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ホームレス支援の活動を通して、「無縁仏とホームレス」について考える(後半)

明智カイト『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

都内でホームレス支援を行う「山友会」という団体が、クラウドファンディングを使って「無縁仏となってしまうホームレスの人々が入れるお墓を建てたい!」というプロジェクトを行いました。

「山友会」の油井和徳さんに無縁仏となってしまうホームレスの人々の背景についてお話を伺います。

→前半の記事はこちら

ホームレス支援の活動を通して、「無縁仏とホームレス」について考える(前半)

若い頃は日雇い労働者として東京の発展に貢献したホームレスの人たち

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油井 私たちの活動する山谷地域についてですが、この地域はよく知られるように簡易宿泊所と呼ばれる安宿の密集する地域です。その起こりは江戸時代から千住宿という宿場街の郊外であったこの地域に、木賃宿(きちんやど)と呼ばれた安価の素泊まり宿が多く集まっていたことでした。明治以降、都市化が進んだことに伴って地方から仕事を求めて上京した労働者が、こうした宿に宿泊しながら都市雑業を中心に様々な仕事をして生計を立てていました。

戦後の高度成長により土木・建築作業や港湾荷役作業の労働需要が非常に高くなったことに伴い、山谷地域には多くの日雇い労働者が集まり仕事を行っていました。多い時期には15,000人近くの人々がこの地域の宿に宿泊しながら、日雇い労働を得ていたようです。

しかし、バブル経済が崩壊した後で労働需要は急減し、さらに土木・建設業界では機械化が進んだことも相まって、この地域で日雇い労働を行い生計を立てていた人々の多くが失業し、路上生活を送らざるを得なくなってしまいました。1990年後半には1,000人以上の人々が山谷地域で路上生活をしていました。

その後、主にそうした方々の中で高齢になったり、病気になってしまったことにより、生活保護を受給する方が増えてきました。

これは日雇い労働で生計を立てている方が多かったために、一般のサラリーマンのように被用者保険に加入できず、また工事現場単位で数ヶ月間住み込みで働くことが多いという仕事の特性上、住所を定めることがしづらかったために国民健康保険にも加入できない、ということで病気、失業などの生活リスクを社会保険を始めとする公的保険制度でカバーするということはしづらい状況であったことが非常に影響しています。

併せて、生活保護を受給した後の住まいが絶対的に不足していました。そこで、例外的な対応として簡易宿泊所が、生活保護受給後の住まいとして活用されてきた経緯があります。

先日も川崎市の簡易宿泊所の火災で生活保護受給者の方が多く亡くなった事件がありましたが、簡易宿泊所に生活保護受給者の方が多く住んでいたのには、こうした背景があります。

現在は山谷地域の簡易宿泊所の宿泊者のうち9割近くの方が生活保護を受給し、宿泊者の平均年齢は約65歳、高齢化率も5割を超えるといった状況になっており、「日雇い労働者の街」から、「福祉の街」になったとも言われています。

このようにこの地域で起きてきたことは主にその時代時代の政治状況・経済情勢や、それにともなう雇用情勢のひずみによるものであり、つまりは社会的な構造による問題のように思えます。

ただし、ホームレス状態にまで至ってしまった人々が生活保護を受けられるようになったから問題が解決したかといえば、そういうわけではなく地域での暮らしに移った後、さまざまな問題が待ち受けています。

先程お話したように高齢者の方が多いですから、その多くの方は病気を抱えていたり、なかには介護が必要な方もいます。しかし、療養生活を支えてくれたり、介護をしてくれる家族はいない単身者の方がほとんどです。

アルコールやギャンブルに依存してしまう方もいます。特に、こうしたことは自己責任と片付けられてしまいがちですが、問題が放置されてしまうと健康状態や生活が破たんするだけでなく再び路上生活に戻らざるをえなくなってしまったり、挙句の果てには自殺や孤独死に至ることもあります。

このようなことから、貧困状態の根本的な問題は物質的な貧困状態ではなく社会的に孤立し誰からも必要とされないと感じてしまう、その孤独感であったり、貶められてしまった自尊感情にあるのではないかと私たちは考えています。

