『大怪獣のあとしまつ』で、怪獣の死体処理の大変さを実感したので、『ウルトラマン』の場合を考えてみた!
こんにちは、空想科学研究所の柳田理科雄です。マンガやアニメ、特撮番組などを、空想科学の視点から、楽しく考察しています。さて、今回の研究レポートは……。
映画『大怪獣のあとしまつ』が話題を呼んでいる。筆者は封切り初日に見てきたのだが、なかなかスゴイ映画であった。
都心に大怪獣が出現して大暴れ。攻撃はまったく通じない。そこへ閃光が走り、怪獣は胸に大きな傷を受けて絶命した。凶暴な怪獣が死んでくれて助かったけど、その死体は、千葉県北部の川に横たわったまま。さあ、それをどうする……?という物語だ。
「死んだ怪獣をどうするのか問題」は、筆者も子どもの頃から気になって仕方がなくて、原作を担当したマンガ『空想科学大戦!』(作画は筆吉純一郎さん)でも触れたことがある。また、最近では『怪獣8号』など、この問題を真正面から扱った作品も増えてきて、「ああ、みんな気になってたんだなあ」としみじみ感じていたところに、この映画。スバラシイ着眼点とタイミングであった。
◆トラック7万3千台が必要!
怪獣の死体処理が大変なのは、まず重量がハンパではないからだ。
初代のゴジラや『ウルトラマン』のレッドキングの体重は2万tだったが、『大怪獣のあとしまつ』の怪獣(その名は「希望」というらしい…)は、そんなモノではない。
死後硬直により天に突き上げた右脚の高さが155m、体長は380m。これを元に筆者が推測すると、この怪獣が直立した場合の頭頂高は194mで、体重は73万tほど! なんとゴジラ36.5匹分というデカさである。
これほど大きな死体となると、10tずつに切り分けて運び、処分するにしても、10t積みトラックが7万3千台必要だ。その一点だけを考えても、もうどうしていいのやら……。
だが劇中、死体の切り分けは行われなかった。
担当する特務隊が死体を調査していたところ、皮膚が破裂して体液が噴き出したのだ。さらに後日、体の表面から「膨張隆起」と呼ばれる風船のようなものが膨れ上がり、破裂して猛烈な悪臭のガスが噴出した。
同じような現象は、現実世界でも起きている。劇中では「東京湾でクジラの死体が爆発したことがある」旨が語られていたが、インターネットなどで見られる映像には、たとえば2004年に台湾の街なかでマッコウクジラ(17m・50t)の死体が爆発したものがある。大学に運んで調査しようとする途中の爆発だったようだ。
これを考えると、腐敗が進んでしまった巨大怪獣を切り刻むのは、確かにキケンすぎるだろう。それゆえ劇中では、さまざまな作戦が考案されるが、なかなかうまく行かず、時間だけが過ぎていく……。
前述のように、新鮮なうちならおススメの切り分け処理でも、トラック7万3千台という壁がある。映画では、他の方法も難航し、事態が混迷化していくが、確かにそうなるかも……という説得力があった。
にもかかわらず、この映画に対して違和感を覚えてしまう人が多いのは「誰もが子どもの頃に抱いた疑問」を、「大人の目線」で描いたからかもしれない。想定外の事態が起これば、国を挙げて右往左往し、人間関係にもさまざま亀裂が入るだろう。しかしそれは、子どもの頃に気になった問題とはかけ離れている。
ここは悩ましいところだ。筆者も『空想科学読本』などで、子どもの頃から気になっていた問題を、「科学」という大人目線で考察してきたが、そこらへんのサジ加減がいかに難しいかは身に染みている。もう25年も続けているのに「子どもの頃の自分もナットクするだろう」という原稿をいったい何本書けたか……。
◆ウルトラマンの対処は?
いずれにしても、怪獣の死体処理がいかに大変かは、この映画がしみじみ描いてくれた。それは充分に伝わったと思う。
その結果、筆者がぜひとも考えたくなったのは、怪獣退治の元祖・ウルトラマンの「怪獣死体処理問題」である。M78星雲からやってきたあのヒーローは、倒した怪獣をどうしていたのだろうか。
そこで筆者は『ウルトラマン』全39話を見直してみた。
第1話、ベムラーをスペシウム光線で爆破、第2話、バルタン星人をスペシウム光線で焼却……とすべてを見直してみると、ウルトラマンが「地球上で倒した怪獣」は28匹である。
そのうちもっとも多いパターンは何だと思います?
筆者は「スペシウム光線で爆破」だろうと思っていたのだが、意外にもそれは第2位。
いちばん多かったのは、怪獣が死んだのを見ると、「シュワッチ」と空へ飛んでいく、という展開。すなわち「放置」である!
たとえば、ジラースはえりまきをむしり取って、撲殺した後、えりまきをその死体にかけると、そのままシュワッチと空に消えた。
レッドキングは2回登場したが、1匹目はウルトラ一本背負いで動かなくなったのを見ると、そのままシュワッチ。2匹目は水爆を飲み込んだ頭部だけを宇宙へ持っていき、胴体以下はそのまま放置された。
大阪で暴れたゴモラは、スペシウム光線で動かなくなると、本体は大阪城の近くに置いたまま、切り取られた尻尾は中之島あたりに置いたまま、シュワッチと飛び去った。
こんな感じの「倒した怪獣は放置」パターンは13回もあり、放置率はなんと46%だ!
次に多いのが「木っ端微塵に爆破」で11回。ネロンガ、スカイドン、アボラスなどがこのパターンだが、バラバラになったとはいえ、安全に処分するには破片を回収しなければならなかったはずで、後始末が大変だったことだろう。
また「焼却」が2回あって、それはバルタン星人とグリーンモンス。どちらもハデに燃え上がっていたが、未知の生物を焼いて、有毒物質が発生したりしなかったのだろうか。
さらに「海への投棄」というのもあり、ゲスラとラゴンがこのパターンだった。なんか、めちゃくちゃマズイ気がする……。
そして、この28匹の合計体重は86万2千t。なんと『あとしまつ』の死体73万tを上回る!
科学特捜隊は、黄金怪獣ゴルドンの死体から150tの純金を回収して、被害を受けた村にそれをあげたり(科特隊にそんな権利があるのか?)、地球人が怪獣化したジャミラの墓を建ててやったりしていたから、他の怪獣の死体も、ちゃんと処理していたものと思われる。ウルトラ怪獣のあとしまつをしていたのは、たぶん科学特捜隊! 本当にお疲れさまです。
ただし、ウルトラマンにもいいところはあって、バルタン星人の同胞20億3千万人が乗った円盤は、宇宙に持ってって爆破したし、ガヴァドンとシーボーズは宇宙に返してやった。ぜひ、すべての怪獣に、そうしていただきたかったと思う。
――という具合に、『大怪獣のあとしまつ』を見ると、これまでに見てきた特撮映画の楽しみ方も増えるわけで、それは嬉しいことである。