「中国に謝罪した外国企業は82.7%」――屈辱の数字を弾き出した豪による「中国強制外交」傾向と対策
オーストラリア政府が出資する有力シンクタンク「オーストラリア戦略政策研究所」(ASPI)はこのほど、「中国共産党の強制外交」と題する報告書を発表し、過去10年間の分析を記した。このうち「強制外交」と判断したものが152件あり、「人質」やボイコットなどのほか、他国企業に屈辱を与えて謝罪させる例もあったという。ASPIは「中国の脅威には、志を同じくする国が連携して対処する必要がある」と提言している。
◇八つの分類
ASPIは近年の中国共産党による威圧的な対外姿勢を「強制外交」と名づけ、「非軍事的強制」「ターゲット国に行動変化を強制するための脅威の使用」と定義している。
過去10年間を調査した結果、米国、カナダ、オーストラリア、ニュージーランド、東アジア諸国など27カ国と欧州連合(EU)に対する措置が計100件、特定企業をターゲットにしたものが計52件あったという。2018年以降、特にこうした強制外交が急拡大していると分析している。
国・地域別ではオーストラリア(17件)、カナダ(10件)、米国(9件)、スウェーデン(7件)、日本(6件)――の順に多い。一方、発展途上国の多くが中国共産党を政治的に支持しているため、途上国に対して強制外交が取られた例は数件しかない。
報告書は強制外交の手段を二つに大別し、八つの項目に分類した。(カッコ内は件数)
(1)経済的措置
外国企業への圧力(52)、貿易制限(19)、観光制限(17)、商品などのボイコット(5)、投資制限(3)
企業に対する圧力の多くは▽中国共産党が国内消費者に反発を促す▽ウェブサイトをブロックする▽罰則を追加する――などの方法でかけられている。その結果、報告書は「企業の82.7%が、おおやけに謝罪したか、あるいは中国の指示に従った」と指摘している。企業が属する国の対応が、ほとんど役立っていなかったことが浮き彫りになっている。
中国は、世界の約3分の2の国にとって「最大の貿易相手国」であり、このポジションが中国に大きな優位性を与える結果となっている。
(2)非経済的措置
大使館などを通じた国家による脅迫(34)、公務による渡航の制限(14)、恣意的な拘留や処刑(8)
ここで言う「国家による脅迫」は中国の外交官や大使館などが公式声明などで相手国を脅す行為。声明には「対策」「報復」「苦痛」「さらに反応する権利」などのあいまいな用語が使われている。ここでは中国共産党の“マウスピース”として使われる国営新華社通信や人民日報系の環球時報、政府系英字紙チャイナ・デーリーなども重要な役割を果たしている。
◇協調して中国に向き合う必要性
中国共産党がこうした措置を用いることにより他国の望ましくない行動を罰し、領土の主張を維持したり、中国の通信機器最大手・華為技術(ファーウェイ)を次世代通信規格「5G」通信網に参入させたりするなど、国益拡大を図っているとASPIはみている。
そのうえで報告書は「強制外交に対抗し、世界の安定を維持するためには、各国政府や企業による協調的、持続的、国際的な取り組みが必要だ」と力説する。
具体的には、強制外交に関する世界的な状況認識を高める▽各国が行動を調整するための多国間フォーラムを設立し、協調して中国に対処する▽機密情報を共有するグループ「ファイブアイズ」の構成国(米英豪3カ国とカナダ、ニュージーランド)が集団的な経済の安全策を検討する必要がある▽企業への措置に対抗するため、ビジネス業界と協力して行動計画を練る――などと提言している。