そこまで考える必要があるのか、というご指摘もないわけではないですがホームレス問題、ひいては貧困問題の本質的な解決を目指す私たちにとっては根本的な問題に目を向けていく必要性を切に感じています。

さらに私たちが山谷地域で出会ってきたホームレス状態にある方の多くは、さまざまな事情により家族や親族との縁が切れてしまって身寄りがない方たちです。なかには戦災孤児の方もいますし、恵まれない環境で育たざるを得なかった方もいます。

住民票のない「消えた子ども」や、貧困状態などの事情から教育を十分に受けられず貧困が世代間連鎖する、という問題がクローズアップされてきていますが、山谷地域で出会った方々の生い立ちなどを聞かせてもらうと、そうした問題がこの国が豊かに発展していく影で脈々と音も立てずに起きていたことを感じます。

このような事情から、この地域には「無縁仏」となってしまう方が多くいらっしゃるのです。

何らかの事情で社会的に孤立し、苦しくとも、辛くとも誰にも助けを求められず、また手を差し伸べられずホームレス状態であったり貧困状態になるまで追い詰められてしまった方々と、じっくりと信頼関係を築き本当の「きょうだい」や「友人」のような仲間となろうとお付き合いをしてきた方々が亡くなった後、再び誰もそばにいない孤独な想いをしてしまうのは放っておけない、というのが先程お話ししたジャンの想いなのだと思います。

恒久的な課題の解決を図るために共感の輪を広げていきたい

「お墓建立記念トークイベント」
「お墓建立記念トークイベント」

明智 今年5月には、「お墓建立記念トークイベント」を開催していますね。反響などはありましたか?

油井 ご協力いただいたみなさまには本当に感謝しています。

多くの方々に金銭的にもご支援頂いたのもこのプロジェクトの成果ではありますが、ご支援頂いた方のほかにも多くの方々に「ホームレス状態にある方の中に無縁仏となってしまう方がいる」という事実を知って頂き、こうした取り組みにご共感頂くことが出来たことは、とても励みになりました。トークイベントは、この企画の集大成でもあり、ご支援頂いた方から多くの方にご参加頂き、この取り組みの意義を再確認する機会になったと思っています。

ホームレスに限らず、血縁関係が途切れてしまった方の中には無縁仏となってしまう方もいます。日本のお墓の多くは血縁によって管理・維持されてきましたが一方でその仕組みから排除されてしまう人もいる。そうした中で血縁関係にとらわれないお墓があることで、死後も無縁となってしまう人を少なくできると考えました。この取り組みの意義のひとつには、お墓は、お骨を納める場所ということだけでなく、「亡くなった方と、生前親しかった方とのつながりの標」であるという意味と、そして、その意味を前提にすれば、お墓、さらには死後のつながりにも多様性が求められてくる可能性があるということを多くの方々と共有できたことだと思っています。今回のトークイベントは、そうしたことをオフラインで共有できた機会でもありました。

これまで私たちの支援は炊き出しなどで困っている方たちの命をどう助けるかということをメインに活動してきました。しかし、これからは地域の中で孤立させず暮らしていける環境を作り、どう彼らを支えていくかについて考える必要があります。

また、ホームレスの方たちに対する差別や偏見は根強くあります。そのため、一般の人たちに対して啓発活動を積極的に行い、共感の輪を広げていきたいです。ホームレス支援は恒久的に取り組むべき課題の一つです。この恒久的な課題の解決を図るためには多くの人たちに共感してもらう必要があります。そして、将来的には日本の地域の在り方、社会の在り方を変えていきたいと思っています。

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山友会

東京都の台東区・荒川区をまたぐエリアにある通称「山谷地域」で、1984年から無料診療、生活相談、炊き出し・路上訪問、宿泊支援などのホームレス支援活動を行っている団体。

『NPO法人 市民アドボカシー連盟』代表理事

定期的な勉強会の開催などを通して市民セクターのロビイングへの参加促進、ロビイストの認知拡大と地位向上、アドボカシーの体系化を目指して活動している。「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」を立ち上げて、「いじめ対策」「自殺対策」などのロビー活動を行ってきた。著書に『誰でもできるロビイング入門 社会を変える技術』(光文社新書)。日本政策学校の講師、NPO法人「ストップいじめ!ナビ」メンバー、などを務めている。

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