見てみたい物語というのは、きっとほかの人たちも見たいに違いない、見たくなるはずという自信がどこかにあるんです。
そういう物語を描きたいと思っていて。それが僕の創作の原動力になっている。
なので、まず第一に見たことのないことをないものを描きたいと思っている。
その中で、なぜ今回はこのような恵まれた環境にはいない少年の物語にしたかというと、もちろん自身のことが含まれてはいるのだけれど、それともうひとつ、最近のフランス映画ではほとんど見かけないことがあったからです。
いまのフランス映画の主流は、アッパーミドルクラス以上の家庭というか。
さほど生活に困っていない人々の話ということが多い。
かつては労働者階級の話であったり、庶民の話であったりと、市井の人々の声に耳を傾ける映画がもっといっぱいあった。
でも、僕の感覚からすると、そういう映画がどんどん少なくなってきている。
そこで、自身の体験をベースにした今回の少年の成長物語を作り上げました。
それから舞台をローカルな町にしたのも、フランス映画のほとんどの舞台がパリであることに対抗してのこと。
パリに住んでいる人だけがフランス人ではない。だから、地方の町の設定にしました。
そういったいまのフランス映画にない、みられない設定や題材を選択しました。
その上で内容は普遍性を考えました。誰もが共有できるものにしたかった。実際そうなったのではないかと考えています。
主人公のジョニーが先の見えない状況への不安、家族への想い、性への興味はおそらく誰もが成長する過程で経験するものではないでしょうか?
そこにみなさんが自身を重ね合わせて何かを感じてもらえるのではないかと思っています。
ただ、その感じる何かの中には、おそらくいい記憶ばかりではないと思います。もしかしたらあまり思い出したくないことが甦るかもしれない。
なぜかというと、そういうある意味、自身にとってネガティブなことも思い出すような形にあえてしたところがあります。
じゃあ、なぜそのような形にしたかというと、そういうネガティブなことをきちんと受け止めることも大切と考えたからです。
人間は不思議なもので昔の話というものをいつの間にか美化していたり、清いものにしていたりするものです。
それから少年というだけで『純粋』であったり、『イノセント』であったりと、いったような純真無垢な存在と見てしまうところがある。
でも、実際はどうかというと少年であっても、ダークで複雑な感情を抱いている。
何をもって純真な心というかはなかなか難しいですけど、少年時代に決してピュアとはいえない感情がみなさんも渦巻いていたと思うんです。
少なくとも僕は、邪悪とまではいわないですけど、ドロドロした感情は確実にあった。
性に対する興味であったり、クラスメイトへのちょっとした嫉妬心であったり、表向きは出していないけど、そういった人には言えない感情を抱いていた。
それをあえて、映画では包み隠さずに描こうと心掛けました。
なぜかそうしたかというと、誰しもが聖人君子ではない。そういう感情を抱くことは恥ずべきことではない、失敗することは誰にでもあることをジョニーと同じ世代の子たちに伝えたかったです。
また、大人たちには自分もそうだったと思ってもらって、いまを生きる子どもたちを温かい目でみてもらえたらと思いました。
ここまで話してきたわたしの思いが伝わってくれたらうれしいですね」
キャロリーヌ「ここまでサミュエルのお話しした通りで、ジョニーには誰もがなにか自身を重ね合わせるところがあると思います。
その普遍性こそがこの映画を作る上で大切にしたことです。
今回の<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2022>での受賞は、日本の観客のみなさんに届いたことの現れだとわたしは思っています。
つまり今回の受賞というのは、この作品に普遍性があることを証明してくれた。
ですから、わたしはこの受賞に心から感謝し、心よりうれしく思っています」
(※本編インタビューは終了。次回、収められなかったエピソードをまとめた番外編を続けます)
【「揺れるとき(英題:Softie)」第一回インタビューはこちら】
【「揺れるとき(英題:Softie)」第二回インタビューはこちら】
【「揺れるとき(英題:Softie)」第三回インタビューはこちら】
【「揺れるとき(英題:Softie)」第四回インタビューはこちら】
<SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2023(第20回)>
会期:《スクリーン上映》 7月23日(日)まで
《オンライン配信》2023年7月22日(土)10:00 ~ 7月26日(水)23:00
会場:SKIP シティ彩の国ビジュアルプラザ 映像ホール、多目的ホールほか
詳細は公式サイト:www.skipcity-dcf.jp
ポスタービジュアルおよび授賞式写真はすべて提供:SKIPシティ国際Dシネマ映画祭