「引っ越しシーズン」に伝えたい、「未払い残業代」を取り戻す方法
3月、4月は、1年のうちで一番引っ越し件数が多い時期だ。1年の約3割の引っ越しがこの時期に集中しているが、それを支える引っ越し業界は、低賃金と長時間労働により「トラック運転手や作業スタッフの人手不足が慢性化」している(下記参照)。
参考:「どうなる? どうする? 2022年春の引っ越し――混雑予想や注意点を解説」
引っ越し業界では、これまで長時間労働、残業代未払い、労働者に業務上で起きた物損を弁償させる違法な天引きなどの問題が相次いでニュースになってきた。引っ越しシーズンには、未払い残業など労働問題が頻発する。加えて、新型コロナ禍による人手不足も重なることで、近年の労働問題は深刻さを増している。
そこで本記事では、引っ越し業界で働くみなさんへ向けて、未払い残業代の取り返し方を紹介したい。残業代の請求は、単にお金の問題だけでなく、長時間労働を抑制するという社会的な機能も持っている。
未払い賃金を取り返す手順
未払い残業代を支払わせる方法は証拠さえあればそれほど難しくない。ただし証拠集めや請求方法には知識が必要だ。支払い請求の時効は2020年4月以降に支払日があったものは3年、それより前のものは2年となっており、退職してからでも請求は可能だ。
未払い残業代を請求する手順はおよそ次の通りだ。
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2 計算した賃金額を実際に支払われた賃金と比較し、未払い賃金額を確定する
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3 未払い賃金の請求書を作り、会社に送る
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4 請求書の期限までに会社から支払いがなければ、労働基準監督署に違反の申告をしたり、一人でも入れるユニオン(労働組合)に入って支払いを求める
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5 ほとんどがここまでで支払いがあるのが現実だが、それでも支払いがない場合は訴訟を提起する(今回は割愛)
より細かく見ていこう。
タイムカードだけではない労働時間の証拠
労働時間の証拠として使えるものの最たるものは、タイムカードなど会社の勤怠記録である。タイムカードが会社にあって、正確な時刻が打刻されているなら、タイムカードは手堅い労働時間の証拠になる。
しかし、残業代を支払わない会社は後から残業代を請求されないために、タイムカードを終業時間前におさせたり、そもそもタイムカードを置かない場合も多い。
そうした場合でもあきらめないでほしい。労働時間の証拠は様々なところに残っているものだ。
引っ越しはそもそも顧客との時間指定がある業種なので、労働時間の記録は比較的とりやすいだろう。たとえば、こんなものが会社に必ず残っているはずだ。
- 業務日報(どの現場にだれが何時までいたの記録)
- 配車の記録や運行表
- 社屋のセキュリティシステムの記録(セコムなど)
- タコメーター
- 顧客との通話記録
- 伝票類
- ETC記録
また、自分の手元にある次のような記録も有効だ。
- 自分でつけていた仕事の記録(毎日つけるのが大切)
- 家族などへの帰宅の知らせのライン履歴(「今から帰ります」)
- 会社とのラインやメールのやり取り
このように、様々な記録があり得る。会社にある証拠は、日ごろから写真を撮っておくなどしておくと後で役に立つ。
証拠が一部しかない場合、全くない場合も方法がある
さらに、証拠が一部しかない場合や、全くない場合でも、一人でも入れるユニオン(労働組合)に加入し会社に証拠の提出を請求すれことで、証拠が集められる。
ユニオンには団体交渉権があり、会社はユニオンからの申し入れに誠実に答えなければならない義務がある。前述した資料などは廃棄するはずのない資料であるため、ユニオンからの請求があった時に提出を拒めば、会社側は法律違反になるのだ。
請求書の書き方と送り方
未払い賃金請求書は、会社の代表者宛に送付する。その形式は、郵便局が書面の内容も含めて記録してくれる「内容証明郵便」を用いるのが一番良い。
内容証明郵便の書き方はこちらの郵便局のサイトを見てほしい。
請求書の典型的な書き方は次の通りだ。
前略
私は?年?月より貴社に雇用されて働いている労働者です。?年?月?日から?年?月?日までの間に未払い賃金が生じておりますので、下記の通りお支払いください。
草々
記
1.未払い賃金額 ○○○○円
2.振込先口座
○○銀行 ○○支店 普通
口座番号 ○○○○○○○○
3.支払い期限
本書送達より1週間以内
以上
請求書を送る前に専門機関に相談しておくことも大切
高額の残業代を未払いにしている会社の場合、請求書を送ってもすんなり残業代を支払ってくれるということは考えにくい。場合によっては嫌がらせが始まったりもするだろう。
請求書を送るまえにトラブルに備え、専門機関に相談しておくことをお勧めする。
労働基準監督署への違反申告、ユニオンの活用
実際に、請求書を送っても支払いがない場合には、労働基準監督署への通報とユニオンによる請求を考えたほうがよいだろう。
労働基準監督署は、労働基準法違反を取り締まる厚生労働省の機関で、書類送検する権限も有している部署だ。賃金未払いは刑事罰付きの労基法違反になる。労働基準監督署の是正指導に従わない場合、会社には刑事罰が付く場合もあるのだ。
参考:労働基準法上の刑罰
労働基準法第24条は、賃金を全額支払うよう定めており、違反した場合は刑事罰(30万円以下の罰金刑)が課せられ(同120条1項)、さらに時間外労働(1日8時間週40時間を超える労働)に対する割増賃金(残業代)の未払いの場合は、労働基準法第37条違反で、6ヶ月以下の懲役又は30万円以下の罰金刑になる可能性がある(同119条1号)。
またユニオンに加入して請求する方法も有効だ。ユニオンには団体交渉権だけでなく、団体行動権(ストライキ権)という特別な権利がある。団体行動権は、会社がユニオンの交渉に誠実に応じなかった場合、ストライキや宣伝行動を行い会社に要求を強く迫ることができる権利だ。
未払い残業代などの悪質な事件の場合、ユニオンの行動は、SNSなどを通じて社会的な共感を呼び起こすことがある。引っ越し会社などサービス業は社会的な評価が売り上げ与える影響も大きく、ユニオンの力が行かされる業界ともいえるだろう。
ユニオンの活動については下記の記事も参考にしてもらいたい。
参考:労働組合はどうやって問題を解決しているのか? 「ストライキ」は一手段
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*仙台圏で活動する「労働側」の専門的弁護士の団体です。